03 カミノミゾシル
「ではよいな?」
「男神様、色々とありがとうございました」
「神様、ありがとうございました。立派な神殿、建ててみせます」
「うむ、我はミフルー。約束、友誼、太陽の守護神なり。そなたらに幸あらんことを」
光に包まれる私たち。手を振るミフルー様に礼を返して、霊山アーに転移した。水の香りと木々の香りが、柔らかな風に乗って届く。
「なかなかよさそうな場所だね、マイ」
「はい。えっ……ほ、ホノカ様っ!?」
小っちゃい!
カワイイ!
「ギュッてしたい!」
「え?」
「は!? も、申し訳ありません、ホノカ様。ホノカ様のお姿が可愛らしくなられていますので、つい」
「ええ? ぅわあ……子供になっちゃてるじゃん」
その時、水面が光ってミフルー様からメッセージが届いた。どうやら日本で亡くなられたホノカ様のご遺体を誤魔化すために、肉体の3分の1を使ったため小っちゃくなったと書いてあるそうだ。
ただ、身体能力は魔力のあるこちらの世界のほうが優れているらしく、問題なく動けるだろうとのこと。
「精神まで子供になってるわけじゃないし、まあいいか。それに──」
ミフルー様に頂いた祝福のせいか、新しい人生への期待感か、私自身も明るくなっていると言われた。それは大いにあるかもしれないな。ホノカ様もそんな私を見て、ニコニコしていてとてもお可愛らしい。
「ニホンのときはダンジョンに入り浸っていたみたいですけど、ダメですよ?」
「わ、分かってるよ。気を付けるよ。もう死にたくないし」
「では拠点を決めましょう。私の万能作業台を設置しなくては、ホノカ様の故郷の味を保存できませんので」
「これ?」
コンビニ袋を持ち上げるホノカ様に、私は頷き作業台の説明をした。
「レシピブックに登録されるのは助かるね」
「はい。助かります」
ただ万能作業台に付属している収納箱は、中になにかが収納されていると移動できないから、考えて置き場所を決めなくてはいけない。設置したてなら問題はないだろうけど、収納枠が増えたあとではかなり大変になるだろうから。
「ご飯の前に設置するべきよね」
私たちは森の恵みをつまみながら、拠点候補地を探すことにした。
ホノカ様の鑑定で、火口湖の水は生活用水として使用可能なことが分かった。なんとなく清浄な気配が漂う湖なので、鑑定がなくてもそのまま飲んじゃいそうな水だけど。
ホノカ様は空から大まかな場所を選ぶそうだ。初級魔法があるので特に困らないけど、飲む場合は念のために1回沸騰させたほうがいいかもと言われた。
「ホノカ様は飛べるんですね」
「飛ぶというより、持ち運んでるんだよ。怖くない?」
「はい。素敵な体験です!」
ホノカ様のお身体が、ホコホコしててとても温かい。
「私が操作してるんだから、抱っこしなくてもいいんだよ?」
「万が一落下した時には、私の身体でお守りします」
「落とさないよ。落ちる前に降りるってば」
「お守りするんです!」
ホノカ様のお身体が、ホコホコしててとても温かい。
「なんかマイから
「気のせいだと思いますが」
私はホノカ様をギュッとできて幸せな気分なんだし。でも幸せに浸ってばかりではいけない。なるべく早く拠点を決めなければ、今日の寝床も確保できないのだから。私なら平気だけど、ホノカ様のお身体は子供になっている。地面に寝るのは辛いはずだ。簡単なものだとしても、敷布団らしきものは作らなきゃ。
「あの、ホノカ様。問題が発生しました」
「どうしたの?」
「食べ物はどうにかなります。ミフルー様のお情けで1ヶ月分いただきましたし」
「うん」
「住居もホノカ様が作ることで、なんとかなりますよね?」
「もちろんマイにはブロックを作ってもらうけどね」
「着るものやシーツなどの素材がありませんし、素材になるものがなにかも分かりません」
ギュッとしているホノカ様のお身体が、ビクッと跳ねた。布製品は今の私たちが着ている、ミフルー様から頂いた貫頭衣くらいしかない。
あ、貫頭衣を収納箱に入れたら素材が判明するのか。素材が手に入ればいいんだけど、どうかな。
「よし、あそこでいいや。いいところを探すより、早めにいいところにしよう」
「はいっ」
湖から1Kmほど離れた崖の側を、拠点にすることにしたみたいだ。地面に降りて邪魔なものをサイコキネシスで退かしていくホノカ様。確かに探し回って時間を消費するよりは、拠点の作成に時間を掛けたほうがいいはず。でも私にできることは少ないだろうなあ。
ガリガリの痩せっぽちだから、魔力も体力も少ない。身体強化をしても短時間で動けなくるはずだ。ホノカ様の整地作業を見ているしかない。
「時間が掛かるかもしれませんが、お役に立てるよう頑張ります」
「ゆっくりでいいよ。今はマイの身体を作るのが大事なことだからね」
「念願の満腹を毎日目指します」
「そう考えるとさ、大盛りとんから弁当はいいチョイスだったかも」
お肉は身体を作るには最適だからねと、ホノカ様が笑った。問題は素材が今は不明なところ。手に入りやすい素材だと嬉しいな。美味しいものということはミフルー様から教わって分かっているけど、味までは理解できていないから。
「さて、建材持ってないからブロックの仮置きすらできない状況だし、ラインだけ引いてマイの作業場の位置を決めるね」
そう言ったホノカ様が1人で宙に浮いて、サイコキネシスで地面を削っていく。サイコキネシスって万能だなあ。なんだか魔法使い様が可哀想になってきた。そんなことを伝えたら、そうでもなかったらしい。
「サイコキネシスって意思の力だもん。寝てたら発揮できないんだよね」
そうか。魔法系ならプログラム次第で意思とは関係なく発動可能だし、魔力を物質に変換できる。
「なんでも使い方次第ってことですね」
「そそ──うん、オッケー。マイ、ここに作業台してくれる?」
「はい」
私はラインに沿って、万能作業台に出ろって意識を集中させた。
私の魔力が低いせいか、作業台のグレードアップをしてないせいかは分からないけど──
「これが万能……?」
「万能感は全然ありませんね……」
──木でできている、ボロっちい作業台が出てきた。作業台の横にはただの木箱がある。これが収納箱かな?
だけど随分と過分な能力を頂いてしまったと感じている。だって作業台は成長するのが分かっているのだから。私は恐れおののいているのに、ホノカ様はなんでもないことのように、収納箱を開いた。
「ミフルー様は過保護ってことが分かったね」
「はい」
どう見ても1ヶ月じゃ食べきれない食料や水が入っていた。
凄くいっぱい。
状態保存の魔法もかかってるのだろう。なにせ神様製マジックアイテムだし。
しかもパンとチーズとブロック肉とキャベツ。水とミルクは便利な蛇口付きタンクで入れてあった……。
「999個ずつ入ってるんだけど」
私は、パンとチーズとブロック肉とキャベツと水とミルクと9という文字を、覚えた。
「さっそくお弁当をしまいますか!」
ホノカ様が収納箱にコンビニ袋を入れようとした。
「まさか入らないとは思いませんでした……」
「私のインベントリには袋ごと入るんだけどね」
条件が違うみたい。
私の収納箱は、大量に入るけど、製品を複数入れた袋や箱は、収納できないみたいだ。ただ、お弁当みたいに最初から色々入っている製品は、それが1つのものとして認識された。
「レシピの関係かもね」
「なるほど、さすがホノカ様っ」
「ふっふーん、まあねっ」
自慢気に胸を張る、幼くなったホノカ様はとてもお可愛らしい。
とりあえず、ホノカ様の持って来たものを、一旦私の収納箱へ順番に入れてレシピを習得しておく。品数が多いので、全部は入りきらない。
ミフルー様からいただいた食料で6枠。現状ではあと4枠しかないためだ。
「私のほうに入れておくね」
「はい、成長するまではお願いします」
順番に色んなものをどんどん入れておこう。
岩や土、木や草、果物など。色々と収納を繰り返すと、岩塩や果糖も発見できた。
「ホノカ様、このツタで貫頭衣が作れます」
「なぜツタで布になるんだろう」
「わかりません」
「ミフルー様はクラフターズシリーズを参考にしてるのかなあ?」
「ゲームを、ですか?」
「うん。草で布を作れてたし」
「謎です」
こういうのを、カミノミゾシルと言うそうだ。
カップトンジルのような、ミソシルの仲間なのだろうか。
そんな雑談をしながらしばらくの間、建材になる岩や木を、私の収納箱にため込む作業をする。
「お腹空いてきたね」
「はい」
「お昼ご飯にしよう。丸太を使って簡単な食卓を作るよ」
「では私は焚き火を」
拠点を作るために退かした、木や石があるのですぐに準備できた。
「ねえマイ、初級魔法って使える人多いの?」
「そうですね。これはだいたいの人が使えます。生活するのに必要ですので」
「水と火は大事だもんね。そりゃあそうか」
「ホノカ様にはピットは不要っぽいですよね」
「うん」
サイコキネシスなら地面以外にも穴が掘れるからなあ。でも火魔法と水魔法をポイントで取ると鑑定が取れなかったそうだ。
「乾燥とかもあればよかったのにね」
「ブリーズを使えば1時間はそよ風を出せますけど」
「乾かないよね」
「な、夏は涼しくなりますっ」
ホノカ様と話をしながら食事の準備をするものの、空腹がまぎれることはなかった。だから2人のお腹はグーグー鳴りっぱなしだった。
--------------------------------------------------------------------------
あとがき
読んでいただきありがとうございました!
推しキャラ転生はしゃーわせです
https://kakuyomu.jp/works/16818023212548900178
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
こちらも読んでいただけると嬉しいです!
執筆の励みになりますので、よろしければフォロー、レビュー、感想、応援などをよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます