05 山をくり抜くのは簡単じゃないと思う
「言われてみれば、まさにマイの言う通りだったよ。気付け私っ」
落ち込んでいたホノカ様が活動を再開した。なんて言えばいいのか、私も分からい。建物のことはブロック作りしか手伝えない私は、悔しい思いしかない。
「私にもお手伝いできることがあればいいんですけど」
「ううん。むしろ今気付いたことはいいことだよ」
水洗トイレの案を煮詰めていく私たち。水路上にトイレを作る案はそのままだけど、流す先は別の場所にするほうがいいんじゃないかということになった。
湖から流れ出る川に繋げるには、高低差が足りないそうだ。流す勢いが足りなくて、途中で詰まる可能性があると言われた。その場合、詰まった場所を特定するために水路の蓋を一々開閉して確かめるしかないから、厄介なことになる。
「色々と条件があるんですね」
「それを解決する案だけど……」
山をくり抜いて向こう側に落とすのがいいんじゃないかって、ホノカ様が言い出した。それなら簡単だって。山を……。
「山をくり抜くんですか?」
「そうそう。向こう側が海だったら簡単だったのにって思ってたんだけどさ、別に海じゃなくても山の向こうに落とせばいいって気付いたよ」
流したものは森に帰るでしょ、ってホノカ様。山をくり抜くのは簡単じゃないと思うけど、そこは考えてないみたい。それに海の側を候補から外したのもホノカ様です。
「そんなことよりさあ、葉っぱとか藁のベッドみたいなのってどうなの?」
アニメなんかで見て、ちょっと憧れがあると言われた。
え? 山は? くり抜くの、そんな扱いでいいのかな?
ホノカ様の中では山をくり抜く問題より、寝心地のほうに意識が動いたみたいだ。
「えっと、チクチクしますよ? 刺さって赤くブツブツになりますし」
「現実ってキビシイ」
でも山は厳しくない。
ホノカ様の中では。
「厚めの布があれば大丈夫ですけど……それなら葉っぱじゃなくてオガクズで代用できる気がします」
「それもそうか。トイレで使うこともなくなったしね、オガクズ。だったら薄い布でもよさそう」
「でもレシピを見るとツタと木の絵だけ描いてあるので、オガクズも不要そうです」
「万能だったね!」
「はいっ!」
木でできている、ボロっちい作業台だというのに。
必要な数は字が読めないので分からないけど、木とツタだけでベッドが完成する万能作業台。
凄い。
「あの、文字を教えていただきたいです」
「もちろん。大事なことだもんね」
レシピを見るのにも文字が読めないと分からないことも多い。絵が描いてあるから、ある程度は把握できるけどそれだけでは駄目だと思う。
でもまず私のやることは、タオルと今夜の寝床。それが完成して、ホノカ様の時間が取れたら教えてもらうことになった。
「さあ、忙しくなってまいりましたっ」
「頑張りましょうっ」
「じゃあ私は山をくり抜いて来るー」
「はーい!」
くり抜くと同時に石材が集まるから一石二鳥なんだって。私は計画通りに、まずはタオルの制作だ。4枚あれば特に問題はないはず。
「あ、そういえば乾いたオガクズと灰を入れるものがない」
箱に入れておかないと風で散ってしまう。ベッドの前に木箱を作って入れておこう。そうなるとシャベルもあったほうがいいな。作業が早くなるし。
木箱を2つ。シャベルも2つ。あ、桶もあったほうがいい。
万能作業台、不思議な道具だ。
コココン、コココン。コココン、コココン。
そう、木づちを作業台に打ち付けると木箱や桶ができたり、シャベルができたりする。
ものを作るたびに、私はミフルー様のご加護を感じられた。
色々やることがあって、そのことにワクワクしている自分に驚いた。
「楽しい」
鉱山での生活は、掘って運ぶという作業だったから似たような労働のはずだけど、強制じゃないからかなあ? オガクズと灰が軽いから、という訳理由ではないはず。
自分たちでやったことが、自分たちのものになるからかな?
ミフルー様にもホノカ様にも、ちゃんと恩返しできるといいな。
それにしても、このクラフト作業。ちょっと癖になりそうな楽しさ。コココン、コココン、と何気なくリズムに乗りながらベッドを作っていると、ホノカ様が帰って来た。
「なんかご機嫌だね、マイ」
「楽しいです!」
「分かる。クラフターズやってたらいつの間にか時間が進んでたもん」
「あっ、そういえばいつの間にか日が落ちてきてます」
もう夕方になりそうな時間だった。ホノカ様は、トイレ用の水路は勢いよく流れるように、かなり急勾配を付けて山の向こうに流すように作ったそうだ。ついでに石材もたっぷりストックできたと言う、ご機嫌のホノカ様。
「水洗トイレも完成したし、明るいうちにお風呂と洗濯をしてしまおう」
「そうですね。私が洗いますので、先に入っちゃってください」
自分の分くらい自分でやると言われた。でも雑用くらいはせめて私がやらないと、いたたまれないということをホノカ様に伝える。
「そんなの気にしなくてもいいのに」
ぶー、ってカワイイ顔しながら言っても駄目です。
今日のところはお湯で洗うだけになる。灰を使った洗剤は間に合わないということなので。
そんな説明をしながら、ホノカ様があっという間に洗濯場を岩で作った。インベントリから大きい岩を取り出して、サイコキネシスでだと思うけどザクザク切断してた。
私が万能作業台を使って素材を作るみたいに、サクサク建材ができていく。これなら確かに、山をくり抜くのが簡単って言えるのかも? そう思える光景が目の前にあった。
5メートルくらいある岩のブロックが、ホノカ様からモリモリ出てくるのだから。
これは頑張るとか、お役に立てるようとか、そんなのじゃないかもしれない。
修行……? 修行の気がする。
「洗濯もお湯のほうが汚れ落ちるよね」
「あ、はいっ」
「んー、手とか足とか、洗うところも必要だったかあ」
手と足を見て、湖から引いている水路の一部を拡張するホノカ様。今出してた建材の岩を板状に切り裂いて、今度はあっという間に手足洗い場も完成した。
「できた。冬はまた考えよう」
「水で洗うの冷たいですもんね」
幸い今の季節は秋。寒いというほどじゃないから平気だけど、お湯は嬉しい。ホノカ様が水を溜めているところに焼いた石を投入する。
お湯の温度は調節が難しくて、何度か水を追加している。これは慣れが必要かもしれない。特にお風呂のほうは水の量が多いので、
「火ばさみがあれば私でも準備できるんですが」
「足りないものが多すぎるねえ」
「はいぃ」
「でもさ、ミフルー様のおかげで食べ物の心配をしなくていいのは幸いだよね。他のことに集中できるし」
「はい。ありがたいことです」
霊山アーで活動始めたばかりだから、色々と不足しているのは仕方がないと思う。でもホノカ様のおかげで、凄い早さで充実していってるんじゃないかな。
いつの間にか焚き火の側に、物干し台ができてるし。
「洗いますので服を預けてください」
「やっぱ私も自分で洗うよ。そのほうが乾くのが早いでしょ」
1人1枚洗えば済むことだと言って、ホノカ様も洗濯し始めた。
「私の仕事ですのに」
「増えたらお願いするよ」
今は着替えがないから、乾くまで裸でいるしかない。だからさっさと洗って、さっさと干して、2人でお風呂に入ろうって言ってくださった。
「そのほうがノンビリ浸かれるじゃん?」
「分かりましたよ、もう」
「1人じゃ背中も洗えないしね」
「確かに」
私たちはお風呂でノンビリしながら、生活に必要なものを話し合うことにした。
あとで足りない、なんてことがないように。
「メモ帳もないし地面にでも書いておくかあ」
「私は頑張って文字を覚えます!」
「勉強に前向きなの、私は尊敬しちゃうよ」
色々と知識が増えるのは楽しいことなのに、ホノカ様的には嫌いなことらしい。
「火力こそパワーッ!」
なんとなくだけど、それはダメな考えなんじゃないかと思った。
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あとがき
読んでいただきありがとうございました!
推しキャラ転生はしゃーわせです
https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
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