17 コーヒーロールケーキが至高

「私も建築できたらいいのですけど……」

「こればっかりはどうしようもないね」


 ホノカ様のサイコキネシスがなければ、建材ブロックが動かせないから。せめて任意の場所に収納箱から素材が出せたらな。


「作業台も全部解放されてるわけじゃないし、そのうちできるようになるのかもね」


 あと2つ。半透明のままの作業台が残っている。ホノカ様がいうには魔法系の作業台なんじゃないかということだ。この2つの作業台が作れるようになれば、万能作業台が完成するんじゃないかと教えてくれた。


「万能作業台のグレードアップってなにをやったらできるのか謎です」

「なにしたらグレードが上がったの?」

「うーん、これと言って……」


 ない。

 しいて言うなら、色々クラフトしたというくらいだ。あとは……クラフトした罠を使って戦闘したくらい?

 それをホノカ様に伝えると、ゲーム的経験値でレベルアップなのかもしれないと考察していた。


「罠をもっとばら撒いておくのもいいかもね」

「今日もそこそこ撒いてますけど、もっとですか?」

「魔物がいっぱい罠に掛かれば、その分マイのレベルも上がるという考え、かなあ」


 それなら早めに罠を仕込んでおくほうがいいということで、トゲ罠を拠点周りに撒いておくことにした。強力なクマ罠は、私たちが掛かると危ないので目印も一緒に付けておく。といっても2段積み重ねたブロックを置いておくだけだけど。


「生肉生産工場がそのまま使えたら楽なんだけどなあ」

「なんですか? それは」


 聞いてみたら、魔物のリポップを利用した罠で、素材を効率的に獲得するためだけのものらしい。深い落とし穴の中に爆炎の罠を設置するのだとか。


「ゲームじゃないので無理なのでは」

「短時間ではリポップしなそうだから無理だろうねえ」


 そもそも魔物ってどうやって生まれてるんだろう? いつの間にか湧いてるっていうイメージしかないな。


「よし、設置終わりました」

「オッケー。じゃあ教会づくりの続きに戻ろう」


 私は建材ブロック。ホノカ様は建築の再開だ。教会の幅も修正したし、どんどん積み上げられていくブロックが、徐々に教会の形を作っていった。


「仮組みだけでも形って分かるものなんですね」

「そうなのよ。私、結構この段階が好き~」

「ワクワクしてきますね!」


 最終的に、奥側にも左右対称に小部屋が作られるようだ。神父様の執務室みたいなものと、休憩所をイメージしたそうだ。屋根は切妻きりづま屋根という左右対称で斜めのもの。本を開いてうつ伏せに置いたような形だ。それから教会の四隅と、塔の天辺はとんがり仕様にするそうだ。その素材に、繋がる円柱、繋がる石の手すり、繋がる鉄の柵をクラフトして欲しいと頼まれた。


 繋がるシリーズは不思議な建材で、自動的に形が変わって繋がっていくもの。とても便利に使えるのでいっぱいあってもいいらしい。これを使って、ブロック建築のガタガタを、滑らかに見せるテクニックだそうだ。


「マイの建材同士じゃないとくっ付かないからね」

「なるほど。強度に関わりますもんね」

「そそ」


 塔の1階部分の入口。手前がアーチ状の入り口で、教会に入る入口を奥に着けてある。それに合わせて大き目の白いドアを注文された。


 そして中はというと、床は重厚な黒の大理石。神父様がお話する場所は1段高くする。中央には赤い絨毯を敷くそうだ。

 ステンドグラスの窓を囲むように、アーチ状の壁と円柱を配置。窓の手前には見た目にも綺麗な観葉植物を置いて華やかに。


「ベンチも壁と合わせて白がいいかなあ?」

「気の素材そのままでも素朴でよさそうです」

「悩むねっ」

「はいっ」

「とりあえず先に屋根を付けちゃおう。現実じゃ雨も降るだろうし、野ざらしはマズい」

「分かりました!」


 私たちは屋根の色でまた迷った。

 でもそれは、楽しい迷走。

 ウキウキとワクワクが詰まっている。


 観葉植物に合わせて明るい緑色もよさそうだったが、染色用の素材の都合で青色の屋根になった。緑色は石材から取れなかったので。

 絨毯用の赤と、屋根用の青。染色ダルも作ってあった分、5つをどんどん稼働させる。


 染色ダルは、私が1人だったときに作ったものだ。なにに使えるのか分からなくて、放置してあった。そして使い方の分からなかった染色ダルのせいで、発酵ダルは作らないで放置していた。


 素材を無駄にしてはならないと思ったから。生き残るために素材不足を恐れてたからなあ。


「染色ダルのせいで、石の作業台も作るのを迷いました」

「確かに染色と発酵は説明が読めないと、使い道が分かんないよね」


 日も傾いてきたため、ホノカ様が急いで屋根と壁を設置していた。やっぱり私も建築できたらいいのにな……そのための罠設置だったけど。今日設置して、今日私のレベルアップというわけにもいかないだろう。設置した罠の確認は、朝の採取のときにしよう。そんな雑談をしながら、教会にブロックを設置した。


 ドアも窓もなく、壁に包まれた状態で今日の作業は終わり。内装と仕上げは、明日にすることにした。

 明日には完成しそう。教会が1日2日でできちゃうの凄い。さすがホノカ様だ。


「晩ご飯はどうする~?」

「野菜だけのポトフとナポリタン、サイコロステーキにしましょう!」


 ホノカ様の言う、バランスよくっていうヤツだ。このメニューならバッチリのはず。ホノカ様も頷いた。よし。

 デザートはやめておく。今日はいっぱい食べちゃったし。かまどに食材をセットして、私たちはお風呂に入ることにする。

 朝用意した熱い石を、ホノカ様にお風呂と熱湯用の溜め池に入れてもらった。


「ありがとうございます、ホノカ様」

「なんのこれしきー」


 私たちはお風呂に浸かりながら、明日にでもエゼルテーの街に行くかどうかを相談した。丸薬は予定の10個には届いてはいない。だけど買い忘れたものが多いのが問題だった。


 岩塩はあるが、他の調味料がない。スパイスや油、お酢や砂糖も。砂糖は果物から取れるけど、果糖にするより他のことに使いたいというのが正直なところ。そして火ばさみは私がお湯を沸かすのに必要だし、野菜も種類が少ない。

 これくらいの買い物なら、前回稼いだお金で購入できるはずだ。


「そうだね。行こうか」

「はいっ」

「ピーマンついでにさあ、追加でゴルドブルとかいうキンピカで、珍しくて、お高い牛も……倒して売ってるからね。お金の心配はないかも」


 ピーマンのほうが重要だったらしいホノカ様。

 いつの間にかさらに稼いでいた。


「珍しいもの、いっぱいありますね……」

「アリーシャさんの言う通り、宝の山だったよ、霊山アーは」


 宝の山だったからこそマヨやカラアゲも、作れるようになるというもの。

 誰もいない場所だけど、当たりだったとホノカ様はニッコリだ。そんなホノカ様を見て幸せな私にも、当たりの場所ということ。

 でも多少は人も集めないと、できることが少なくなってしまう。今後の課題になるだろう。人が多いと、私は緊張してしまいそうだけど。街に行くというのは、その練習にもなると思う。


「ま、ゆっくりね、ゆっくり。なんたってスローライフを目指してるんだし」

「分かりましたっ。とは言え、私の文字の習得だけは急ぐ必要があります」


 私はフンと鼻息荒く宣言する。これだけは急がなくては。文字が読めないからクラフトするのにも、ホノカ様に見てもらいながらになってしまうし。治ったからよかったものの、ミフルー様からの神託が読めないせいで私は1人焦って、腕を失う羽目にもなった。

 ホノカ様には申し訳ないけど、幸いにも勉強が苦ではない私。


「よろしくお願いします、ホノカ様」

「う、うん……せめてティータイムは入れて」

「頑張ります!」

「う……うん」


 明日はコーヒーも探そう。ホノカ様が、そう呟いた。


「コーヒーってどんなものですか?」

「黒くて苦い飲み物になる豆だよ。発酵ダルのレシピブックにも載ってた」


 凄く香りがいい飲み物だそうだ。ミルクと砂糖を入れたら飲みやすくなるし、ケーキに使っても素晴らしいものができるそうだ。

 だったら是が非でも手に入れるべきものかもしれないな。


「お買い物ってワクワクしますねっ」

「ねーっ」


 私たちは夜が更けるまで勉強しつつ、丸薬を作った。肥料の作り方も調べた。これは買ってきたものとの差を調べる必要があるから、生ゴミが出たときに作業台で作ることに。

 かまどで調理すると生ゴミが出ないから、肥料は買うほうが手間がないような気もする。


「色々と試していこう」

「そうですね」


 買い物したり、ジャガイモ畑を作ったり。

 教会の装飾を凝ってみたり、私たちの家を拡張したり。

 採取して丸薬を増やしたり、果物を充実させたり。


 私たちの生活も充実してきた、この1週間。

 ようやくネクタルが完成した朝。


 ネクタルによって、私たちの生活に大きな変化がもたらされた。

 それはコーヒーロールケーキが至高。とか言ってる場合じゃないくらいの変化だった。

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