09 幸せの満腹時間

「夕方までの採取で少なかったらさ、明日も採取に時間掛けようか」

「そうですね。町に行っても売るものがなければ意味がありませんし」


 ホノカ様は魔物退治。

 私は採取だ。

 まずは採取場所の近辺を、ホノカ様が安全な状態にするそうだ。


「八つ当たりがしたいんですー」

「ンフフ、じゃあお願いしますね」

「安全第一だよ。マイ」

「はい」


 クラフターズハンマーを持ち、念のために「とげ罠」をカバンに詰め込む。作っておいた革の安全ブーツをホノカ様に渡した。ホノカ様は飛んで移動するから、あんまり関係ないのかもしれないけど。

 でも喜んでもらえた。


「あっ? クラフターズハンマーもパワーアップしてるんだね」

「はい。攻撃力も少し上がってます」


 魔物に対してはそんなに感じないけど、素材を壊す早さがかなり上がっている。そのお陰で採取に掛かる時間が少なくなって、効率も上がった。

 収納箱にも大量の素材を入れられるようになっているから、あまり考えずに素材化しても大丈夫だ。


「クラフターは全員ため込む性格だからね」

「ミフルー様も分かっておられる、ということですか」


 そういえば私の収納箱にも、岩系ブロックが色々溜まってるな。素材が取れる岩は、素材と石材になるから今では石材も600個を超えている。

 木材のほうは家とかで使い道が多かったから、それほど残ってはいない。それでも200個はある。


「おー、数字は完璧に覚えたの?」

「はいっ」


 だって1個ずつ収納すれば、収納箱で個数が出るので分かりやすいのだから。

 さあ、出発だ。

 ホノカ様と一緒に行動するときは、空を飛ぶのでとても楽しい。私も風魔法を使えるようになれば飛べるのかな?


 空から森を見渡せば、そこそこの数の魔物が動いている。あれはいつものサルの魔物だ。私にとっては強敵だけど、ホノカ様にはなんの問題のない魔物。

 ベリーを摘む感じで倒されていくサル。


「なんか魔物多いよね?」

「はい」


 私1人のときにこんなに魔物の数がいたら、死んでたと思う。でも霊山アーに着いたときには、魔物なんてほとんどいない状況だった。やっぱりなにか理由でもあるのかもしれないな。

 ホノカ様もそう思ったみたいで、採取を後回しにして見回ることになった。安全のために私も一緒に飛ばしてもらっている。


「万が一があるかもしれないので」

「いや、大丈夫だよ?」


 落ちたときに、私の身体でクッションにする。

 後ろからの攻撃に、私の身体をクッションにする。

 だから後ろからホノカ様にギュッと抱きついておくんだ。

 でも、私のそんな覚悟を笑い飛ばすかのような存在がいた。


「ヒッ!?」

「あー、なるほど、ね」


 儲かった~って言いながら、ホノカ様がドラゴンを3個に分けた。そのままだと大きすぎて、ホノカ様のインベントリにも入らないからだって。

 えぇ……?

 野菜の収穫みたいにドラゴンを……?

 えぇ……?

 ホノカ様は異世界人様だからお強いとは思っていた。だけど想像以上にお強い。

 思ってたのとは違うレベルで強かった。


「ぅゎぁ……ぉっょぃ…………」

「どうしたの? マイ」

「さすがです、ホノカ様っ!」


 これで拠点のほうに魔物が流れていた理由が分かった。

 だってドラゴンだし。

 でも退治したのでもう問題はないだろうってホノカ様が言う。

 たいした理由じゃなくてよかったねってホノカ様が言う。


 私は修業をどれだけやっても、追い付くことはないんだなと思った。私はもの作りで役に立とう。


 魔石35個、骨35個、毛皮35個、それにドラゴン1。

 きっと大儲けだと思う。

 ドラゴンの頭はそのままホノカ様のインベントリに入れておき、冒険者ギルドで見せたあとに、私が素材化することになった。

 他の部分は今やってしまう。頭以外は売るものリストに入れるけど、お肉の半分は私たちで食べることにした。


「美味しいはずだから期待してね!」

「はい!」


 ドラゴンの素材は多かった。

 お肉、鱗、爪、血液、骨。

 頭には角や目、牙なんかもあるから、もっと素材が増えそうだ。


 このドラゴンは、アースドラゴンというらしい。飛ばないヤツだけど、地面に潜って活動するそうだ。

 飛ぶヤツよりは弱いけど、発見が難しいそうで高く売れるみたい。ホノカ様の世界、チキュウでは、だけど。

 この世界ではどうかな?


「ゴリラの素材は微妙っぽいね」

「ゴリラですか?」

「そそ」


 サルじゃなかったみたいだ。サルならもっと小型なんだそうだ。それでも人間とは比べ物にならないほどの、身体能力があると言われた。私が最初に戦ったゴリラに勝てたのは、やはり頑健の加護のお陰だった。

 ありがとうございます。ミフルー様。


「魔物が多かった問題も解決したし、薬草採取にチェンジです」

「了解です」


 採取は私の仕事だ。頑張ろう。溜め攻撃だと広範囲に衝撃が出るから、ドッカンドッカン叩きまくる。魔力を使うから、訓練にもなるイッセキニチョーの採取方法だ。ただし、壊れて別物になるものもあるので、叩く前に確認は必要。

 何回か試さないと覚えられないかもしれないけど。


「モモ果汁になってしまいました」

「桃の木も木材になったみたいだね」

「失敗しました……」


 モモ果汁、レシピブックを見てみないと分からないけど、ガラスと一緒にクラフトしないと、収納箱から出せないものになってる気がする。

 しかもモモの木は貴重なのにな。


「申し訳ありません、ホノカ様。高級品を壊してしまいまして」

「まあその内、いい方法が使えるようになると思うよ。マイの万能作業台で」


 ホノカ様にはなにか思い当たることがあるみたい。気にしなくてもいいそうだけど、あまり無造作に破壊していくわけにもいかない。

 私は気を付けながら、薬草と果実を収納していく。


「チョンって叩くとそのまま収納なんだ」

「はい。でも小っちゃいものだけっぽいです」


 大きいものなんかは、破壊しないと収納できないようになっている。

 しばらく採取してから帰宅する。今回の成果は、薬草系、モモ、リンゴ、キノコ、石材、木材だ。

 さっそく指を治そうってホノカ様に言われたけど、私には案があった。ニョキニョキ生えるのは当たり前じゃないかもしれない。だから商業ギルドで見せたほうが、高く買い取ってもらえるんじゃないかと思ったんだ。


「凄くいい案だと思うんです、私っ!」

「マイちゃん。それはイクナイ案です」

「そ、そうなんですか?」

「商業ギルド員なら、鑑定は使えると思うよ?」


 確かに。

 凄く単純な回答だった。

 恥ずかしい。


「が、丸薬作りますねっ」

「うん。例え鑑定がなくったってさ、治さないっていう案には賛成しないから」

「はい」


 私はホノカ様に、ニョキニョキ生える指を見てもらった。


「おぉ。ねえマイ、痛かったりする?」

「いえ、くすぐったい感じですよ」


 治っていくときには若干の寒気に襲われ、ブルッと震える。そのあとお腹が空いてくる。

 これは前回も経験したことだから、回復するときの寒気と空腹はあるものなのかもしれないな。


「たぶんそれはさ、身体がエネルギーを求めてるんだと思う。夕ご飯にしよう」

「でしたら調理作業台を試してみます。少しお待ちください」

「はーい」


 万能作業台で、レンガで作られたかまど・・・をクラフトする。かまどには焚き火を入れる場所が2つ付いてるから、それなりの大きさだ。

 これは屋内で使うより庭で使うものかな?


「なかなかいい雰囲気のアイテムだね」


 かまどの前に立ったホノカ様が「おっ」と声を上げた。どうやらレシピが開いたようで、このかまどは私が操作しなくてもホノカ様が使えるらしい。

 すべての作業台ではないみたいだけど、ホノカ様が使える作業台があるのは、ありがたいかもしれない。


「マイ、マイ、夕ご飯はこれにしようよ」

「なんでしょう?」


 ホノカ様はレシピを指さしながら、声高らかにメニューを読み上げた。


「ドラゴンチーズバーガーッ!」

「ドラゴンチーズバーガー……ッ」


 私の万能作業台は、魅惑のレシピを習得していた。

 しかもレンガかまどは2つ同時に調理可能だ。

 ホノカ様と私はお互い頷き合って、食材を鍋に入れていく。

 必要な食材は、パン1つ、キャベツ1つ、ドラゴン肉1つ、チーズ1つ、塩1つ。


 そして久しぶりの2人でのご飯。

 楽しくて、嬉しくて。


「美味しいですね!」

「ええ!」


 幸せの満腹時間を過ごす。


 私たちはドラゴン素材のレシピを確認しながら、文字の勉強を夜になるまでやった。レシピの文字以外にも、私の話す言葉を地面に書いて教えてくれるホノカ様。

 少しずつだけど、文字を覚えていて嬉しく思った。


「レシピブックに色々と追加されています」

「石鹸、これは早めに欲しいもの……というより今作ってもらってもいい?」

「分かりました!」


 灰に熱湯を掛けて分離するまで、なんてことをしなくても万能作業台で作ることができる。素材は灰、お湯、油、木材。これでケースに入った石鹸が作られた。

 ホノカ様の鑑定結果で、そのまま使うと肌荒れを起こすかもしれない、ということが分かった。少しずつ試しながら使う必要がある。

 小さめのコップをガラスで作って計量用にする。


「モモ用の箱も作っちゃいますね」

「了解。緩衝材はオガクズでいいかな」


 モモは全部で16個。高く売れるといいな。他の売るものも整理しておこう。

 回復の丸薬は、私たち用に4個残して5つ売ることに。毒消しの丸薬は12個。ドラゴンの素材はお肉以外、今のところクラフトできないものばかりだったので、少しずつ私の収納箱に入れておいて残りは売ることになった。


 ドラゴンのお肉は大事。

 999個確保完了。


 あと魔石63個。

 たっぷりある。

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