16 ホノカ様にはマヨが必要だと私は確信した

 予定通りお昼まで果物と薬草を採取して帰宅した私たちは、ご飯を食べることにする。残念だけどバターが完成して使えるようになるまでは、時間が必要だ。晩ご飯のときも間に合わないかな。気にせず使えるようになるのは明日の朝から。


 そして調味料を買い忘れてるので、元から味の濃いベーコンを使うことにした。お昼のメニューはパン、ベーコンエッグ、それとマッシュポテトに野菜ジュースにしよう。

 万能作業台の一部であるかまどから出る、宙に浮くタブレットで操作して調理を開始する。


「5分くらいでできます」

「ありがと、マイ。キャベツがいっぱいあるし、サラダにするね」

「はーい」


 無限に食べられるサラダ、塩もみキャベツにするそうだ。大根やニンジンも一緒に混ぜるといいらしい。洗って、千切りにして、軽く塩を振って、もみ込むだけという簡単サラダ。でもニンジンは買ってきてなかったはず……。


「近いうちにまた行きますか? 買い忘れ多いですし」

「ねー。食材が増えたら、足りないものが増えてくるという矛盾に激突しちゃってるよ」

「これが贅沢というものなんですね」


 ベーコンエッグとマッシュポテトが完成するまでのあいだ、私たちは塩もみキャベツをつまみ食いする。簡単サラダなのに、ちょっとビックリするくらいには美味しかった。


「マイの肌や髪の毛に艶が出てきたね」

「そうですか? そういえば髪がサラサラになってきたような」

「ちゃんとご飯食べてるし、栄養状態がよくなったからかな。よかったね!」

「やりました! ありがとうございます、ホノカ様」


 人並みになれたみたいだ。お昼ご飯を食べるのも当たり前にしてくれたし、ホノカ様には感謝しかない。

 そう伝えると、仙桃の効果もあったかもよって言われた。


「アリーシャさんが言ってましたね。肌に艶が出るって」

「仙桃も採取できたしさ、ネクタルも作ってみようよ」

「そうですね。なにか凄いのが完成するかもしれませんし」

「精霊に祝福されてるっていう果物だしね」


 ネクタルは発酵ダルで作るものだから、時間が掛かるかもしれない。どんなものが完成するのかも分からないので、ホノカ様と相談して仕込むのは1つだけにした。


「7日かあ。凄い時間が掛かるね」

「はい。やっぱりネクタルは凄いものなんでしょうね」


 時間が必要だったので、結局持ち帰った5つ全部仕込むことに。凄いものだったら、また7日待つ羽目になるからというのが理由だけど。

 微妙なものができても、不味くはならないだろうと希望込みの予想で動いた。


「ご飯できたよー」

「あ、はーい」


 しっかり食べて、しっかり働こう。


「ポテサラのほうがいいな……」

「マッシュポテトと違いがあるんですか?」

「マヨです。具材はともかく、決定的に違うのがマヨなのです。私にはマヨの力が必要なのです」


 力説された。

 それからマヨを作ることに決まった。

 必要なものが足りないので、買い物も確定した。


「油が取れる木の実があれば、油は発酵ダルで作れそうなんだけどな」

「見つかりますかね?」

「大人しく買うほうがいいのかもなあ」


 風味のある油で作ると「なんか違う」みたいなものが、できるかもしれないらしい。ホノカ様も実際に試したことはないそうなので、分からないと言ってはいるけど。でも香りの違う油にも使い道は多いとのこと。緊急性はないので、余裕のあるときにでも油の取れる木の実を探すことになった。


 そんな感じで、今日のお昼ご飯はホノカ様にとって、満足できないものになってしまったようだ。

 ホノカ様にはマヨが必要だと私は確信した。


「心の満腹にはモンブランも必要ですか?」

「ううん。プリンとヨーグルトも目途が立ったことだし、コンビニのを食べちゃおうよ」

「いいんですか?」

「残してたってしょうがないしさ。半分こしよ」

「いただきますっ」


 どっちも食べたことがないものなので、気になっていた。食べたいなんて言えるはずもないし。でも、食べさせてくれるそうだ。

 ホノカ様のお勧めに従ってヨーグルトからいただく。これはプリンのほうが甘いものなので、先にプリンを食べるとヨーグルトの甘味が足りなく感じてしまうからだそうだ。


 ホノカ様がオレンジのジャムを掛けると、爽やかな香りが漂う。ヨーグルトと一緒に口に含めば、程よい甘酸っぱさが舌に絡みついた。ネットリ、モッチリとした食感なのに、さらりと口から消えていくヨーグルト。初めて果物を食べたときのような感動があった。


「美味しいですね!」

「ふっふっふ、だが私的にはプリンのほうが格上!」


 こんなに美味しいというのに、プリンはそんなにも? そう思いながらプリンをすくう。滑らかさはヨーグルトと同じ感じだけど……。

 しかし口に運ぶと、ガツンと衝撃を受けた。まろやかな舌触りに、濃厚な甘い香りが広がった。それがミルクや卵の香りを更に引き立てていて、とろける食感が私を駄目にした。


「卵はできるだけ確保しましょう」

「マヨにも必要だしね」


 買い物に頼るということは、ホノカ様にも頼りっぱなしになる。やはりいずれはこの拠点で手に入るようにしたい。そんな目標を立てた私たちは、この場所を成長させるべく行動を開始した。


「農業も畜産業も林業も、私たちだけじゃどうにもならないからね」

「はい。村くらいにはしないとですね」

「まずは予定通り教会を建てましょう!」

「はいっ。装飾が作業台で使えるようになってますから作れるブロックの種類も増えてますよ」


 炉も以前から稼働させてあるので、ガラスも十分に使える。建材には潤沢な石材を選択する。私はホノカ様と一緒に、建築用のブロックを選ぶところから始めた。柄ものが使えるからといって、いっぱい使えば見た目がうるさくなってしまう。なので基本は白レンガにするということになった。


「土台部分は暗いグレーの石垣ブロックで作るから、まずはこれをクラフトしてね」

「分かりました」


 クラフトしたブロックは、収納箱に入れておけばホノカ様も出し入れ可能だし、邪魔にもならないかな。と思ったけど、出しっぱなしのほうが手間が掛からないそうだ。


「余ったら収納したらいいよ」


 ホノカ様はそう言いながら、クラフトされていく石垣ブロックを宙に浮かせていた。

 そういえばそうだった。ホノカ様の建築は、建材が空を飛んで合体するタイプの建築だった。今は土台を作ってる段階だから、次々と地面に並んで行く様が気持ちいい。そんな光景が私の目に映った。

 どんどん作らないと間に合わないな。

 ブロックが配置されるドドドドという音と、ブロックを作るカカカンという音だけがしばらく続いた。


「そろそろ白レンガブロックおねがーい」

「はーい!」


 私たちの家よりも大きくなるみたいだ。敷き詰められている土台が、結構広くスペースを取ってる。

 まずは形を決めるべく、仮組みされていく教会。


 土台中央部分、長方形になるように四隅へブロックが積み上げられていく。頂点部分も繋げて、トーフの仮組みを作ったホノカ様。


「入口の上に鐘を付けようかな」


 3分の1くらいの幅で、手前側に四角の出っ張りを作るみたいだ。正方形になるように置かれたブロックが、どんどん縦に伸ばされて塔になっていく。塔の高さは先に作った長方形のトーフの2.5倍くらいの高さだ。


「教会、壱ノ形。凸ノ息吹っ」


 知らない言葉だ。トーフとは違うのだろうか? 教会1の形はなんとなく分かる。ホノカ様が持ってるデザインの話だろう。でもデコノイブキ?


「デコノイブキですか?」

「ア、ウン」


 なぜか赤くなりながら説明してくれるホノカ様。ニホン語にそういう文字があるから、正面から見たときの形を簡単に表現したかっただけのようだ。教わろうとしたら使い道なんてないからと断られた。


「あー、教会の幅のサイズ間違っちゃった。あれ? これって私が壊すとさ、ただの石ころになっちゃいそうだよね。マイだとブロックのまま分解できる?」

「どうなんでしょうか?」

「ゲームとは違うからなあ。一応、素材じゃなくてブロックのまま分解するよう考えつつ壊してみてもらえる?」

「分かりました」


 塔になっている横の部分に斜め屋根を付けるため、塔の横から3、2、1とブロックを積むと、横幅が1ブロックずつ足りなかったようだ。

 私は凸の横の部分を石材に戻らないよう考えながら、クラフターズハンマーで叩く。


「大丈夫そうです!」


 ブロックのまま収納箱に入った。


「ブロックの下側を壊すと、上側のブロックが空中に固定される仕様もゲームのままあるんだなあ」

「そういえば不思議です」


 ホノカ様がブロックを縦2段積んで、下を壊すよう私に言う。


「やっぱり」

「どうなってるんでしょう?」


 ブロックが1個だけ宙に浮いてる不思議な景色が目の前に。


「不思議だけどこういう仕様ってことで納得しておくしかないよ。たぶん」

「ミフルー様の御力ですもんね」

「そそ」


 このおかげで、ブロックがくっ付くのと合わせて、建物も頑丈になるみたい。なぜなぜ言うより、ありがとうだよってホノカ様はおっしゃった。

 私たちはどれほどミフルー様に守られているんだろう。感謝しかない。

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