10 3番目の男
「クソがッ! クソどもがよぉッ! ぶっ殺してやる」
「ガハハハッ、そのザマで? 口だけで殺せるとはコワイコワイ」
吠え散らかすグッジのところの3番。マイの兄。その3番は茶化されるように、決定した事柄を伝えられていた。口だけの坊やは黙っていろと、縄で縛られた3番に抗う術はなかった。
彼の行先は14番坑道。
用済みや邪魔ものが放り込まれる、帰還者のいない場所。直接手を下すことのできない奴隷たちの知恵。そこはただの処刑場。
権力を誇っていたグッジファミリーは、その地位を失っていた。別の上位奴隷ファミリーにとっては、マイがグッジファミリーを攻撃したことなど、どうでもいい事柄。ただ──権利を奪えるチャンスを、逃さなかっただけだからだ。
マイによって崩れ落ちたグッジファミリーの権威。それはまるで上質な甘味のようで、群がる奴隷たちはアリのごとく全てを持ち去った。
命を救われたのは2番の女。マイの姉のみ。彼女は回復魔法というアドバンテージがあるため、上位ファミリーの共有財産として飼われることが決定している。
マイの両親は治療されることなく森に捨てられ、魔獣の餌となっていた。
「ほぅら、行ってらっしゃーい」
「グオッ、クソがぁぁ。殺す殺す殺すコロスコロスコロス、ブッコロス!」
昇降機に蹴り入れられた3番。彼は地の底に着くまで喚き続けていた。パカリと開いた昇降機の床。まるでゴミを捨てるかのように3番は落とされたため、陸に上がった魚のように跳ねながら更に喚いていた。上層にいた奴隷たちには心地のよい咆哮だったようで、その日の酒は大層売れたという。
一方3番。彼はあまり考えることが得意ではなかった。手足を縛られているせいで満足に動くことができない。ただただ喚き散らしたあげく、疲れたためその場で睡眠を取る獣のような行動。
突然起きたかと思えばクソとコロスを掛け声に岩肌で縄を切ったのち、元気な様子で坑道の奥へと進んでいった。3番にとって力とは全ての源。全力で身体強化を掛け、全力で危険な坑道を突き進む。
魔物を蹴散らし、他人の骨を踏み砕く。腹が減れば魔物の肉を喰い散らかしていた。脳まで筋肉でできているかのような男だったが、そのお陰で生きながらえている。拾ったツルハシはちょうどいい棒のようで、適当に壁を叩きながら奥へ奥へと進んでいく。
その身体強化で穴を上れば、上層には辿り着けただろう。しかし3番はそうしなかった。多勢に無勢では勝てないことが、証明されてしまったからだ。例え脳筋でも、それは理解した。己が地の底にいるという現実で。
彼は存在すると噂されている金銀財宝を求めて、恨みを燃料に突き進んだ。
腹を下せばクソとコロスを喚き。
ツルハシが折れればクソとコロス。
今は魔物の尻尾を鞭代わりに、ただ財宝を目指して突っ走る。
3番は男神ミフルーだけに、笑いを届ける人生を送り始めた。
男神ミフルーは悩んだ。事の顛末をマイに伝えるべきかどうかを。
「グッフ、元気いっぱいである。言うなれば──」
3番目は多勢に無勢を覚えた!
3番目はお宝を探してみた!
しかしなにも見つからなかった!
である。
--------------------------------------------------------------------------
あとがき
読んでいただきありがとうございました!
推しキャラ転生はしゃーわせです
https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
こちらも読んでいただけると嬉しいです!
執筆の励みになりますので、よろしければフォロー、レビュー、感想、応援などをよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます