11 暴れちゃ駄目です、ホノカ様
クラフトしながら文字を教わっていると、30分ごとに休憩を取ったほうがいいと言われた。でもそんな無駄な時間を作るのは、ホノカ様に申し訳ない。
「大丈夫です! 私、ちゃんと勉強しますよホノカ様っ」
「そ、そう? 気分転換にオヤツもいいと思うんだけど……」
「いえ、勉強楽しいです。もっと教えてください!」
「う、うん。分かった……勉強楽しいかなあ……?」
私に対し、頻繁に休憩を入れさせようとするホノカ様は、とてもお優しいんだと思う。でも、私は優しさに甘えてはいられない。
「頑張ります」
「ガ、ガンバレェ」
寝る前に言われた。ホノカ様は勉強が嫌いだから、せめて1時間ごとに休ませてと。私に
ごめんなさい。
翌朝。
朝ご飯はガッツリ系。ドラゴンカツチーズバーガーだ。ドラゴンチーズバーガーの食材に、パンと油を追加することで完成する。ハンバーガーはお弁当にもピッタリなので、お昼ご飯用にも追加で作成した。飲み物にはモモジュースをクラフト。
「じゃあ出発しましょう~」
「はーい」
私はホノカ様を後ろからギュッとする。飛ぶための準備だ。万が一落ちたときには、私が身体を張ってお守りする陣形。
「マイは頑固だなあ。落ちないって言ってるのにさ」
万が一があるので譲れない。空の旅の間、私はホノカ様に張り付いておく。飛んでる時間は予定だと2時間弱と言われた。それくらいで休憩を入れないと、酔ってしまうらしい。そこそこ長い空の旅になりそうだ。私たちの暮らしている霊山アーは、かなりの辺境みたいだし。
山奥だし、大昔に噴火があったということだし、仕方のないことだろう。ミフルー様から噴火の危険がないと教わっていなければ、わざわざ活火山には住まないとホノカ様も言ってる。
「歩いてたら凄く時間が掛かりそうです」
「うん。だから人が来るのってほとんどなさそうだよね」
たまに素材を取りに来るみたいなことを、ミフルー様はおっしゃってた。だけどそれは本当に珍しいことなんだろうな。
山にいるとき、私たちが人に襲われることはなさそうだ。ホノカ様は凄くお可愛らしくなられたので警戒が必要だと思う。ちゃんとお守りしなくては。
「マイが抱きついてるときって、変なこと考えてそうな気配がするんだよなあ」
「気のせいだと思いますが」
だって凄くお可愛らしい。
絶対に狙われる。
そんなことを考えてるうちに街へ到着する。休憩を入れなかったから、2時間以内の到着ということだ。それでも結構時間が掛かると思った。歩くよりは断然早いのだけど。
「近付いたら結構大きい街だった件」
ホノカ様がビックリした顔で防壁を見上げている。
「城塞都市ってヤツかな? 驚きの迫力!」
「あ、あのホノカ様? 私たちも驚かれています」
やっぱり飛ぶ人って珍しかったんだなって思った。ホノカ様が当たり前に飛ぶから、魔法でも飛ぶ人がいるんだって思ってた。
「飛ぶ人って珍しいんだと思います」
私はコッソリとホノカ様に伝えておく。
だって目立つし。
目立ったら絶対に狙われる。
だってホノカ様は小っちゃくて凄くお可愛らしいのだし。
「魔法の世界だし、飛ぶ人くらいいそうだけどなあ?」
「ここにいる皆様の表情から、珍しいということが確定しました」
「まあ、丁度いいか」
「なにがでしょう!?」
目立っているんですよ、ホノカ様!
危険ですっ!
という私の思いとは裏腹に、ホノカ様は並んでらっしゃる皆様と話し始めた。どうやら街に入るために必要なものを聞いている。確かにそれは私も分からない。
お金も必要なのだろうか? しかし私たちにはお金がない。
「ギルド証かお金かあ。どっちもないし困ったね、マイ」
「……はい」
そんな私たちに行商人が声を掛けてきた。私たちみたいな人でも、衛兵様の詰め所で審査して一時的に街へ入る許可が出るそうだ。もちろん街から出るときには通行料の支払いが発生するそうだけど。
行商人が言うには人の流れというものは、お金の流れということらしい。
私には意味が分からなかったけど、お金が動くのはいいことみたいだ。
説明を受けている内に私たちの番が来た。行商人にお礼を言って、衛兵様にギルド証もお金もないけど、物を売るために来たことを伝える。
詰め所でいくつかの質問に答えたあと、売却するものを検めると言われたので、ホノカ様がインベントリから出した。
「……異空間系はあまり人に見せないほうがいいぞ?」
「そうなんですか? 高価なのは知ってるけど、そこそこ出回ってるものなんじゃ」
そんなわけないらしい。奴隷が持ってるはずはないけど、私もそこそこ一般的なものなんだと思ってた。ホノカ様の世界でも新人じゃなければ、探索者たちはほぼ持ってたみたいだし。
ホノカ様と私の、世界間の齟齬をなくすためにミフルー様が記憶の調整をしてくださったけど……奴隷の記憶と異世界人様の記憶じゃあ、この世界の常識がないのも当たり前かもしれない。
「でもカバンに入れるより安全ですよね」
「うん」
衛兵様は、まず商業ギルドに行くことを勧めてくれた。商業ギルドなら外見が冒険者ほど荒くれではないから怖くないと。ただし搦め手で狙われるかもしれないから、気を付けなさいと言われた。
一時通行証を受け取る。私たちはお礼を言って街に入る。
ここはエルゼテーという街だと衛兵様から教わった。
「戦闘力はあるから、まずは冒険者ギルドで」
「分かりました」
正直なところ、搦め手には対処できない私たちには、冒険者ギルドのほうが安全という結論になった。
ホノカ様的には初手でビビらせちゃえばいいのよ、だそうだ。
「暴れちゃ駄目です、ホノカ様」
「違いますぅっ」
ビックリしてもらうために、ホノカ様のインベントリで保存しているドラゴンの頭。インパクト抜群だから、きっと上手くいくとホノカ様はご機嫌だ。
◆
「お遊びで来るところじゃねえんだよ、ガキが! は?」
「ホノカ様、なに言ってるんですか?」
「あ、いや、そういうイベントが起きるのを期待してたのに、なかった」
詳しく聞いたら顔を赤くしながら、ホノカ様が教えてくれた。
ひ弱そうな子供が冒険者ギルドに登録しに来る。すると荒くれがちょっかいを出してくる。なんだかんだと
それをやっつけて、カタルシスを存分に味わうことだそうだ。
受付嬢さんがボヒーと変な音を出して突っ伏した。
ホノカ様には詳しく聞くなと注意された。
「冒険者さんは怖い顔が多いけど、誰にでも噛みつくようなバカは、ここにいませんからね。安心していいですよ」
受付嬢さんは周りの冒険者さんから「バカじゃない」「怖くねぇよ」等々、文句を言われてはいるけど、荒くれではないのだろう。
「それで今日はどんな御用ですか?」
「ホノカ様の冒険者ギルドへの登録と魔物素材の売却です」
「ちょっと大きいのを持って来てるんですけど、どこで出せばいいのかな?」
と、ホノカ様がインベントリからドラゴンの顔をニュッと出した。
「ホ、ホノカ様!?」
シュポッとしまうホノカ様。成果を見せる子供みたいな感じでドラゴンを出し入れするとは思ってなかった。
精神は大人と言っていたはずだけど。
「どう?」
自慢げなホノカ様を、思わずギュッてしてしまった。そのとき気付いた。ギルドの中が静まり返っていることに。
「えっと、冒険者ギルドへの登録と魔物素材の売却をお願いしたいのですが」
私の声で動き始めたギルド内は、とても騒がしくなった。具体的にはドラゴン素材の売却か、パーティへの勧誘だ。
勧誘されても私自身は弱いし、そもそもの活動が霊山アーだけだ。私の万能作業台は動かしづらいので、加入することはない。ホノカ様も勧誘を断っていて、私はこっそりと安心した。
ホノカ様がパンパンと手を鳴らす。
「はいはい、私たちは勧誘は受けないし、素材もギルドに卸します!」
「ではこちらにおいでください」
受付嬢さんに解体場前のカウンターまで案内された。
「すいません。高そうなモモも16個あるのですが、それは商業ギルドでしょうか?」
私の質問に、受付嬢さんは書類をめくって確認している。
「依頼は入っていませんので、商業ギルドのほうがよいかと」
そしてやはりホノカ様のインベントリは、簡単に見せないほうがいいと注意される。現に勧誘合戦になっているし。冒険者さんたちは荒くれではなかったけど、強引ということは理解した。
ということでホノカ様は試験を受け、ギルド証とお金を手に入れる。年会費というものが必要だそうで、ホノカ様は1年分を払っておくことにしたようだ。
次の目的地は、私のギルド証を作るために商業ギルドだ。
「金貨って高いよね?」
「高いはずですよ?」
「いっぱいあるから、たぶん大金持ちになったよ」
「やっぱりさすがです。ホノカ様」
異世界人様のホノカ様はもちろん、お芋と干し肉でしか支払われたことのない私にも、貨幣の価値は分からない。
だけどドラゴンの価値は、お芋や干し肉では払えないものだということは分る。
ちなみにドラゴンの頭は、しつこくしつこく売ってくれと言われた。相当いいものが作れるみたいだ。
素材化してないから、売るわけにはいかないのが申し訳なかった。
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