02 ホノカ様はサイコキノ

 男神様から加護と能力の説明を受ける。私には頑健の加護、健康の加護、そして万能作業台という能力を与えてくださった。加護は私の身体を頑丈にするものだそうだ。能力は魔力を消費して、作業台を生み出すものらしい。


 今の貧弱な私であっても、ある程度のものは作れると教わった。魔力を鍛えればもっと色々と作れるようになるみたい。更に作業台付属している収納箱に製品を入れるとレシピが登録されて、必要な素材が分かるそうだ。


 素材を収納箱に入れるという行為でも恩恵があると、男神様はおっしゃられた。全てではないけど、レシピが解放される仕組みとのこと。なんでも収納箱に入れてみるのがよさそうだ。


「大事なことだが、地に降りたあとすぐにでも、ホノカの持っている食料を収納箱に入れるように」

「はい」

「ホノカの故郷の民の情熱は称賛に値する。なんなのであろうな? 娯楽や食に対するあの研鑽ぶりは」

「そうなのですか?」

「うむ。ホノカ持参の食料には期待するがよい」

「はいっ!」


 ホノカ様持参のお昼ご飯。それを私の収納箱でレシピを開放すること。私は男神様に教わったから知っている。

 この世界では再現が困難なことを。

 だからこれが私の、人として初めての仕事だ。

 とても大事な仕事。


 トンカツとカラアゲからなる、大盛りとんから弁当とカップトンジル、コーラに野菜ジュース。それからプリン、ヨーグルト、ポテチにモンブラン。私はホノカ様の記憶と照らし合わせたから知っている。

 一般女子が食べるお昼ご飯の量じゃないことも。

 だけどこれは私の大事な仕事。

 ホノカ様の故郷の味、失うわけにはいかないのだから。


「そなたの決意は理解したが、少し落ち着くがよい。2人して興奮されると眩しいではないか」

「あ、ハイ……」


 神界ではポジティブなら輝き、ネガティブなら暗雲が出るそうだ。

 不思議な場所だなあ。

 そんなことを考えてると、ホノカ様が能力の一覧を見終わったみたい。


「うーん、戦闘系能力が充実してるのね。この世界も結構モンスターがいるの?」

「はい、ホノカ様。こちらでは魔物と呼ばれています。国同士で争いもありますし」

「うわ……外敵がいるのに戦争までしてるんだ」

「地球と違い、人の生存圏がまだ狭いのが原因であろう」


 魔物との距離が地球よりは遠いことで、戦争が起こりやすいのではないかと男神様が説明してくれた。地球は魔物と人の生存圏が近くなっているから、ホノカ様は働き詰めだったそうだ。


「領土を広げようとしてるから戦争もあるし、魔物とも戦うんだね」

「試すか?」

「そこそこのをお願いします、神様。私の能力が使えるなら戦闘系は省けますし」

「ならば中級クラスを」

「ホノカ様、頑張ってください! 素材になりますよ」

「いつでもおいで下さいませ~」


 パンパンと頬を叩いたホノカ様が、魔物を要求した。

 ホノカ様の世界にも不思議な力がある。

 そしてホノカ様の能力は、この世界では聞いたことのない見えない力。


 男神様が呼び出したオークが咆哮を上げて、威嚇するように棍棒を地面に叩きつけた。ホノカ様はなんの気負いもなく、歩いてオークに近づいて行く。


「あっ」


 オークが浮いた。ホノカ様からは魔力が放出した様子はない。なのにオークはなすすべなく地面と宙を行き来した。

 あれ? 魔力を使い始めたみたい。

 うわあ……オークを雑巾みたいに……。


「魔力でも使えるね! 魔力も鍛えたら単純に倍だよ」


 ニッコリ笑ってるホノカ様。さすが異世界人様だ。凄く強いんだなあ。ピカピカ光ってるから、ご機嫌なのが伺い知れた。


「ところでマイはサイコパワーは感じ取れた? オークには気付かれなかったみたいだけど」

「私も分かりませんでした」

「神様は分かったから、気付く人がいたっておかしくはないか。でもまあ強者だけって可能性もあるしね」


 魔力を囮にサイコパワーで仕留めるっていう手段もあると、満足そうなホノカ様。


「つまり私の選ぶべき能力は、便利系ってことか」


 読み書き会話の言語セットは異世界転生転移ボーナスに入っているそうで、わざわざポイントを使う必要がないらしい。

 そして男神様の祝福は、私と同じものが与えられてるそうだ。

 戦闘系も除けば、かなりのポイントを節約できるみたいだけど……男神様までゲームに寄せて説明されるとモヤモヤする。


 ご加護や祝福をボーナスとかセットとかポイントとか……モヤモヤする。


「インベントリ系が高すぎるっ」

「ホノカのサイコキネシスは素で強いのでな。バランス調整でポイントは少なめなのだ」

「わ、私を助けたせいですよね? 申し訳ありません……ホノカ様」

「後悔なんて1ミリもないし」

「そもそもマイを助けたことで、ボーナスポイントが付与されておるのだ」


 ホノカ様を試したそうだ。私を見殺しにして転生するか、私を助けるためにポイントを使うのかを。


「それでマイの間際を見せたのね?」

しかり」


 長く見せると同情するし、間に合わなければ意味はない。だから私の死に際から見てたそうだ。


「神は救うのではない。刹那の輝きを拾うのだ」

「急に神様っぽい」

「ホ、ホノカ様っ」


 不敬ですってば!


「でもまあ、私たちは神様に救われたと思ってますよ」

「はい!」


 だから男神様の神殿は絶対作るんだって、ホノカ様は宣言した。


「つまり、インベントリは欲しいのよぉ」


 鑑定も欲しいらしい。お風呂も欲しいらしくて、火と水の魔法も欲しいと言っている。


「火起こしと飲み水くらいでしたら、初級魔法で出せますし、私も使えます」

「じゃあ大量の水は、どこかから運ぶのもありかな」

「移動はできませんけど、私にも収納箱があります」


 そして万能作業台のグレードが上がると、収納量も上がること、素材や製品を収納するとレシピを得ることができるとも伝える。


「なら基本はマイの収納箱に入れるほうがよさそうね」


 ホノカ様は、5枠のインベントリと、初級魔法。それから低レベルの鑑定を選んだ。


「鑑定は育てる。追加のインベントリはマジックアイテムを探す、でいいかな」

「ポイントを全て消費するとなれば、スタート地点が人里にはならぬが?」


 男神様の説明によれば、1ポイント1家族。最低ラインが10ポイントだそうだ。10家族ということは精々50~60人の小さな村になる。

 ホノカ様と相談した結果、それなら2人スタートとあまり変わらないんじゃないかという答えに至った。


「小さな村だと馴染めるかどうかというのもありますからね」

「そうそう。急に湧いた人間と仲良くできるはずがないよ」


 初級魔法は5ポイント。低レベルの鑑定は15ポイントらしい。2つ合わせても村にしか行けない。だとしたら町に移動することになりそう。ちなみにホノカ様が選んだ小っちゃいインベントリでも、80ポイントだそうだ。5枠あって、それぞれに10個の同じ物が入ると教えてくれた。


「インベントリを諦めよ。さすれば町である」

「それはない。それはないですよ神様。ナンセンス!」


 インベントリは絶対の絶対なんだって。ホノカ様的には。


「神殿を建てるには必要ですしぃ」


 それは必要そうだけど、ホノカ様のあの顔は手ぶらで行動したいだけの気がする。


「では転移先を候補から選ぶがよい」

「私的には水場、木、岩場が欲しいかな」

「岩場ですか?」

「ええ」


 サンドボックス系のブロックゲームが、好きだったと言うホノカ様。

 なるほど、作ったブロックを使って組み上げて、建築物を作って遊ぶもの。というのが、私の頭に浮かんでくる。ホノカ様はサイコキネシスで岩を使って拠点を作るそうだ。


「ドラFクラフターズⅢsは神ゲーです」

「架空の遊びの技を現実でできるなんて凄いです!」

「なに言ってんの、マイがブロックを作るんだよ?」

「あっ、確かに。頑張りますね!」

「ふはは、ならば我が神殿も期待しておこう」


 ホノカ様と私は、男神様が見せてくれている映像で拠点候補を吟味する。しかし条件に一致する場所は少なかった。


「海の側はどうでしょうか? お魚とか獲れますし」

「んー、塩害とかありそうだしね。水にも塩が混じりそう」

「そうなると火口のところしかなさそうですけど」

「活火山だと住めないけど、なんか緑も豊富だし平気そうじゃない?」


 ロバの足みたいに山の片側が崩れてU字型の窪みになっている。山頂付近には湖が見えているし、周囲には森が形成されていた。男神様によると、馬蹄形カルデラという地形だそうだ。


「ねえ神様、ここって噴火の危険はあります?」

「候補に出ておる時点で問題はない」


 ただし、あくまで人の力で解決できないものだけが、除外されているそうだ。つまり魔物の危険はあると説明された。しかし魔物は素材や食料にもなる。出て来たらホノカ様が退治するということになった。


 私たちの始まりの地。

 それは霊山アーと呼ばれる場所に決定した。

 はるか昔に大地の怒りと言われた、大噴火のあった場所。


 人もほとんど訪れないそうだ。貴重な素材なんかはあるそうで、稀にそれを求めて山を登って来る人もいるらしい。それはそれで交流も生まれるかもしれない。人が恐れるようなところに行く人なんて、強い人だろうしマジックアイテムの情報を持ってるかもって、ホノカ様は期待してるみたい。


「簡単には教えてくれないと思いますが」

「捕らぬ狸の皮算用ってねぇ、とっても楽しいものなんです!」


 ホノカ様のポジティブさは見習おう。



--------------------------------------------------------------------------

あとがき

読んでいただきありがとうございました!


推しキャラ転生はしゃーわせです

https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178

コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)

https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380


こちらも読んでいただけると嬉しいです!

執筆の励みになりますので、よろしければフォロー、レビュー、感想、応援などをよろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る