13 ナポリタンにはピーマンがいる。絶対っぽい
「そうだ、買い物前に教会に行かない?」
「そうですね。ミフルー様にお礼をするなら、教会のほうがいいでしょうし」
私たちは目的地を教会に変更した。そろそろお昼過ぎだし、ドラゴンカツチーズバーガーにかぶり付きながら歩く。
露店では色々売ってるみたいだ。
「スパゲティとかもあるんだ。麺を買って帰るのもあり。となるとトマトも必要になるかな」
ホノカ様がなにか美味しいものを想像してるみたいだ。生活が落ち着いたら作ってくれるそうで、今から楽しみ。
ところでホノカ様は農業が分かってるのだろうか?
私は分かってない。植えたら生える、お芋くらいしか育てたことないし。最初の内は、ジャガイモだけにしておくべきなのかもしれない。
「農業が分かる人がいないと、手広くやるのは無理そうですね」
「そうだね、大人しく野菜を買って帰るのが正解なのかも。まあやってみるっていうのも、全然ありだけどさ」
「何事も経験ってことですか」
「うん」
教会に着いた私たちは、お布施を払ってお祈りさせてもらう。そういえば教会って、どの神様でもお祈りしていいのだろうか? ホノカ様の世界では嫉妬する神様もいたと聞いたし。
「あの、神父様。私たちがお祈りするのはミフルー様という男神様なんですが、この教会でも大丈夫でしょうか?」
「そういえばそうだったね。私たち、
「ええ、ええ、問題ございませんよ。真摯に向き合い礼拝することに、否は唱えられますまい」
しばらくの間お祈りさせてもらった私たちは、神父様に呼ばれる。どうやらミフルー様のことを聞きたいようだ。
「寡聞にして存じ上げませんが、確かに加護の力を感じます。ミフルー様は新たな御柱なのでございましょうか?」
「どうなんでしょう? 私たちはミフルー様に救われましたけど、そこまでは」
「力のある神様だとは思いますね」
ホノカ様が言う通り、確かにそうかも。なにせホノカ様を異世界から転移させてるんだし。
あ、そういえば教会では能力や情報を見てもらえると聞いたことがある。やってもらおうかな? 向き不向きが分かるだろうし。
「ホノカ様はどうします? 私は調べてもらおうと思いますけど」
「ンー、そうだねえ。ちょっと面白そうだし、私も!」
「ではこちらにどうぞ」
礼拝堂とは別の聖室と呼ばれる部屋に案内される。透明な水晶球をはさんで、神父様の対面に座った。
「お1人ずつ手をかざして、魔力を込めてください」
「私からでもいいですか?」
「うん、いいよ」
柔らかい光が零れる水晶球に私の情報が現れたのか、神父様が紙に書き始めた。私の番が終わったら、続いてホノカ様も。
お2人ともですか……と声を漏らした神父様は、少し困惑しているようだ。
「私には初めての経験ですが、神により秘匿された能力は我々も見ることは叶いません」
「ああ、マイの能力はチート級だし、私は私自身が特殊な出自だからですかね?」
私には神父様がなにを書いたのか、分からないので教えてもらう。そして私も知らなかった、私の情報が出た。
「ドワーフの血が入ってたんですねえ」
「マイのもの作りの能力は、それもあってミフルー様が作ったのかもね。私のサイコキネシスが分からないってことも、この世界にないからかもだし」
言葉自体がないんじゃないかなと、ホノカ様が言う。
「特殊な出自で、更にはこの世界にない、ですか。口になさらぬほうがよろしいかと思います。もはやお伽噺なのですから」
ホノカ様が異世界人様と察したのか、厄介な権力者に目を付けられないよう注意したほうがいいと助言をくれた。
「うっ、分かりました」
ホノカ様は、ホノカ様と同じくらいの人が、それなりにはいると思ってたみたい。
いませんよ?
異世界人様と同じくらいの実力者とか、そうそういるはずがありませんよ。神父様が言うようにお伽噺の世界だし。
「ところでこちらのポイントなるものも、私は初めて見るものなのですが」
見えたけど分からないものだそうだ。私たちには分かる。だってそのポイントを使って能力を得たんだし。
そのことを伝えたものの、使い方は誰にも分からなかった。
「成長に繋がるものなのですな。しかしどのようにして貯めているのか」
「努力、とは違う気もしますねえ。努力したらポイント関係なく成長するだろうし」
「ホノカ様、あれじゃないですか? ミフルー様がおっしゃってた、神は救うのではない、輝きを拾うのだって言葉」
「おお、それっぽい?」
「神々に救いだけを求めるのは違うということですな。いやいや、今日はよい話を聞きました。またいつでもおいでください」
教会では神々の研究といった面もあるそうで、感謝された。そして文字を読めない私に、文字の一覧表を与えてくれる。
「文字の発音を覚えれば、読めるようになるでしょう」
「ありがとうございます!」
「うわぁ、ごめんマイ。もっと早く私が気付いてたらなあ」
「い、いえっ、私には感謝しかありませんから!」
もう一度神父様にお礼を言って、教会から立ち去る。なんだか濃い一日なせいで、少し疲れてきた。ホノカ様もそう思ったらしく、買い物を済ませて帰ることにした私たち。
インベントリは見せるものではないと学んだので、市場で空き箱を購入できるか聞いてみた。
「そんなに買ってくれるのかい? ならいいよ!」
色々なものが売っていて、目当てだった卵も手に入った。ホノカ様と相談して、やっぱりジャガイモくらいは育てようということで、種イモと肥料も買うことにする。
「あ、カボチャもいいな。うわっ、トマトがでっかい!」
はしゃぐホノカ様を見る視線は、ほっこりしたのかみんな優しいものだった。そんな市場の人たちから、持ってけ持ってけとオヤツのナッツをいただいてしまった。
卵、ジャガイモ、カボチャ、大根、トマト、ホウレン草、玉ねぎ、栗、小麦粉。それぞれ1箱分買う。他にはソーセージとハムはある程度の量。2つで1箱分だ。
ほっこりする量じゃなかったみたいで、心配と不安の眼差しを一身に受けるホノカ様。
「ダイジョブだってば」
そう言いながら支払いを済ませ、野菜満載の箱たち10個を浮かせて運ぶホノカ様。目立たないほうがいいと学んだはず……? いや、でも持ち運びできないし仕方がないのかも。
私はそのまま衛兵様たちの詰め所に向かい、街に入るための一時許可証を返す。それぞれのギルド証を提示したので、支払いは発生しなかった。年会費から賄われているそうだ。そして衛兵様たちには、インベントリのことを見られていたので、ホノカ様は遠慮なく箱を仕舞った。
「じゃあ帰ろっか」
「はいっ」
「さらばエゼルテーの街よ!」
「んぐっ、急に面白いこと言うの反則です」
帰宅して、荷物を私の収納箱に入れてるとき「ピーマン買い忘れた! もう一回行ってくる」と叫んで出掛けてしまった。
ピーマンってそんなにも大事な野菜なんだろうか? 往復と買い物で4時間は掛かりそうだし、夜になってしまうのでは。
私はホノカ様を待ってる間に、お風呂の準備を整えよう。石が焼けるまでは……カバンを作ろうかな。あとお財布も必要だろう。こっちにいるときはインベントリに仕舞っておけばいいけど、エゼルテーの街に出掛けるとなると必要ということが分かったから。
晩ご飯のメニューも調べておこう。色々と買って来たから、レシピが増えているはず。なにか新しいのが、作れるようになっているかもしれないと思い、かまどでレシピブックを開く。
「小麦粉、卵、ミルク、チーズ、ハム。あとは半透明になってる砂山みたいな絵は……コショウかな? それでスパゲティっぽい」
他にもスパゲティの種類があるみたいだ。トマトを使ったものとか、ホウレン草やキノコを使ったものとか。
うーん、全部スパゲティなのかな? 表示されてる絵が小さいから、文字が読めないと分からない。全部円形だし、違いがよく分からなかった。
「あ、ポトフも作れるみたい」
よくよく確認してみると、パンや麺も作れるようになっていた。パンはミフルー様からいただいたものがあるから、作るなら麺かな。
「ウー、ただいまぁ……」
「お帰りなさい、ホノカ様。どうかなさったんですか?」
随分と早かったし、具合が悪そうだったので聞いてみた。すると飛行速度を上げると酔っちゃうと言われた。早く往復したかったから、3倍速で飛んだらしい。
「なんでか分かんないんだけど、流れる景色が気持ち悪くなるんだよね」
長時間も速いのも駄目なのが、ホノカ様には悔しいことみたいだ。練習しても解消しなかったって。
「無理せず次に行ったときに買えばよかったのでは」
「ナポリタンにはピーマンいるの!」
いるんだ?
そんなにも?
「レシピブックを確認したらスパゲティも増えてましたよ。所々半透明になってて食材が足りてないみたいなんですけど、作れるっぽいです」
「見せて見せて」
かまどの前に立ってレシピブックを見たホノカ様が、小っちゃく座り込んだ。
あ、なんかこれ、前にも見たことあるお姿。
「スパイス買い忘れた」
ホノカ様は、そう呟いた。
「調味料全般……です」
私も呟いた。
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あとがき
読んでいただきありがとうございました!
推しキャラ転生はしゃーわせです
https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
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