19 オモチは農業大臣に任命します

「準備完了しましたっ」

「オッケー。それじゃオモチ、案内してね」


 クゥと返事するオモチちゃん。可愛い。抱っこして撫でまくりたい。しかしホノカ様が言う。あんまり構い過ぎるのは、オモチちゃんの負担になるんじゃないか、って。


「た、確かに……」

「私たち、チョット撫でまくり過ぎた。ごめんね、オモチ」


 しかしオモチちゃんは特に気にした様子もなく、拠点の外に行きたがっている。ホノカ様が行きたい方向を手か尻尾で指すように言えば、即座に理解して指さした。楽しそうだな、オモチちゃん。尻尾フリフリも機嫌がいい感情の表れなのかも?

 サイコキネシスでの飛行も、特に恐れている様子はない。


「オモチは好奇心旺盛なんだね」

「飛び降りたのには焦りました……」

「あの高さから飛び降りて平気だと思ってるのか……」


 妖精だから平気?

 オモチちゃんがいける気がしてるだけ?

 どちらにせよ、危ないので叱っておいた。ホノカ様がすぐ捕まえたので平気だったけど、かなりヒヤッとしたし。


 しかしオモチちゃんはなにも気にしていない。ホノカ様が言うには「オヤノココロコシラズ」というものらしい。

 高いとか低いとか、そんなのどうでもいいから早く果物を取って欲しいみたい。


「仙桃、リンゴ、ザクロ、ベリーにオレンジ。オモチは天才っ」

「凄いね、オモチちゃん!」


 オモチちゃんもクルクルクルクル喉を鳴らして、ご機嫌の様子。仙桃が好物のようで、他に比べて数が多かった。ただ、インベントリのことはよく分からなかったみたいで、消える果実を前に悲しそうな声を上げていた。ホノカ様が何度か出したり仕舞ったりすることで、理解したみたい。頭もいいな。


 薬草も必要なことを伝えると、ちゃんと案内してくれる。その結果、いくつかの群生地も新たに発見できた。空から見て作った拠点周りの地図に、印を増やす。これで丸薬も、もっと増やせるだろう。


「オモチのおかげで拠点のレベルが上がりそうっ」

「ひょっとして果樹も育てられちゃうのではっ」


 私の言葉に胸を張るオモチちゃん。


「オモチっ」

「オモチちゃんっ」

「オモチは農業大臣に任命します」

「当然ですね」


 私たちは拠点に戻り、種を見せる。オモチちゃんは仙桃の種を選んだ。なんか嬉しそうだな。あ、でも2個しか持ててないから、オモチちゃん用のバックパックも作ったほうがいいかもしれないな。


「肥料もあったほうがいい? オモチちゃん」

「クゥッ」


 欲しいみたい。ホノカ様と相談して、果樹スペースを決めよう。私たちのお家の周りは、教会と露天風呂がある。他にも建築するかもしれないし、ジャガイモ畑に影を落としてもいけない。


「裏の崖でもいいんじゃない? 整地して土ブロックを敷き詰めようよ」

「こ、これが火力こそパワーと言うヤツなんですねっ」

「そう! 火力こそパワー!」


 私にはまだ、いい感じに地面を削って利用するという発想にならないみたい。

 整地。

 ホノカ様と行動するなら覚えておかなくちゃ。


「マイが整地したほうが素材にしやすいし、収納箱にも自動で入るから頼もうかな」

「お任せ下さいっ」


 オモチちゃんには待っててもらおう。今日中に終わるかどうかも分からないし。それを伝えると、仙桃の種を割り始めた。芽が出やすくなるのかもしれないな。

 オモチちゃんも準備を始めていることだし、私もさっそく整地に取り掛かろう。


「あらかじめ私が大雑把に削っておくねー」

「はーい」


 ゴソっと削られた岩を、1段階強化されたクラフターズハンマーで壊す。ここら辺にある岩なら、2回叩けば素材として収納箱に入るようになった。私は着実に力を付けてきたみたい。

 仙桃だけを植えるわけでもないだろうし、どんどん広げていこう。ホノカ様は裏山を果樹園にするつもりみたいだし。階段と木の柵なんかも用意しておこうかな。


「マイ~! そろそろお昼にしようよ」

「はーい、分かりましたー!」


 果樹園候補地をある程度広げたところでお昼ご飯に呼ばれた。失敗だ。ホノカ様にお昼を作らせてしまった。私は建築ができないから、雑事だけでも引き受けなくちゃいけないのに。謝ったら、気にするなとのこと。


「だってかまどで食材選ぶだけじゃん?」

「そうですけど……」

「私がやらなくちゃ。この考えが、私たちのダメなところなの! 改めるべきっ」

「は、はぁ」

「さては分かってないな? マイちゃんさんよ。私は社畜、マイはワーカーホリック。これはね、やらなきゃっていう思いが強すぎるからなんだよ?」


 スローライフには残しちゃ駄目な思考らしい。緩く楽しく生きなきゃねって、ホノカ様が力説した。


「オモチに合わせるくらいでいいんじゃないかな」

「分かりましたっ」


 そういえばオモチちゃんはどこ行ったんだろう? そう思って視線をさまよわせると、万能作業台の収納箱に頭を突っ込んでいた。オモチちゃんも中身を出せるみたいだ。トモダチって万能作業台に認識されたからかもしれない。これはカミノミゾシルのヤツだ。


「天気もいいし外で食べよう。オモチ~、ご飯にしよーおいでー」

「あ、仙桃とリンゴ持ってます。果物しか食べないのでしょうか」

「どうなんだろうね。見た目はイタチ系だし肉食の気はするんだけど……妖精だしなあ。完全に謎かも」

「アリーシャさんに見てもらったほうが、いいかもしれませんね。食べられないものを与えちゃう可能性もありますし」

「ご飯食べたらエゼルテーの街に行こう」

「了解です」


 オモチちゃんにもその旨を伝える。なので種は収納箱に仕舞っておくようにお願いした。まだ果樹園ができてないし、今日は街に行くし。

 明日には植えれるように整備したいな。


「「いただきまーす」」

「……クルル~」


 手を合わせる私たちを見て、それを真似するオモチちゃん。

 どれだけ私たちを駄目にすれば気が済むというのか。

 なんて恐ろしい妖精さんなんだ。


「「ごちそうさまでした」」

「ププクゥ-」

「オモチちゃん偉いですね~」

「モチィ~、モ~チ~」


 ごちそうさまも覚えたようだ。そんなオモチちゃんを見ていると、デザートを食べなくても満足できた気がする。不思議だ。幸せであれば、甘くなくてもよい。ということなのかもしれない。

 幸せも調味料の一種なんだろう。願わくばオモチちゃんにも、コーヒーロールケーキの幸せを受け取って欲しいな。あれはあれで至高の幸せなのだから。


「マイ、オモチ用のリードとキャリーバッグを作って欲しい。街中を移動するには必要だと思うんだ」


 そう言ったホノカ様が、どんなものなのか説明するために地面に絵を描いてくれた。オモチちゃんにもなぜ必要なのかを説明してる。


「そうですよね。オモチちゃんがどこかに行っちゃうと、探すのが難しいですし」


 それに攫われたらって思うと……怖い。


「基本的に私たちのどっちかに、乗っててくれたら問題ないけどね」


 自分で歩きたいかもしれないし、とのことだ。オモチちゃんも分かってくれたみたいで、返事をしてくれた。洗い物はホノカ様がするそうで、その間にクラフトして欲しいそうだ。

 雑事だからと言って、マイがやらなきゃいけないことではない。だって。時短にもなるから分担しようと言ってくれた。


「なるほど、スローライフですね!」

「うん。そう! ン? 時短はスローライフ?」

「私には分かりませんが」


 スローライフじゃないかもしれないそうだけど、脱、シャチク&ワーカーホリックだそうだ。

 頑張ろう。


 オモチちゃん用のリードは、万能作業台でクラフトできるものじゃない。だから革紐をクラフトして、それを編むことになるかな。バックパックを作って、そこに結ぶ形が早いかな。うん、そうしよう。


 オモチちゃん用途でクラフトすれば、万能作業台が万能っぷりを発揮してくれる。私とホノカ様の微妙なサイズ違いもクラフトできたし、大丈夫だろう。

 万能作業台もグレードアップしたし、作業時間は更に短縮されている。ホノカ様が洗い物を終わらせる頃には、オモチちゃんのバッグとリードも完成するはずだ。キャリーバッグはオモチちゃんが入れるサイズのバッグだし、ショルダーバッグで代用できるかな。伸びれば長いオモチちゃんだけど、問題ないはず。


「オモチちゃん、こっち来てー」

「キュキュ」

「オモチちゃんの装備を作るから、ここにいてね」


 ナデナデすると機嫌よさそうに喉を鳴らしている。オモチちゃんは撫でられるのも、抱っこされるのも好きみたいで私たちには嬉しい性格だ。ホノカ様も私も、オモチちゃんを構い倒したいのだし、それを喜んでくれるのなら、3人が幸せになれるのだから。


「できたっ。オマケで青色のスカーフも作っちゃった。着けてくれる?」

「プゥプゥ」


 いいみたい。よかった!


「こっちも終わったよー。じゃ、さっそく向かいましょうか」

「はいっ」

「キュッ」


 私たちのバックパックも用意して、回復の丸薬も15個入れる。

 さあ、エゼルテーの街へ行こう。

 飛行のフォーメーションは、オモチちゃんをホノカ様のショルダーバッグに入ってもらって、ホノカ様を私が抱っこする形。

 安全第一だ。

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