06 トラヌタヌキノカワザンヨー
「まずは服ですね。まだ作っていませんし」
「すぐできるの?」
「はい。感覚的には5分も掛からないと思います」
「下着も必須!」
「そうですか?」
「私たちは飛んで移動するんだよ? 見えちゃう」
「絶対でしたね」
「あとはなんだろう?」
「えっと……」
他には……調理器具かな? それから火ばさみ? 糸と針もあれば修繕もできる。ホノカ様は食器が欲しいみたい。ベッドがあるんだから、レシピブックには入ってると思う。たぶんこれもすぐに作れるんじゃないかな。あ、あと掃除道具とかも必要だ。
「あ、ホノカ様! 熱いお湯の池を作っておけば、お湯の温度調整も簡単かもしれませんよ!」
「マイは天才です」
「そ、そんなこと……」
「天才です」
「うぅ」
褒められることなんてなかったから、凄く恥ずかしい。
「近いうちに町も探しに行きたいんだよね」
「そうですね」
私が今作れるのは、作業台で作れるのは木と布製品だけだ。金属製品のクラフトはできないので、買いに行くしかない。
村か町が見つかればいいけど。川沿いに下って行けば見つかるはずだからと、ホノカ様はあんまり心配していない。それに飛んで行けるから、時短は完璧って自信満々なのがお可愛らしくてたまらなかった。
「お風呂もちゃんと整備したいな」
「もっとですか?」
「うん」
身体を洗うところ、屋根、見栄えをよくするために、丸っこい岩を並べたいそうだ。今はお風呂に入るだけって感じで、くり抜いた地面に石のタイルを並べただけなのが気に入らないみたい。
「ツタとか花とかで目隠しというか、壁をそんな感じにもしたいかな」
「ウキウキします」
「ねー」
当然だけど、肝心の住まいもトーフハウスでは気に入らないホノカ様。可愛い家にするんだとニコニコ話してた。
ふぅ、さすがに熱くなってきた。服の様子を見よう。
「結構乾いてますよ、ホノカ様」
「じゃあもう出ちゃおう」
「身体が熱いうちに服と下着を作っちゃいますね」
「うん。ありがとね、マイ」
「お役に立てるのが嬉しいです!」
そういえばニホンシュとショーユも必要だ。ホノカ様によれば、苗や種があれば水田や畑で育てられるはず、とのこと。買わないといけない。ただ、私たちには農業の経験はない。ものだけじゃなくて、知識も足りないんだなあ。
でも町で買い物するならお金が必要だ。その場合なにを売るのがいいんだろう?
私もホノカ様も、ものの価値を分かってない。そこが問題になるかもしれない。
「町ではなにを売りましょうか?」
「そこも問題だよねえ」
服と下着を渡しながら聞いてみた。
「マイが採取して来た薬草とかは売れそうだけど──」
その薬草を使って、回復薬や毒消し薬をクラフトできないか聞かれた。でも字が分からないのでホノカ様と一緒に字を習いながらレシピブックを見ていく。
ホノカ様によれば、ある程度のグループ分けがされているそうだ。
建材のグループだったり、服や家具のグループだったり。
薬草を使ったレシピがあるのは、消費するもののグループだった。回復薬や肥料、料理のレシピなどが並んでいる。
「作れるみたいだね!」
「はいっ」
私はレシピの字を真似して書きながら、何度も読み上げていく。だいたいは絵と一致している名前だったけど「ベッド」だと思っていた字が「木のベッド」だったりして、油断ができなかった。
早く読み書きを習得しなくては、ホノカ様の御迷惑になってしまうな。
「高く売れるといいね」
「はい。採ってきた分は寝る前にでも全部丸薬にしちゃいますね」
今は文字を教わりながら、レシピの確認が大事だと思う。
「そういえばミフルー様に出していただいたオーク、魔石を持ってくるの忘れてましたね」
「あーそうだ。失敗したなあ」
「もったいなかったです」
でもホノカ様がお試しでオークを雑巾みたいに絞ったから、魔石は壊れてたかもしれないな。
「売るように一応果物も持って行ってみよう」
「普通の果物じゃないんですか?」
「マイが持って帰って来た桃、鑑定したら高級フルーツだったみたい」
「あれが高級な味ということなんですね。とても美味しかったですし」
初めて見る果物だったけど、そこら中に
この果物、凄く美味しかったし高級だったら嬉しいな。甘くクリーミーな香りで、繊維質の果肉なのにとろけるみたいな柔らかさ。くどくない軽やかな甘みと、たっぷりの果汁で、口の中を幸せにしてくれる果実だ。当然レシピにも登録するため、1回収納箱に入れている。
1個センエンくらいになれば、とか言いながらニヨニヨしているホノカ様。あ、これはあれだ。トラヌタヌキノカワザンヨーだ。自分に都合のいい未来を妄想して、楽しい時間を過ごすことらしい。
そう考えると、私も結構トラヌタヌキノカワザンヨーしてたかも。高かったらいいなとか、お役に立てるといいなとか、いっぱい考えてた。そう伝えたらホノカ様は恥ずかしくなるからやめてって慌てだした。
「私は俗物なのよー、俗物う。あ、マイ! これっ。これはすぐにでも作らないと」
「えっと?」
クラフターズハンマー。
武器だけど、このハンマーにはもっと重要な役割があった。壊したものを素材化して、収納箱に自動で入れる機能が付いている。素材集めが重要な私には、とてもありがたいハンマーだった。
「ま、魔法の武器ですか……」
「え、今さらでしょ? 万能作業台のほうがオカシイ性能だし」
「そういえばそうでした……」
「ほら、作って作って」
「はい」
クラフターズハンマーも作業台のグレードアップと共に、より強力なものになるんじゃないかとホノカ様は予想してた。
私がこんなにもご加護を頂いていいのか、凄く疑問があるけど……ホノカ様の言う通り、今さらでもある。返そうにも返せないものだし。
ちゃんと使いこなしてご恩に報いよう。
「現実でゲームのツールがあると完全にチート。感謝の心だけじゃ足りないから早めに教会を建てようね」
「はい!」
具体的には万能作業台のグレードアップ。そうすれば色々な作業ができるようになるはずだし。
「しかしモモと丸薬で、買い物できるくらいのお金が手に入るのでしょうか」
「魔物素材も必要かな、やっぱり」
しかし私たちは魔物のどの部分が素材になるのか、分かってない。唯一、魔石だけが売れることをしているけども。
「効率が悪くても仕方ないよね」
「ホノカ様のインベントリに、丸ごと入れて行きますか?」
「そう……だね。大きいのを狙っちゃうか!」
モモは状態保存が付いてるインベントリに入れておく必要があるから、ホノカ様は4種類の大型魔物を明日にでも探すそうだ。
5枠しかないとブツブツ文句を言ってる……ホノカ様、ホノカ様、ミフルー様に対してとても不敬ですってば。
とりあえずモモは20個売ることにして、その分のケースを作ることに。ケース作りと採取は明日だ。
持って帰った分は食べてなくなっているので、がんばって探そう。
「そろそろ寝よっか」
暗いところで勉強すると、なんとなくだけど目が悪くなりそうな気がするそうだ。クラフトレシピの表示は明るいから平気そうだけど、そう聞いたら念のためだって言われた。
「分かりました。あ、そういえば私、久しぶりに温かい寝床かもしれません」
鉱山で温かい寝床は、覚えてないくらい前だったような気がするなあって思ってたら、ホノカ様にギュッてされた。
ホノカ様は大人。それは分っている。分かってはいるけど、幼い姿になったホノカ様が抱きついて来ると、甘えているようで……凄く甘やかしたくなってしまう。ホコホコしてるし。可愛いし。
うつらうつらしているので、抱っこして運ぼう。ガリガリの私でも、身体強化をすれば子供くらいは運べるし。
ホノカ様にはゆっくりお休みいただこう。
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あとがき
読んでいただきありがとうございました!
推しキャラ転生はしゃーわせです
https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
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