14 悲しい時代は終わった

「ホノカ様、夕ご飯はナポリタンにしましょう。ね?」

「大皿に盛って、小山のロマン盛りにする。そして下品に食べる」

「分かりました」


 打ちひしがれているホノカ様を元気付けるために、大盛りで作ることになったナポリタン。食べ残す分は収納箱に入れておけばいいし、私は元々上品じゃない。

 ホノカ様お望みのままに、行動できるだろう。かまどにナポリタン用の食材を入れ、クラフト開始。完成までの間に大皿も作っておこう。

 そう思ってレシピブックを開いて気付いた。


「食材しか買って来てませんでした……」

「そういえばそうだね……」


 掃除道具や調理器具はクラフトできるようになってた。だから買おうと思っていたものは、だいたい作れるけど火ばさみはレシピにはない。

 焼いた石を動かすのに必要だったのに。


「しばらくはショベルやツルハシを使って移動させるしかなさそうです」

「私がいるときは私がやれば問題ないんだけどね」

「こんな雑事までホノカ様頼りになってしまうのは、よくないことですし」

「うん」


 新しく作るショベルとツルハシは鉄製で。ついだしヤカンもクラフトしておこう。お湯も沸かせるし、ミルクも温められるようになるし。


「でもマイが鉄やガラスを扱えるようになってるから、だいぶ助かるよ!」

「えへへ、ありがとうございます!」

「なんと言っても、家に窓を付けられるのは素晴らしいことです」

「今まではただの穴でしたからね……」

「枝と葉っぱで覆うしかなかった、悲しい時代は終わったね」


 これからは楽しい時代になるはずだ。そうなると、鉄やガラスがもっと必要になってくるかな? 素材はまだ十分あるけど、炉が2つじゃ間に合わないかもしれないな。


「炉の数を増やしたほうがいいですか?」

「どうだろ。今のところ間に合ってるんでしょ?」

「はい。でも教会を建てるとなれば、ガラスはいっぱい必要になる気がしてます」

「あ、確かに。ステンドグラスの窓をいっぱい使うもんね」


 でも私たち2人しかいないから、ため込んでおけば大丈夫じゃないかという結論になった。


「そうだ、ホノカ様。形だけじゃあよく分からない、作業台が増えてるので見て欲しいんですけど」

「ん、どれ?」

「これです、このタル。タルが作業台なんです」


 意味が分からない作業台だったので、まだクラフトしていない。作っても使えなかったら、素材を無駄にしてしまうし。


「発酵ダルだ!」

「発酵ですか。なにができるんでしょう?」

「えっとね、マイには嬉しいものだよ。だってこれ、醤油や日本酒、味噌もか。作れるはず。チーズもいけるんじゃないかな」

「ハッコウダルヲ、ツクリマス。イマスグニ」

「オチツケー!」


 そんなこと言われたって、から揚げに一歩近づくのだから!


「作っても素材がないよ? 稲と大豆。探してってアリーシャさんに頼んだばかりなんだしさ」

「そうでした……」

「今作れそうなチーズは、ミフルー様のお土産でたっぷりあるし。でもまあ試すのはありかな?」

「レシピが増えるかもしれませんしね」


 試した結果、発酵だけじゃなかったみたいだ。ホノカ様も詳しくないそうで、正解は分からないということだけど、熟成もできるんじゃないかって言ってた。

 発酵や熟成だけじゃ納得できないものもレシピにあるそうだけど。


「ヨーグルトはなんとなく分かる。でもバターって発酵や熟成のカテゴリーだったっけ? 油も違う気がするし、コーヒーもなんで豆からコーヒーに飛んでるの? 発酵ダルで焙煎までしてるの?」

「ホノカ様のおっしゃってた、チートということなのでは」

「ソダネ。ワタシ、リカイシタ」


 深く考えてもどうしようもないことだと、分かったそうだ。

 神様は凄い。

 つまり、そういうこと。


「バターは使い道が多そうなので作っておきましょう」

「んー」


 発酵ダルのレシピブックを見ていたホノカ様が、上の空で返事をした。


「どうかしましたか?」

「あ、うん。このネクタルっていうのが気になって」

「ネクタルですか。えっと……モモとミルクとバター? ですか?」

「桃じゃなくて仙桃限定だね、これ。それでさ──」


 ネクタルと言うのは、ホノカ様の世界の神話に出てくる不老長寿とか、不老不死だとかの効果のある神々の飲み物だそうだ。とんでもない効果があるということみたい。


「さすがに不老不死はないだろうけど、仙桃のお肌ピチピチ効果がスゴク強化されるんじゃないかな」

「高く売れそうなものが作れますね!」

「仙桃が手に入ったら何個か作っておこうよ。アリーシャさんに見てもらえば詳しくわかりそうだし、ブランド品になっちゃうかもね」


 アリーシャさんは絶対に鑑定レベルが高いって。だって回復の丸薬を見た瞬間に本物と判断してたみたいだからだそうだ。

 言われてみれば確かに。


「ところでホノカ様。ナポリタンが凄く山盛りです」

「アニメの世界の念願のロマン盛り! 食べよ、マイ」

「え、と、はい。いただきましょう」


 ホノカ様の気持ちが、なぜこんなにも高揚しておられるのか謎だ。でも楽しんでおられるのなら、それはとてもいいことなので、私も楽しもう。


「これはねえ、2人で下品にモリモリ食べるのがいいんだー」

「アニメの世界って楽しそうですね!」

「私、異世界に来てるから、半分はアニメの世界の住人になったみたいなものだよ」


 モリモリ食べた。2人で3分の1くらいだったけど。

 残りは収納箱に入れておく。レシピブックには登録されてないけど、パンにはさんで食べるのも美味しいそうだ。

 洗い物を済ませて、お風呂に入る。


「そういえばマイってドワーフとのハーフだったよね」

「はい。私も知らなかったんですけど」

「やっぱりお酒って好きなの?」

「飲んだことないので分からないです」


 発酵ダルで作れるから、飲みたかったらクラフトしちゃいなよって言われた。特に魅力を感じないので、いらない気がすると伝えた。


「ホノカ様は飲みたいですか?」

「私も欲しいとは思わないかな」

「じゃあなしでよさそうですね。発酵ダルで作れる他のもののほうが、役に立ちそうですし。今は油とバターが大事な気がします」

「バターがあれば、ケーキも作れる……そういえば生クリームも発酵ダルのレシピにあったな」


 つまり、モンブランも作れるんじゃないかとホノカ様。あとでレシピブックを確認することになった。霊山アーに来た日、レシピ目的で収納箱に入れてるから。発酵ダルは多めに作っておいたほうがよさそうだ。


「マイが色々作れるようになってきてるから、拠点が充実し始めたね」

「はいっ」


 欲を言えばまだまだこれから、そんな感じだけど。でもそんなタイミングが一番楽しいとホノカ様が教えてくれた。

 あくまでもゲームのときの感覚だけど。と、念押しされたが。


「現実問題はあるよねえ」

「どんなことでしょう?」

「素材をさ、バンバン取ってたらなくなっちゃうよ? この綺麗な場所がさ、ただのハゲ山になるとイヤでしょ?」

「それは、駄目なことですね」


 霊山アーをハゲ山にしてはならない。

 でも木材って結構使う。

 鉄やガラスの素材が取れる岩も、取りすぎたら山が平らになってしまう。


「どうすればいいんでしょうか?」

「石材関連はまだまだ在庫が残ってるけど、木は植樹も考えて動かないとヤバいかもしれないなあ」


 拠点周りの木だけ使う、間引く感じで広範囲から集める、あとは開拓してる場所で手伝うついでに確保する、というくらいしか案が出なかった。


 お風呂から出た私は、さっそく発酵ダルを作ることにした。バターは重要だ。ホノカ様も使い道は色々あると言ってるので、発酵ダルは5つ作る。ホノカ様と相談して、4つはバターで1つは生クリームを試す。


「バターも生クリームも、完成まで12時間か。結構時間が掛かるんだね」

「ご飯前に食べる分を作ろう、ってしなくてよかったです」

「だね。発酵ダルはいっぱい作っておいて、常に稼働させておく感じがいいのかも」


 発酵ダルは、基本的に時間が掛かるものなのかもしれないので、更に追加で5つクラフトした。作るのは全部バターだ。

 あ、タンクの中のミルクがなくなったからか、ミルクタンクが別枠に移動した。取り出して中を覗くと、やっぱり空っぽになっている。


「使い道、ありますかね?」

「……どうだろう。今初めて空になったんだよね?」

「はい」

「20リットルくらい入るのかな、これ」


 ミルクを仕入れるときには使えそうだけど……。

 まだ998個ある。


「とりあえず洗っておきます」

「うん」


 うーん、ミルクタンクに使い道あるかな?



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今日は20話まで投稿予定です。

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