18 私たちはなにかに魅了されていた

「キミはいったい何者なのかな?」

「かっ、かわっ、かわっっ」


 ネクタルが入っている発酵ダルの上の、可愛い白い塊。


「油断しないで、マイ。鑑定でなにも見れないんだから」

「で、でもホノカ様っ、可愛いですっ」

「か、か、か、可愛くてもただの動物じゃないっ、ヤメテェ、ソンナ、カワイイ、ウゴキィ」


 タルの上でクルクル回って立ち上がり、プゥプゥ鳴きながらおねだりするみたいに両手を揃えて上下に振ってる。


「イタチならイタチって出るだろうし、オコジョならオコジョって出るだろうし、フェレットだってフェレットって出てよ、私の鑑定っ!」

「クゥ~?」

「かか、かっ、かわっ、かわっっ」

「首傾げちゃダメェっ」


 私たちはなにかに魅了されていた。

 だって可愛すぎる。

 悪魔だったとしても許せちゃう。

 クルクルクル~、ピョンピョンピョン、タシッタシッ。

 クルクルクル~、ピョンピョンピョン、タシッタシッ。

 発酵ダルの上で繰り返される可愛い動きに、クゥクゥプゥプゥという可愛い鳴き声。


「た、たとえ悪魔だとしてもっ」


 あ、ホノカ様も同じこと考えてる。


「しし、仕方ありませんよっ」


 そんな風に、私たちが可愛さに悶えるだけの生物になり果てたせいか「キュッ」と鳴きながら私に飛びかかって来た。話がちっとも進まないと思ったのかもしれない。私は髪の毛を引っ張られ、発酵ダルの前に連れて行かれた。


「マ、マイ? マイだけ? 私はっ? 私もっ」


 ちょっとだけホノカ様に自慢したくなった私を抑え、この子の行動の意味を2人で考える。

 とはいっても、そんなに考える必要もなかったけど。


「ネクタルが欲しいんでしょうね」

「うん。まだタシタシしてるし、両手でおねだりしてるし」

「あげてもいいですか? 高く売れそうですけど」

「仙桃があれば作れるし、こんなに欲しがってるんだもん。あげようよ」

「はいっ!」


 できあがったネクタルを発酵ダルから取り出す。7日掛けた5つのネクタルは、とても小さい果実のようだった。


「グミの実みたい。ネクタルって飲み物だと思ってたんだけどな?」

「そうなんですか?」


 触ってみるとプニプニとした触感だ。中身は果汁が詰まってるのかもしれない。


「わっ!?」

「くうっ、いいな、マイ」


 私の身体をよじ登って、首に撒きついてプゥプゥ鳴いてる可愛い動物。


「はい、どうぞ?」


 ネクタルを渡すと、両手で受け取って一口で食べちゃった。そして興奮したように部屋の中を走り回り、また私によじ登った。


「プゥ~」

「はわぁっ!」

「羨ましいんだけどーっ!?」


 私のほっぺにスリスリする可愛い動物。

 そのとき、私の万能作業台のタブレットが宙に開いた。


「「え?」」


 そこに書かれた文字は、森の妖精をトモダチにしますか? という文字と、30から徐々に減っていく数字だった。

 私とホノカ様の視線が合わさる。25。

 同時に頷く。20。

 私は「はい」を慎重につつく。10。

 私たちは森の妖精をトモダチに加えた。


「この7日の間に文字を覚えててよかったです!」

「休憩いっぱい取ろうとしてゴメンっ!」

「いえいえ~」

「あはは、ふふ。マイの頑張りに乾杯っ!」


 私が文字を覚えていなければ、この可愛い森の妖精とトモダチになることができなかったかもしれない。私たちは2人で、千載一遇のチャンスをものしたと──確信している!


「名前っ、名前どうしましょう、ホノカ様っ」

「うーん……うーん」


 私とホノカ様の指にじゃれついてる可愛い森の妖精。名前も大事だ。


「お餅?」

「オモチですか?」

「うん。なんとなく白くてプニプニしてるお餅が浮かんだ」


 食べ物なんだけど、言葉の響きも可愛いし、どうかとホノカ様に問われる。


「可愛いと思いますよ? オモチちゃん。いい? あなたのお名前はオモチだよ」


 私を見たあと、クルルルル~って鳴きながら指にスリスリするオモチちゃん。ホノカ様の手にもスリスリした。


「きゃー! よろしくね、オモチっ」

「あれ? なんだか……開け……る? ような気がします」

「マイ?」

「いえ、万能作業台のタブレットが開けそうな」


 じゃあやってみればいいじゃないというホノカ様に従って、開こうとしてみた。なんとなく頭に届く、タブレットの開きかた。

 指先で摘まむように合わせた、人差し指と親指を開く。


「おぉ~」

「開きましたっ」


 作業台の側じゃなくても、収納箱の中身が確認できるようになった。あ、オモチちゃんの情報も見れる。


「オモチ。森の妖精、働き者でお調子者……女の子。農作業のお手伝いが可能。だそうです」

「お調子者……」

「ホノカ様。地球人、社畜……? え、ホノカ様にもお調子者って書いてありますっ」

「シャチク…………シャチ……スローライフよ! スローライフを目指せっ!」


 私の情報はないのか聞かれたけど、話すのは恥ずかしい。しかし2人の情報を話してしまったんだ。言うしかないだろう。


「マイ。犯罪奴隷から生まれた元鉱山奴隷。クソ真面目、ワーカーホリック、考えなし……」

「スローライフ、一緒に目指そうね。マイ」

「わ、私っ、少しは考えるようになったと自負しています!」


 あ、今気付いた。万能作業台がグレードアップしてるみたいだ。新しい作業台は錬金。錬金作業台が追加されて、収納箱のページが1ページ増えている。10列7段で6ページ目まで。


 正直に言えば、こんなに収納できたってしょうがないと思ってた。でもそれは間違いで、既に4ページ目の半分まで埋まっている。足りなくなる未来が近付いていた。


「万能作業台のグレードアップで、錬金作業台が増えてました。どうやら魔法のアイテムに関する作業台のようです」

「おー、ついに来たね!」


 クラフターズハンマーも魔法のアイテムのような気がするけど、違うカテゴリーになるのだろうか? なるかもしれないな。魔法がどうとかっていうアイテムじゃないし。私的には神器としか思えないし……。


「それでそれで? なにが作れるようになってるのかな?」

「え……っとですね…………」


 簡易的な収納箱である、収納棚が作れるみたい。あとは罠の威力が上がるみたいだ。爆炎、氷結、竜巻という3種類の魔法の罠が増えていた。


「それに加えて、クラフトには魔石が必要みたいです」

「なるほどねー。収納棚は便利そうじゃん。石材は出しっぱなしになっちゃってるしさ。種とか花みたいなのは収納棚に入れるほうがいいかもね」

「はいっ」

「ところでネクタル。どうしようか? アリーシャさんに見てもらう?」

「詳しい鑑定結果、欲しいですよね」


 クルルル~とかご機嫌のオモチちゃんを撫でながら、もしかしたらもっとトモダチを増やせるんじゃないかっていう思いが、私とホノカ様にはあった。私のはなんとなくの感覚。万能作業台から来る感覚だ。ホノカ様のはゲームの定番から来る記憶だそう。

 でも、違うトモダチが増やせるなら、それは素晴らしいことだと思う。


「可愛いだけじゃなかったですもんね」

「うん。オモチはできるヤツだった」


 農作業のお手伝い。森の妖精ということもあって、私たちよりいい感じに農業を行えるのではないだろうか。


「オモチちゃんは農業が得意なの?」

「プゥー」

「これは完全に、私たちの言葉を理解してるよ。スゴイ! モチ~」


 オモチちゃんはテーブルから飛び降りると、こっちを振り返りながら畑へと私たちを誘導する。

 そして──


「キュッ」


 ──なにかの力を使ったようだ。ジャガイモ畑に魔力の籠った光が降り注いだ。


「クゥ~」

「ふふふ、自慢げで可愛い」

「私の鑑定じゃなにしたのか分かんないけど、いい感じにしてくれたんだろうね!」


 ありがとうって2人で撫でまくった。

 オモチちゃんは、私たちを駄目にする可愛い森の妖精さんだった。


「ン? まだなにかあるのかな」

「ですね。拠点の外に出たそうにしています」

「あっちに行きたい? モチ」


 プゥプゥ鳴いて返事をするオモチちゃん。出るなら罠の状況も確かめたいし、採取もしていきたいな。私はホノカ様にそう伝え、火起こしと湯沸かし用の石を準備する。


「マイの準備が終わるまで待っててね、モチ~」


 うう、私もオモチちゃんと戯れたい。急ごう。



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※ホノカが「モチ」と言っている場合、餅の発音ではなく、アクセントは箸とか稲とか蛸と同じです。

 それがどうしたって言われると、ぐうの音くらいしか出ませんが。

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