第26話
杏子の病気の進行は比較的穏やかで、知らない人は、杏子が難病を抱えているとは全く気づかないだろう。スタジオミュージシャンとしての仕事はどんどん入ってきたが、やりすぎないようにしていた。
教職という忙しい仕事について、杏子のことをおろそかにしたくない賢三は、クラス担任をもたせられない専科の先生として雇われたことに感謝していた。それでも、部活動を支えていることで、自由な時間は決して多くなかった。やりだした仕事と生徒からの信頼は、真面目に取り組み、生徒から圧倒的な支持を受けているのを多くのベテラン教師たちが羨ましく感じた。元男子校だったので、女子は圧倒的に少ないせいか、軽音楽部は、男子の作れる自由なバンドが売り物だった。賢三は、やりたいなら徹底的にうまくなれ!と教えた。一ノ瀬と連絡を取り合って、双方の情報を交換しながら、時々お互いが指導に行くことを約束した。一ノ瀬が来れば、ベーシストが増えるな。。。という期待が膨らむ。学校にはコンバスは、1本しか無い。エレキベースを数本、中古で購入できるようにするかな。。。賢三はそんな事を考えながら仕事に打ち込み、できるだけ杏子の病気の進行で落ち込むことがないように振る舞った。 時間は脱兎の如し。杏子は上手に病気と付き合っているようだ。
賢三は、高校の音楽教師になって、2年が過ぎようとしていた。杏子は、井上先生とも連絡を取りながら、無理のない生活をしていたが、走ることが苦手になってきた。歌唱力や声量については、ほとんど影響が出ていない。スタジオミュージシャンの仕事は、できるだけ受けるようにしている。ストンプでのバッキング・ヴォーカルも断らない。賢三は、教師の利点の一つである、長期の休みを利用して、大学の頃の仲間とクラブで演奏を楽しんだ。そんなある日、家に帰ってみると、見慣れない靴が3足玄関にあった。デカい靴だと賢三は思った。。。直感で、これは音楽室だなと思って行ってみると、杏子は黒人女性2人と歌っていた。なんと、賢三でも初めて聴く杏子の『Gimi Shelter』。 そばに若い子2人、男は鈴木くんのドラムを使い、女の子が、ピアノを弾き、ギター部分の代わりをしていた。ちょっとしたセッションである。驚いた、杏子の友達の、この歌唱力、この黒人女性はまるで、リサ・フィッシャーそのもののようだった。そう、ローリング・ストーンズのツアーでは、バッキング・ヴォーカリストとして歌ってた女性ヴォーカリスト。杏子と同様にソウルやブルースをメインに歌う女性ヴォーカリスト。圧倒的な歌唱力で完全にミック・ジャガーを喰ってしまう。ミック・ジャガーが選んだ歴代の女性ヴォーカリストの中でも最高と言われ、初代のメリー・カールトンよりも迫力があった。沢山の女性ヴォーカリストが参加したが、未だに彼女以上の人は現れない。
「おかえり〜賢三! 彼女たちがセイラとニコラ、私のアメリカでの幼馴染であり、大親友2人。こちらはセイラの甥っ子、ガイくんと彼のガールフレンドのアイーダ。Everyone! this is Kenzo, my sweetheart husband!」
みんなが一斉に賢三のところに駆け寄里、握手とハグの応酬となった。賢三は、カウンティング・スターのバイトで必要になった英会話を杏子にしっかりと教えられていたので、頑張って英語で話した。セイラもニコラも上機嫌だ。 彼女たちは杏子と同じ時に異常な暴力の虐めを受けた。ニコラは、頭部に切り傷の跡があり、セイラの左目の視力はほぼ無い。杏子も腕や背中に裂傷があり、まだ薄っすらと傷跡は残っているが、2週間も昏睡状態になったのは杏子だけだった。セイラもニコラも、トラウマが残り、プロ活動はできなかった。現在は2人とも、ごく普通の会社勤めで、結婚して子供もいるという。地元のクラブで臨時に歌う事はあるが、決してプロにはならないと決めたようだが、パニック症候群ではないらしい。 もしも、この3人が妬みからの虐めを受けずに、そのまま順調に音楽活動をしてたなら、プロになってかつやくしていてもおかしくない。 日本に来たのは、杏子の父が連絡を取り、杏子に会いに日本に行ってほしいとお願いしたそうだ。以前から行くつもりだった2人は、二つ返事で、もう2人、護衛のように使うために、日本に行きたがっていた甥っ子と彼の彼女も連れてきたそうだ。なんと2人は、連絡を受けてすぐにヴォイトレを再開し、杏子と歌うつもりで来たらしい。賢三は、即座にストンプに連絡した。
「杏子と為を張るヴォーカリストを用意したから週末ライブやらせて! 猶予は2週間しか無いんだけど、予定入ってたら、そのバンドの人達に、申し訳ないけど。。。若干の延期、お願いできないかな。。。 アメリカから来てて、2週間しかいられないんだ。。。」
「よっしゃ、任せろ! その代わり、バックバンドは、翔平付きのトレイターズだぞ。ジャズでいいんだろうな? アイツが来ると宣伝すると客が入るんだが。。。本格女性ヴォーカリスト3人って、宣伝するかな。。。基地からかなり来るぞ。」
「いや、ソウルとブルース。ジャズはおまけになるけど、歌い手たちの好みに合わせたい。翔平は来ると思うけど・・・ジャズかジャズ・フュージョンじゃないと演奏しないかも知れない。。。。でも、杏子が歌うと言えば来るな、アイツ。。。とにかく土日じゃないと、俺がだめなんでどうかよろしくお願いします。」
セイラたちは、杏子の状態をしっかりと聞かされていたので、無理させたくないと考えていたが、杏子は、どうしても観光に連れ出したくて、張り切っていた。夕方以降は、ご近所の助っ人、みどり子とクリスが代わってくれて、英語に関しても助かった。なんと、中原京介まで時間を取ってくれたのには、杏子も賢三もびっくりしたが、ありがたかった。多分、カイドウの社長を連れてくるつもりなんだろう。。。相変わらず抜け目のない京介は昇格、昇給は間違いないだろうな。
杏子は、いつになく無邪気な感じで興奮していた。子供の頃を思い出しているようで、昔話は尽きなかった。それを観た賢三は、思わず微笑みたくなるほど、杏子を愛おしく感じた。タイムスリップして、自分の知らない頃の杏子を見ることができたようだ。音楽室で喋り続け、客間では寝るだけ。杏子もなかなか寝室に戻ってこなかった。賢三は少し・・・淋しく感じた。
一ノ瀬と鈴木は、もう大興奮だった。この2人は、有名なソウルやブルース、そして、ロックを演奏できる日が来るとは思わなかったからだ。まして、極上のヴォーカリストのための演奏だ。 セイラは、ドラムの鈴木に語りかけ、昔のエピソードを聞かせてくれた。鈴木は、杏子の通訳で理解できたが、セイラがものすごい人たちにアドバイスを受けていた事も知り、感動していた。
「ギミ・シェルターは、私の十八番なんだけど、私はオリジナルを録音したメリー・クレイトンとストーンズのライブに10年近く同行したリサ・フィッシャーと話して、アドバイスを貰ったことがあるの。もう人前で歌うことはなかったのにね。。。プロになる気もなかった頃なのに。。。
だからこの曲は外せないのよ。自分で言うのも変だけど、私の声質はリサ・フィッシャーに似てるの。出せるわよ、4オクターブ。(笑)」
「セイラはもったいないと思ったけど、私達3人、そう簡単じゃないよね。。。杏子が一番重症だったから、いま、セミプロとは言え、バッキング取ってるって、凄いし、克服できているってことだよ。昏睡状態の杏子を観て、私もセイラも絶望っていう文字を具像化して見えたんだよ。大好きな友達を助けて!って、神に祈った。杏子が目を覚ましたとき、私は二度と歌えないと思ってたのに、歌を口ずさむようになれたんだよ。あんたが私を観て笑ったからだよ。私は今も、ブルース系のミュージシャンたちのバンドで、飛び入りのヴォーカルしかやらない。でもね、客がみんな驚くのは観てて気持ちが良いよ。プロにならなかったことには後悔してないんだ。今は子供たちと幸せだしね。あ、でも、子供だけが幸せじゃないからね。幸せの付属物というのが子供さ。今を賢三といっしょに精一杯生きることは、最高の幸せなはずよ。あんなにいい男見つけてさ、凄いじゃないよ! だからさ、精一杯生きよう。」
杏子は泣いていた。嬉しいのと悲しいのとが混ぜこぜになった不思議な感覚が出す涙は、自分で止めるなんてできなかった。セイラはすかさず、グループハグ!と叫んで、3人で抱き合った。小柄な杏子は、埋もれて外からは見えなかったが、もう、笑い泣きになっているのが良く分かった。
翔平はゲストたちを殆ど見ないで杏子のところに駆け寄っていた。
「杏子ちゃん、今日は何を歌うの? 俺のペットでも歌うの?? さっき演目もらったけど、いつもじゃない曲がいくつか入ってたけど、なんで??」
「翔平! はい、ハグしてあげるよ。 ところで、こちら私の幼馴染のセイラとニコラよ。今日は彼女たちと歌うのよ。凄いんだから!。 セイラ! ニコラ! この子が翔平。トランペットの天才。可愛がってあげてね!」
「オー、ボーイ! 貴方が日本のチェット・ベイカーね! 今日は私とニコラにも付き合ってもらうからね。なに? ボーイ。。。ハグなら私がしてあげるわよ!」
セイラは、杏子から翔平の事情を聞いていたこともあり、堂々と翔平に向かってきて杏子から引き剥がし、翔平を思いっきり抱きしめた。軽く杏子の4倍はある胸に押し付けられて、目は虚ろに昇天しそうになっていた。そばで見ていた彩子は大笑いしだした。あのふてぶてしい態度も、アメリカの大都会で暮らす4人には、なんでもないことだ。セイラから、とことん撫で回されている。 みんながびっくりしたのは翔平は信じがたいほど英語が上手だということだった。彩子は、面白くて、連写で写真を撮りまくった。
「あとで、美津子さんと陽介さんに見せなくっちゃ!(爆笑)」
演奏が始まろうとする頃、既にストンプの中は満席だった。翔平のトランペットの卓越したセンスと、杏子の評判を知る米兵が、本格的なソウルを期待して集まっている感じもする。セイラとニコラは、無名の歌い手なのだから、きっと驚くだろう。。。
まずは、バンドの紹介をして、既に上機嫌だとはいうものの、翔平を乗せるために、マイルスの『TuTu』にして、ギター部分は彩子のピアノに代えたものだった。そして、賢三と翔平が絡み合う『Mr. Pastrious』など、お得意のナンバーが始まった。今日はとにかく一ノ瀬が乗りに乗っている。きっと、今までにないジャンルの曲が弾けるのが嬉しいようだ。 杏子は、少し緊張を始めた。賢三が見えるから大丈夫だと、自分自身に言い聞かせている。さらに、セイラとニコラがガッツリと杏子を両脇から抱きかかえている。杏子は賢三に見守られ、幼馴染で同じ苦しみを分かち合った2人の親友に守られているという気分になれた。もう、パニックにならないはずだと思えた。
もういいんだ。。。今までの恐怖は、ただ新しい苦しみに塗り替えられていくだけかも知れないけど、今が幸せだと思えることが大切なのだと考えられる。ジストロフィーという病気がなければ・・・、もう少し前だったら・・・、などと考えることは止めなくては。。。私は愛されている。最愛の男と、夢を分かち合った親友たち、そして、現在の大切な仲間たち。杏子は感謝の念を持とうと決意した。 その日のストンプの中は、熱気に包まれ、バンドも客席も一体化した、店の史上最高のものとなった。杏子は歌えた。セイラとニコラに支えられて、客席を観ながら歌うことができた。 賢三は感動していた。セクシーだ。。。こんなにセクシーな杏子がライブで観られるなんて、彼女と出会って以来、一度も期待していなかった。ただ、ようやく杏子の夢がかなったのに、みんなが喜んでいるのに、時間は決して足を止めてはくれない。賢三は考えたくなかった。。。でも、現実を把握していなければ、守りきってあげることはできない。
セイラは翔平を弄ぶのが楽しくて仕方がなくなったようだ。ニコラも大笑いしながら観ている。 この2人も、杏子と同様に、翔平が酒と薬に頼ったことがあるのが感じ取れる。興味本位なだけでもなさそうだとわかるほど、心に傷を持った若者を、彼女たちは多く見てきた。自分たちだって、一歩間違えれば同じようになっていてもおかしくない環境にいたこともある。今、歌えるだけでもありがたいことなのだから。。。 杏子が引っ張り出して救ったこのボーイが可愛くて仕方がない。演奏が終わると、無理やり抱え込んで猫のように扱っているのが、賢三も笑いを堪えられなかった。翔平は、セイラに完璧に圧倒されている。
ニコラの声はサラ・ヴォーンに似ている。コクを味わえるような深い低音域は、他の2人には難しい。ブルースとソウルのスローナンバーに米兵たちは酔いしれていた。数曲を終わって、割れるような拍手をもらい、セイラにバトンを預ける。セイラは、リサ・フィッシャーを完璧に演じていた。その最後に、ストーンズの『ギミ・シェルター』が始まった。ミック・ジャガーのパートは、杏子とニコラが上手に請け負った。セイラはとんでもない声量を披露した。一ノ瀬と鈴木の顔が歓喜していた。ストンプのマネージャーは泣きそうなほど喜んだ。翔平は・・・魂を抜かれたような顔をしている。
「どうだい、翔平? セイラは人妻で子持ちだぞ。お前の好みにぴったりだろ?(爆笑)ただ、旦那にバレたら半殺しじゃ済まないな。。。優しい旦那らしいけど、元アメフトのディフェンスだぞ。。。気をつけておけ!(爆笑)」
「何言ってるんだ、賢三。俺が観てるのは歌える杏子ちゃんだ。セイラはおかあちゃんとしてほしいかも。。。みっちゃんと一緒になって慰めてほしいな。。。すげーんだぞ、あのオッパイ。。。あそこに俺の顔を太い腕で囲って押し付けてくるんだぜ。。。俺のせいじゃないぞ。。。少しは助けろ、賢三。。。でも、このバウンス感、すっげー気持ちいいんだ。。。」
セイラは、翔平がそれを楽しんでいるのを良く分かっているせいか、わざとみんなの観ている前でその行為をしてくる。セイラの巨乳に押し付けられた翔平の頭部は跳ねるように揺れていた。誰もが笑いを堪えられない。セイラの可愛い子猫ちゃんになった翔平は、普段の圧倒的なふてぶてしさと危険なセクシーさを発する微笑みが音を発して崩れているようだった。
そして、3時間にも及ぶこの日のライブは、杏子の『Night in Tunisia』で締めくくられた。彼女の両脇に巨漢の強力な女性シンガーを携えて、堂々とソロを取る杏子がいる。バックには賢三が、マイケル・ブレッカーを彷彿させるようなサックスを披露して、翔平もそれに追従するようなトランペットだった。 会場には常連客が来ていて、彼らも感激している。美津子と陽介は抱き合っていた。 その後,陽介はストンプのマネージャーと話しをしていた。最高の録音装置を着けたのは陽介だった。
「陽介さん、これはすごいことになったよ。ま、後で本物の人たちにCD作ってもらうつもりだけどね。 それにしてもあの2人の女性シンガーたち、プロじゃないというのが考えられないよ、アメリカは無駄をしているよね。彼女たちに諸事情があることは教えてもらったけど、惜しいよね。。。そして、杏子さん。。。このライブ以降は、調子によってはソロを取ってくれるというけど、素晴らしいんだよね、彼女。。。まぁ、世の中の悲劇はたくさんあっても、この3人を世に出せないのが心底悔やまれる。人間の妬みからくるような事故は、許しがたいね。。。」
「録音ができているだけで十分です。ライブですからね、ある程度のテクニカルな事故も予想したのに、全く無かったし、これ、下手すると売れますよね。(笑) 妬みからの虐めは、世界中で起こっているようですからね。。。アメリカはかなり酷いって聞いてます。そして、アメリカという国には、どれだけ沢山の天才がいるかも、未知数ですね。そして、そこからほんの一握りの、幸運がついた人だけが、プロになれる。杏子ちゃんが言ってますよ、この3人は確かに抜きに出ていたが、アメリカには、同じように歌える子がどこでも沢山いるから、珍しいことではないんだと。彼女は決して自分が秀でていることをひけらかす子じゃないから、謙遜だと思っているけど、あとの2人も同じでした。自分たちは『ベーシック』なんだと。すごい国ですよね、アメリカって。。。顔だけ良ければ下手くそでもOK、女も上の男に体を預ければ、一応、歌手になれる日本とはぜんぜん違う。アメリカでもそういった裏工作はあるけど、実力がないと相手にされないから。。。」
ライブのあと、客が帰ってからストンプは大パーティーとなった。翔平だけは酒をもらえなかったが、美津子とセイラに囲まれては酒に手を出せなかった。杏子も差し入れられた高級シャンペンをグラスでもらった。二口飲んだあと、、グラスを落としてしまった。賢三は一気に汗が引いたが、雰囲気を壊さないように振る舞い、杏子の隣にくっついていた。
「ごめんね、賢三。。。またグラス落としちゃったよ。。。酔ったわけではないんだけどな。。。」
「大丈夫だよ。今日は井上先生と奥さんも来てるから安心して。落としたのは歌ってるときのマイクじゃないってこと! 大成功だって! 俺の奥さんはセクシーだったし、ものすごいソロを取ったんだよ。観てご覧、セイラもニコラもあんなに嬉しそうだよ。よかったな。。。今日は後で、思いっきり抱かせておくれ。俺、すっげー我慢してたんだけど。。。すっげー。。。理性と煩悩との壮絶なバトルなんだぜ。。。」
「うん、そうだよね。。。今夜は、私を持ってっちゃって、賢三!」
賢三は杏子の頭を引き寄せて親指で耳の後ろを撫でる、しっかりと腕の中に入れて愛でた。杏子は、陶酔したように目を閉じていた。二人は、甘く、お互いを労るように、そして燃えるようなキスをしていた。こんな時間が、この先、何十年も続いて欲しい。。。杏子と賢三は、言葉をかわさなくても同じことを考えていることが分かった。
幼馴染で親友の2人の日本滞在は、あっという間に終わってしまった。3人は別れ際に泣かなかった。空港のゲートに向かったセイラとニコラは、杏子の姿が見えなくなって初めて泣き出した。
「ニコラ・・・杏子が目を覚ましたときのこと、覚えてる? もう、一生昏睡状態かも知れないって言われたとき、あの暴力を振った奴らのこと、同じ目に合わせたかった。私の左目の視力だって返してほしかった。でも、杏子が昏睡状態から覚めたとき、もう、アイツ等のことはどうでもよくなった。杏子は生きてたんだと思えただけで、また、親友3人で楽しく生きていけると思ったよ。大人になって住んでいるところはバラバラだけど、みんな幸せに暮らしてて、歌がなくたって大丈夫だと自信も持てた。でも、これから杏子がスローデスに向かうと思うと、神様を恨みたくなるよ。。。ゴスペルソングをあれだけ一生懸命に歌った私達は、あんなにひどい目にあったのに、まだ苦しまなければいけないって。。。なんか、間違っているよね。。。杏子に会いに、また来ようね、ニコラ。」
「うん、また来よう。あんなに幸せそうな杏子に会えて、私も嬉しかったもの。また3人で歌うために来よう。私は杏子の葬式なんかには来ないからね。絶対に来たくない。杏子は難病ということで、保険に入れないから海外に行けないらしいから、また来なくちゃ。。。私の家族に会わせたいのにな。。。」
二人の帰路は、長く、口数も少なく、淋しいものとなった。
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