12 丸パン1万2千個分……
「マイはホントに冒険者ギルドへ登録しないでいいの?」
「はい。私では冒険者ギルドへの年会費を支払うのが、もったいないかなと」
それに私じゃランクは最低ランクなんじゃないかなって思うし。ゴールドランク(仮)になったホノカ様は、護衛依頼をいくつかこなすと仮が取れるそうだ。だから戦力にならない私とパーティを組むと、受けられる依頼が減ってしまって仮が取れなくなってしまう。
ホノカ様はまとめて払えばいいとおっしゃったけど、無駄だ。
私たちはエルゼテーの街で暮らすわけじゃない。頻繁にギルドへは行かないから、年会費は先払いのほうがいいのだけど……そうなると私が稼げる薬草系程度では稼ぎが少なくて、まとめて支払うことが難しい。
高級な果物と鑑定されているモモに、私は期待している。高ければ商業ギルドに登録するほうが効率もいいと思った。
「冒険者たちの身体を見て、マイの作った回復の丸薬が、高い効果を発揮してるのが分かったしなあ」
「丸薬、高く売れそうな気がしてます」
冒険者ギルドには欠損したままの人がいた。目とか指とか。
回復の丸薬は回復の薬草3枚で作れるから、結構お得なのではないだろうか。どうせなら5個くらいできればいいけど、残念ながら薬草3枚で丸薬1個だ。
「私の鑑定レベルがもっと高かったら、分かってたんだろうけど」
「修行するしかないですね」
商業ギルドには鑑定能力が高い人がいるだろうし、効果がはっきり分かれば売りやすくなると思う。ギルドに入った私たちは、受付に向かう。
商業ギルド。冒険者ギルドと同じような石壁の建物だけど、オシャレ感が漂ってるのはなぜだろう? 冒険者ギルドは傷もついてて武骨だから、余計にそう思うのかな。見た目からして清潔だし。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「えっと、欠損の治る丸薬と、高級品と思われるモモを買っていただきたくて来ました」
ホノカ様に出してもらう。ピクッと反応する受付嬢さん。やっぱりインベントリに反応してる。
「あと買ってもらえたらギルドに登録したいです」
「かしこまりました。お部屋にご案内いたしますので、ロビーで少々お待ちください。お荷物は片付けられたほうがよろしいかと」
「は、はい」
丸薬かモモかは分からないけど、貴重なもののようだ。受付嬢さんがヒソヒソ片付けてと言ったし。
「ホ、ホノカ様。私、怖くなってきました」
「ダイジョブダイジョブ。高く売れそうだし、いいことっ」
私が不安と期待でモヤモヤしてたら、さっきの受付嬢さんがやって来た。
「担当させていただきます、アリーシャと申します。よろしくお願いいたします。さ、どうぞこちらに」
「は、はいっ。私はマイです!」
「私はホノカ。よろしくお願いします」
ギルド中を奥に向かって案内される。大事な客は個室に案内されるそうだ。つまり私たちは大事な客ということ。
「私がマイ様、ホノカ様の担当となりましたので、今後ともよしなに」
個室で飲み物を出されて、3人になったところでアリーシャさんがそう言った。私にはなぜか、猛獣に見られているような気分になる。モモはどうしたのか、丸薬は作ったのかとか聞かれたので答える。
「え、えっと、あの……私たちの住んでるところで……採取したり、作ったりしています」
「緊張し過ぎだよ、マイ」
「そうですね。これからは深い仲になるつもりですので、言葉を崩しましょう」
さっきの丸薬とモモを見せて欲しいとのことなので、ホノカ様にまた出してもらった。
「高く買ってもらえると嬉しいです」
「もちろん。儲けの匂いしかしないわ!」
「ふあっ!?」
「えっ?」
「失礼。しかし言葉を崩すと申し上げましたので、つい漏れてしまう言葉には目を瞑っていただけると」
清楚な感じでニコリと笑うアリーシャさん。
「そんな顔しても、もう遅いのでは」
ホノカ様の言う通り。でも、緊張はほぐれた、かな? わざとやってくれたのかもしれない。
高く買ってもらえるとのことだけど、年会費を先払いできるくらいになればいいな。
「ではこちらをご覧ください」
それぞれの値段が書いてあるんだと思うけど、私はまだ文字が読めないから、不便だな。ホノカ様が教えてくれたけど、聞きなれない言葉があった。
「仙桃ですか?」
「桃のことみたい」
「説明させていただきます。まず仙桃ですが──」
食べると効果があるから、希少価値の高い果物だそうだ。精霊の祝福がなければ仙桃にはならず、普通のモモとして育つらしい。
効果はお肌に効く、というもの。貴族様に大人気の品で、あればあるだけ売れると言われた。
毒消しと麻痺消しの丸薬は、効果は高いけどそれほど特別ではないとのこと。素材のヒルク草は、もったいないので使わないほうがいいと言われた。普通の回復草で問題ないって。
そしてそのヒルク草。これも育つためには、精霊の祝福が必要な薬草だそうだ。
「えっと、つまり……私は知らずに貴重品を使ってたんですね」
「霊山アーには精霊が住んでるってことかあ。見れるといいなあ」
「なるほど、お2人は秘境にお住まいなんですね。どおりで貴重なものを持ってるはずです。うーんっ、宝の山じゃないですか!」
アリーシャさんは回復の丸薬がもっと欲しいそうだ。今回持って来たのは5つだし、数が少ない。
「えっと、何日か採取に集中すれば10個くらいは作れそうですけど」
「でもなあ、拠点の整備も必要だしね。教会はまだ建ててないし」
「開拓してらっしゃる!?」
「うん。そう」
「なるほど……では無理のない範囲で丸薬を作ってくだされば幸いかと」
開拓は大変ですからと、アリーシャが同情したような顔をする。ホノカ様がいるし、万能作業台で建材がドンドン作れるから、たぶん普通の開拓団より楽だと思う。だって女の子2人でやってるんだし。
「ではしばらくの間、回復の丸薬を10個単位で持って来ていただければ」
「分かりました」
「ところで恥を忍んで聞きたいんだけどさ──」
ホノカ様がお金の価値を聞いた。
金貨1枚ってどれくらいの価値なのか。
「そうですね……丸パン1つが小銅貨1枚ですので、金貨だと1000個買えます」
「ど、ど、どうしましょうホノカ様っ。凄くお金持ちになってしまいました」
「私もビックリした。やっぱドラゴンって儲かるんだなあ」
「なるほど、なるほど。ドラゴン素材でなにか作成されましたら、ぜひ私のところにお持ちください」
頭は売ってませんよね、って聞かれた。もう知ってる。やり手なんだろうけど、笑顔がいやらしい……。
「私、お金が大好きなもので」
「開き直っちゃったよ」
色んな人がいるんだなあ。
「ところで霊山アーに住んでいるとのことですが、ギルドの年会費はどうなさいますか? マイ様」
来るのは大変だからな。毎月支払うより、やっぱり先払いしておいたほうがいいと思う。そして年会費だけど、ギルドのランクによって違いがあるそうだ。
「ランクが低ければ年会費も安いですが、受けられるサービスも少ないのです。例えば情報や仕入れに関しても、ランクの高いかたから処理いたします。店を持つ場合なども、よい条件を得たいなら高ランクになっておいたほうが便利です」
「どうしましょうか、ホノカ様」
「私たちは拠点で暮らすし、ランクは低くても問題なさそうだよね」
作物を買うお金も必要だ。
無駄にランクを上げる必要はないと思う。
「ただその場合、イネやダイズの情報が手に入らないかもしれませんけど」
「マイはホント、から揚げにご執心だなあ」
「でしたらマイ様はシルバーランクまで上げておかれますか? 情報もそこそこ手に入りますし、年会費もそれほど高額にはなりませんし」
「じゃあ、それでお願いします」
「承りました」
シルバーの年会費、銀貨24枚を支払う。ゴールドまで上げると、金貨12枚。回復の丸薬4個分……丸パン1万2千個分……高い。と、私は恐れおののいていたけど、その分くらいは稼いでいるではないかと、アリーシャさんに言われてしまった。
確かにそうだけど1枠999個の収納箱で、12枠分のパンが買える金額だということ。お金を手にして、急に世界が変わったような気がした。
「お金は怖いです」
「使いかただよ」
「その通りです。場合によっては、情報を得るためにお金を使うとかありますし」
私はアリーシャさんに、イネとダイズのことを調べてもらうことにした。アリーシャさんも聞いたことがないそうで、時間が必要かもと言われる。
「ショーユとニホンシュの情報でもいいですので、お願いします」
他には卵が欲しいかな? 飛ばない鳥を飼うのもいいかもしれない。
あと栗の木も欲しい。
「プリンとモンブランですよ、ホノカ様っ」
「ポテチ用にジャガイモも欲しいよね。というより野菜の種を買って帰ろう。ソースが作れると思うんだ」
そうしたらドラゴンカツのレベルが上がるらしい。その辺りのこともアリーシャさんに相談。特に料金が掛かるわけでもなく、購入できる場所を教えてくれた。
「よい取引をありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」
「こちらこそー。お世話になりました」
「ありがとうございました。アリーシャさん。さあ、ホノカ様。卵と栗が待ってますよ!」
「あはは、分かったってば」
私たちはプリンとモンブランを目標に、エルゼテーの街を探索する。
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