20 3番目の男

「クセェ」


 3番はようやく見つけた水場に喜び、飛び込んだ。魔物の血液で誤魔化してはきたものの、限界は近かったがゆえに。

 しかし水が臭い。

 生臭い。

 血液とは別種の生臭さ。

 その生臭さ、圧倒的。


 水場に飛び込んだせいで、沈殿していたヘドロが混ざり合ってしまった。全力が仇になったことに、気付いては──いない。


「腹が……イテェ……クソがぁ……」


 速攻で水にあたる3番目の男。上手く噛み合うことの多かった全力全開にも、外れはある。今回はたまたま外れだった。しょぼくれた声になっても仕方がない。

 しかし貴重な水。

 逃す手はない。


 3番は持ち運ぶ手段を考える。その結果、魔物の胃袋を利用すれば、運搬が可能なのではないかと思い付いた。天啓にも等しいアイデアに、彼は魔物を探して近辺を彷徨うことにした。

 しばらくはここを拠点に活動しよう、と。


 だがここは貴重な水場。

 弱者に利用権利はない。


 咆哮が轟く。それは、この水場を独占していたアースドラゴンのもの。


「クソトカゲがぁッ!」


 3番も吠える。全力全開の全裸男、3番。

 度重なる戦闘で全裸になっているのも仕方はない。

 そして度重なる戦闘で、彼の力量も上昇していた。アースドラゴンさえも、一瞬怯ませるほどの──迸る魔力。

 どちらが上か。

 どちらがこの水場を使用できるのか。

 戦いの火蓋は切られる。


「クソがぁ。俺様がサイキョーなんだよ!」

「グルルル」


 その結果3番が勝利し、アースドラゴンは彼に従った。

 否。

 従う振りをした。


 ちょうどいい剣を渡され、気をよくした3番目の男は水場の主として君臨する。

 ドラゴンに比べれば人の使う水の量など、たかが知れている。調子に乗せておけば、煩わしい魔物も勝手に始末してくれるだろう。

 ついでにこっそりと魔力も奪えば、自身の強化にも繋がると考えるアースドラゴン。アースドラゴンは賢く、3番は愚かだった。


 久しぶりの支配感に酔いしれる3番は、なにも気付かない。

 アースドラゴンは一計を案じる。本来の宝物ほうもつではなく、ただの見せ宝物ほうもつを見せた。

 彼はこれが俺のものと高笑いしている。


 ただの金銀財宝。

 持ち運ぶ術などないというのに。

 異空間系マジックアイテムでも所持していれば可能だっただろう。しかし今の3番、全裸なのだ。

 そしてこの場では金銀財宝など使い道はない。


 男神ミフルーは、ほんの少し、ほんの少しだが、3番目の男に加護を与えそうになった。


「フスー、フスーッ、髭面の全裸男が狂喜乱舞しておる……」


 男3番、全力でゆくチャンネル。

 それがあれば、ミフルーはスパチャしていたかもしれない。

 しかも赤いヤツだったかもしれない。


 3番は水を発見した!

 しかし水は痛んでいる!

 3番は毒に侵されてしまった!

 アースドラゴンがあらわれた!

 3番はアースドラゴンをやっつけた!

 アースドラゴンはトモダチになりたそうな雰囲気を見せている!

 3番はアースドラゴンを舎弟認定した!

 3番はイツワリノトモダチモンスターを手に入れた!

 3番の文明力が1上がった!


 彼の行く末は、ミフルーだけが見ている。

 ミフルーは、全力で抗う者を好むがゆえに──ドツボにハマった。




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あとがき

読んでいただきありがとうございました!


推しキャラ転生はしゃーわせです

https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178

コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)

https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380


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