第8話

「杏子、俺さ、もしかして寝具と洋服以外は引っ越しするものないんだけど。。。いいのかな?」


「普通、下宿ってそんなものじゃないの? 私も下宿したことないからわからないけど。。。キッチンはお祖母ちゃんのものでいっぱいだから、同じようなもの持ってこられても困るし、各部屋は本棚のような壁になっているから本棚いらないし。賢三の持ってる本は、漫画と楽譜がほとんどじゃない? まぁ、大学で普通に一般科目あるだろうから、その本があるか。。。八百屋の源さんが運んでくれるんじゃない? あと、ベッドだけど。。。一応形だけはどっちにもダブルは置こうと思うの。お互い、仕事や学校の課題とか、集中が必要なときもあるじゃない? どう思う?」


「俺は俺の部屋にどでかいベッド1つでいいと思うんだけど。ベッドは1つでいい。1つがいい。それ、譲れないかも。。。俺が買うし。」


「ははは、、、なんだ、日本の伝統技『夜這い』は楽しめないってことか。。。(爆笑)」


「なんだよ、それ。。。そんな事やってみたいの? そんなのいつでもOKなんだけど。。。俺はさぁ、ふと隣を見ると杏子が寝てるっていう状態が良いんだけど。。。 なんか、疲れて帰ってきたら、ベッドに杏子が優しい寝息を立てているとか。。。まぁ、酒臭くなって、涎垂らしながら爆睡してることもあるかもな。。。」


「はははー!(爆笑) 爆睡はあり得る。。。でも泥酔はないわよ。じゃ、賢三の部屋にキングサイズってことでいいか。私の部屋にはソファ、一応誰でも泊まれるようにソファベッドにしておこうかな。まぁ、ゲストは他の部屋使えば良いんだけど、飲んでるうちに寝落ちって結構あるからね。 じゃ、ベッド観に行こうか! ついでに布団類も選んで買っておこうね!」


杏子と賢三は、まるで新婚夫婦のような気分で買い物に出かけた。最近は便利だから、買ったものは届けてもらえるので、帰りは荷物で手が塞がることはなかったから、つい、秋葉原のオーディオショップに出かけてしまった。 杏子の祖父母が北側の大きめな部屋を防音の音楽室にしてくれているので、そこに置くコンポーネントを選んで良いことになっていたから、専門のオタク店員がいる秋葉原が一番。アンプはマランツ? マーシャル? スピーカーはJBL? クリア・サウンズ? ATC? 秋葉原の店員も驚くほど、杏子と賢三には知識があった。理想を貫くと、とんでもない値段になってしまう。。。だからこそ、秋葉原のオタクな店員は、儲けよりも質を語ってくれるから、欲しいものが最低の値段で手に入る。そう、中古で十分だという意識が大きい二人は、良いものを掴ませてもらえる。 二人にはすでにカウンティング・スターの店長さん夫妻がくれたイヤーモニターがあるので、杏子のマイクとスタンドを買おうと言うことになった。


「スタジオじゃないから狭いし、マイクはいらないよ。ヴォイトレさえできれば、バイトの時困らないから。」


「せっかくだから、買っておこうぜ。シュアーのが良さそうじゃない?」

「うん、、、シュアーのにするなら、山野楽器に行きたい。あそこの店員さんが私達を推してくれたんじゃない? セルマーのサックスだけじゃなくて、マイクも。。。あの人すごくいい人だし。値段は秋葉原のショップよりも高いかもしれないけど、その分、安心感があるし。」


「そうだね、じゃ、今度はアルトサックス吹かせてもらおうかな。大学入ってから行ってないしな、挨拶がてら行ってみよう。」

自分たちの寝具やソファは、あっさりと決まったので、時間は8割が音楽室のオーディオに費やした。普通のカップルなら、映画や水族館などもっとロマンチックな場所に行くのだろうけど、杏子と賢三は、楽器屋とオーディオショップに行くことが一番楽しく、お互いを深く知ることにも繋がるせいか、充実感がある。杏子は普通の女の子が憧れるデートスポットなど、どこか特別な場所に行きたいという希望はなくて、どこでも、いつでも賢三の存在を感じられれば幸せだった。そしてこの2人は、ベタベタしなければお互いを確認しなければ不安というのもなかった。家に帰ると、十分にベタベタしてたし、外でやらなければいけないとは思ったことがなかった。各々一人でいれば、ナンパされることはしばしばだったが、簡単に断ることができる、良く似た性格の2人だった。


 賢三は、すべてが新しい環境だったにも関わらず、天性のフレンドリー体質が、この音楽だけを追求できる大学でも発揮されていた。クラシックだけに精通した天才も、彼らがちょっと敬遠するジャズ嗜好のオタクタイプも、みんな賢三を特別に扱っていたようだった。入学して間もなくそういうことがどんどん確認され、賢三を慕う生徒が増えた。女生徒の中には、恋心を寄せるものも少なくなかった。 杏子はそれにも満足していた。ほとんどの学生が幼少時から、親の意向で音楽を習い、そのまま受験に向かった人がほとんどなので、努力に努力を重ねて自力で入学した賢三は、杏子の誇りだ。

 杏子は杏子で、新入社員が入ってきて、初めて自分が先輩と呼ばれることに気づいた。


「ねぇ、みどり子、私達でも先輩なんだね。。。私はちょっと苦手かも。。。日本の不思議な仕組みの一つよ。。。」


「確かに、ディーヴァは後輩に優しくできなそうだしね。。。同じ線路に乗っていると思いこんでそうだけど、彼らって、何もできないのよ。ディーヴァほどの英語力ないしね。実際私も去年、自分がどうやって合格したのか、良くわからなかったの。時の運なのだとしか。。。」


「そう言えば、営業のクリスとアレックスは、延長が決まって、あと2年はいられるようになったみたいだけど、日本語はクリスのほうが上手みたいね! みどり子のおかげだって噂です。(笑) どうなの?上手くいってる?」


「おかげさまで! なんかこう、今のところラブラブよ!この夏、一緒にイギリス行こうかなって。。。計画中です。」


「おぉー!! 現在進行形っていうやつね。クリスって結構真面目だし、優しい感じするから、日本に住むこと、結構合っているんじゃないかな? どちらにしても支社に戻ってレポートの提出とかありそうだけど、もしかすると、こっちの計らいで、戻らずに済むかもしれないしね。彼が日本語を覚えたら、ものすごい戦力だと思うの。みどり子にかかってくるよ! 人間ね、言語を習得するには恋に落ちることが一番の早道なんだって。 もしかするとホルモンに関係があるらしいって言われてる。 例えば、男子なら声変わりの頃、女子なら初潮を迎える頃が過ぎると、著しく外国語を覚えられなくなるの。そういう点では私、両親に感謝してる。バイリンガルって、第二言語の国に暮らして放っておけば話せる様になるっていうものじゃないのよね。もちろん話せるようにはなるけど、本物のバイリンガルにはなれないの。 家の両親は家の中では一切英語を使わなかった。私が英語を使ってもすべて日本語で返してきた。 要するに、完璧な第一言語がなければ、第二言語って習得できないの。大学での論文、これだったんだ、私。 私はラッキーにも、外では英語で生活したから、覚えられた。4歳からだと入ってくるよね。父はいつも言ってたわ『バイリンガルなんて、誰でもなれる。同時にバイカルチャルにならないと本物の言語を習得したことにはならない。』ってね。」


「山本家は凄いよね! きっと妹さんもすでにバイリンガル&バイカルチャルでしょ?」


「妹は私と違ってたくさんの英語のアクセントを覚えようとしなかったの。だから、育っているハーバード英語よ。私がコックニーやハーレム英語をスラング入りで話すと、わからない!って怒る時がある。私とは違う人種みたいよ。。。ピアノは弾けるけど、私ほど音楽にのめり込んでないし、理数系が得意。もう、そこからすでに私とは真逆の人間。でもね、賢三のことが大好きなの。。。ビデオ電話で話すと、私よりも賢三と話したいって言うのよね。。。私よりも年は近いしね。。。ちょっとジェラシーだわよ。。。」


「へぇー!そういうものなんだ。。。私も子供の頃に外国で暮らしたかったわ。。。ま、クリスと付き合えているから良しとしなくちゃ。 あ、中原先輩が来たよ! 飲み会の誘いかも??」


「やぁ、ディーヴァとみどり子さん、久しぶり!! 元気だった? こっちメチャクチャ忙しくて、ご無沙汰しちゃった。。。ところで、今年も合同の歓迎会があるんだけど、二人共来てくれないかな?」


「えー!なんで??外国の支社からの人もいないし、去年とは違うでしょ? 私は行きたくないよ。去年とんでもない醜態さらしたし。。。」


「今年はね、取引先の人も来るんだ。そこで、我が社は女性も英語は大丈夫ってところも見せておかないとって。。。クリスも来るからみどり子さんも誘ってって言われているんだけど。ディーヴァも来てくれないかな。。。」


「中原先輩、ディーヴァに歌わせるって無理ですからね! 賢三くんが激怒しますよ。」


「あぁ、彼氏は呼べないけど。。。顔だけ出してくれるとほんと、助かるんだ。。。」


「考えておきます。」


「早めに教えてね! 今日のお昼は外でどう? アレックスもクリスも来るから、イタリアンのお昼。奢るよ!」


「ディーヴァ、ゴチになろうよ! クリスも来るし。。。ダメかな?」


「はい、はい、はい。。。みどり子は、それだよね〜〜。。。わかりました。じゃ、お昼に玄関で。」

中原京介は、元気よく自分の部署に戻っていった。途中で数人の女子社員から話しかけられていた。相変わらずモテモテのようだ。


「ディーヴァ、取引先も一緒というの、ちょっと気にならない? 私達2年目だし、もしかしてホステスまがいなことしないでいいのよね?」

「えー! それは嫌だな。。。お昼の時、聞かなくちゃね。」


 オフィス街のイタリアンは、なかなか人気があって、予約無しで行くのが常の会社員たちにとって、時間との戦いで、お店の方もテイクアウトを始めようとしているくらいだった。お味はなかなかのもので、繁盛するのが当然のようだった。


「この5人で食事って久しぶりだよね! みんなそれぞれに忙しくなってしまったよね。もう日本語での会話が成り立ちそうだね。」

「そうですね! 2人共、日本語上手になってすごいですね。クリスはもうすべて日本語で過ごしているから、私も自慢できます。」

「そうだよね、2人は付き合ってるからクリスの日本語の上達って凄いものがあるよ。その点、僕のお相手はみんな英語が話せるようになりたい人ばかりだったからな。。。全然深い仲にならなかったし。。。ま、僕は日本での生活自体を楽しんでますけどね。京介も同じだよな。。。全然浮いた話しがないから、女の子がしょっちゅう来るよね。。。(笑) ディーヴァはどうなの? 上手く行ってる?」


「おかげさまで、彼も大学生になったから、今、すごく忙しいの。でも、ラブラブよ!」


「そうか、彼、大学生になったんだね。それでもまだ未成年だよね? 若いなぁ〜〜」


「中原先輩、ディーヴァの彼氏って年齢差は全く感じませんよ。カッコいいし。私にも感じ良いし、全く問題なしです。(笑)」


「ところで、今朝聞いた歓迎会の話なんですけど、取引先って、どこ?」


「なんと、大手のカイドウ・コーポレーション。大きな契約がかかってるんだ。社長さんが新人の歓迎会に興味があるというので、どうぞと招いたんだよね。契約が取れるとデッカイんだよね。。。今、すごく気に入ってもらえているから、そのまま進めたくて。」


「でも、歓迎会なんか、関係ないじゃん。私やみどり子は2年目だしね。御酌して、ホステスみたいなことはしたくないし。。。」


「そこなんだよ! 新人ばかりじゃ絶対に失敗するし、2年目で、去年のヒロインがいるとなると、かなり有利に進めるように思うんだ。協力してくれないかな。。。」


「自分の営業一課の中に誰もいないの? 天下の営業部じゃん!誰もが接待得意じゃなきゃいけないんじゃないの?? 私たち企画部なんですけど。。。」

みどり子とクリスは目を合わせて、怪訝な顔をした。京介の自信に満ちた誘いは、普通の日本人女性は断れない。そこにアレックスまで加わって、押し通そうとしていた。

「話してくれるだけでいいから。お酒のお酌なんかしなくて良いよ。俺がやるから。あの社長、多分、音楽のこととか興味ありそうなんで、ディーヴァの話し、きっと飛びつくと思うんだよね。 お願い! この契約取れたら、必ずお礼するから!」

杏子は黙っていた。みどり子が話題を変えて食事をしたが、杏子は不機嫌なままだった。当たり障りのない会話をして、各々部署に戻った。

 「山本さーん、悪いけど、このファイル資料室に戻して、次の2冊持ってきてくれる?中堅どころじゃないと、わかりにくいし、お願いしても良い?」

「はい、わかりました。」

たまには部署から出て社内を歩くのも良いものだ。資料室までは距離もあるのでイヤーポッドをつけて Lisa Fisscherを聴きながら資料室に向かった。好きな音楽を聴きながらだと、つまらないオフィスビルの中でも物語になるような気がするから不思議だ。これができるから資料室への出向は断ったことがなかった。座ったままよりも運動になるし、他のことも考えられる。 資料室に入ると、ファイルの場所に向かうが、ずいぶんと高い位置にあるのがわかり、背伸びしながら取ろうとした。すると、いきなり誰かの手が目当てのファイルを取ってくれた。京介だった。

「これで良いのかな? 他にもある? ところで、なに聴いてるの?」

「あ、ありがとう。脚立を持ってこようかと思ってたの。 次の1冊も取ってくれる? そして、これを戻してくれると助かる! 今聞いているのはLisa Fisscherよ。昔はストーンズとツアーもした女性シンガー」

「へぇー、ちょっと聴かせてよ。」

仕方なく、イヤーポッドを渡した。京介が聴いている間、ファイルに問題がないかを確かめていた。

「はい、ありがとう。素敵な声のシンガーだね。知らなかった。 ねぇ、ディーヴァ、こっち向いてくれる?」

杏子が上を向くと、京介が顔を近づけてきた。このあたりからは誰に聴かれても良いように英語の会話になった。

「俺さ、ディーヴァのこと、結構前から気になっているんだよね。 もちろん彼氏がいることは分かってるんだけど、今度、2人だけでデートしない?」 そう言って、杏子の髪を耳から後ろになでつけるように触りだした。 杏子はこういうのでドキドキしたりしない。アメリカではしょっちゅう、ボーイフレンドでもない男子がこういう感じで語りかけてきたものだった。 京介は慣れていると思った。こういうことをされたら、普通の日本人女子はコロッと彼の思惑にはまり込んでしまうのだろう。

「ふぐ料理のコースでも奢ってくれるなら良いよ。(爆笑) あのさ、私はこういうので落ちませんぜ、旦那。。。それに、こういうのってセクハラになるんじゃないの? ま、良いけどね、私は髪を触られるのが嫌いじゃないし。 じゃ、またね。」 と出ていこうとすると、京介は腕を掴んで離さなかった。


「ねぇ、ディーヴァ、少しだけ真剣に考えてくれない? 」

「なにを?」

「俺と、ちょっと付き合ってみない?」

「ははは、、、他あたって。私、男は不足してないのよ。今、十分に満たされているの。貴方よりもずーっと年下の若造が満たしてくれているの。だから、私に何してきても労力の無駄よ。」

「試してみなきゃわからないだろう? 」

「御生憎様、 私ってそこまで器用じゃないのよ。ま、他に沢山貴方の好みの女性っているでしょ? がんばって〜〜」

京介は杏子の背中に腕を回した。ちょうどその時、誰かが資料室に入ろうとしてドアノブを回して、鍵がかかっている事に気づいたようだった。

「どうする中原先輩? 私、ヴォイトレしてるから大声は出るよ。」

「ごめん! 悪乗りしちゃった。。。ほんとごめん! でも、お試しは有効だから、少し考えてくれ!」

杏子は『チッ』と舌を鳴らして、京介の腕を払い除けて、堂々と部屋を出ていった。 京介は自分の感情を抑えられなかったことを自分自身で驚いていた。時期尚早だったはず。。。何を焦っているんだ?? この俺が、あの若造から杏子を奪えない?? 冗談じゃない。そう考えていた。今はただ、あの大口契約を取るために杏子に一肌脱いでもらい、その後に杏子自身を攻め落としたい。自分がエリートであるという自信と、恋愛での経験値が高いこと。18〜9歳の小僧よりはるかに有利なはずだ。杏子はどこを観ているんだろう?? 彼の何が杏子を夢中にさせるのだろう? 若さを使った限界のないセックス? きっと理性なんか効かないんだろう。大人っぽい高校生ではあるけど、自分が彼に劣っているところなど微塵もないはずだ。なぜ自分を差し置いて林賢三が選ばれるのか? おかしいではないか。京介は持って生まれた競争心が旺盛なので、何としても杏子を自分のものにしたいという欲望が湧き出てきた。


 杏子の態度は普段と全く変わらなかった。 京介が傍を通れば挨拶もするし、資料室へ行けと言われれば、いつものようにイヤーポッドを着けて歩きながら音楽を楽しむ、ただし、資料室に入れば、ドアは全開にして誰かが先に入っているかどうかを確かめてから閉める。京介はそれに気づいていた。 今日は杏子が外に出てくるまで待った。


「やぁ、ディーヴァ、この前はごめんね。。。今日はずいぶん警戒されちゃったなと思って。」

「いいえ、前回誰かが鍵をかけたようだったので、必要な人が入ってこられなかったので、一応ドアを開けっ放しにしただけですよ。 まぁ、この前みたいなことは止めてくださいね。」

「すまなかった。。。あんな強引なやり方じゃ嫌に決まってるよね。 なんとかして分かってほしくて焦っちゃったんだ。今日のランチ、またあのイタリアンでご馳走したいんだけど。みどり子も一緒で構わないから、どうかな?」

「みどり子も一緒ならいいですよ。じゃ、お昼休みに玄関で。」

あっさりしたものだった。京介は悩んだ。。。とにかく、カラオケでの接待を取り付けないと。。。


「なぁ、アレックス、俺って魅力ない?」

「何を言い出すかと思えば。。。京介に魅力がなかったら、女性の視線をここまで感じないんだけど。。。(笑) まぁ、ディーヴァからは興味持たれてないみたいだね。。。彼女って、物凄く強い。彼女を落とすには、まずはあの彼氏をどうにかしたほうが早そう。地道に努力したほうが良いよ。同じ会社にいるんだから。」



「お昼にイタリアンって、とってもリッチな気分がします。私までご馳走になってしまって、恐縮です。」

「女性陣だけで、僕もアレックスも自腹なんだよね。。。ま、みどり子さんと杏子さんと昼食が一緒というだけで嬉しいです。」

「まぁ、まぁ、そう言わないでくれよ。。。俺としては今年の歓迎会、大口の契約もかかっているので、5人で協力しあって成功させたくて。 もう一度、ディーヴァにお願いしようと思って。 契約が取れるか否かなんだけど、カイドウ・コーポレーションの社長は大のカラオケ好きで、上手な人と歌うことが好きだけど、上手な人の歌を聴くと、すこぶる機嫌がいいということなんだ。実際、去年のディーヴァのことを誰かから聞いたから、この本来なら新入社員が中心の歓迎会に来たいと言い出したわけなんだよ。。。」

「迷惑な話だわ。 だいたい私、一般的な曲は知らないし。J-Popを含む日本語の曲は皆無。お世辞使って、取引先とはいっても他人と一緒に歌うなんてまっぴらごめん。私、これでもセミプロだって知ってるよね? 過呼吸になって、とんだ失態を見せたのに、またって、無理に決まってるじゃん。」

「じゃぁ、彼氏も一緒に来てもらうってどう?」

「何言ってるのよ! 賢三は忙しいの。こんなくだらない接待に付き合わせるなんてできないわ。」

「そうかな? 彼はディーヴァが歌えば来てくれると思うんだけどね。。。それに、俺、彼と話てみたいんだ。彼がどうやってディーヴァを落としたか、ご享受願いたいものだと思って。」

「あのね、中原先輩の昇格のために、なんで賢三が協力しなくちゃいけないわけ? 貴方の高いチャージは払えないと思うよ。ミュージシャンをバカにしてない? エリートさん。(笑) ごちそうさま、私もう出るわ。これ私の分。ゴチになりません。」

「あ、待って! 私もいきまーす! 私はゴチになるわ! ご馳走様でした。」


「京介、あれはやりすぎじゃない?」

「クリスにはわからないかな?? この契約、どうしても欲しいんだよ。でもね、、、無理に自分の手柄にしたいとは、もう思わない。あの彼氏のことが知りたいし、ティーンエイジャーには勉強してもらいたいという感じだ。」

「うわ、もう完全に戦闘モードじゃない? 下手してこの契約が取れなくなっても知らないぞ! 誰が尻拭いするんだよ。。。俺もクリスも願い下げだからな。」


  残業のなかったみどり子とクリスは、待ち合わせて帰ることにした。

「ねぇ、みどり子・・・なんか、京介がかなりファイティングモードになっている感じなんだよね。人のものを取ろうとするって、醜くない? まぁ、彼らの問題じゃなくて、ディーヴァが主役なんだけどね。ディーヴァは京介に興味なさそうだし、それどころか、かなり怒っているよね。どう考えているだろう。。。」

「ディーヴァは怒ってますよ。自分のことだけじゃなくて、彼氏まで引っ張り込もうとするなんて、中原先輩もやりすぎですよ。賢三くんのことは、なんとも思ってない感じ。でもね、私はこの機会に中原先輩も勉強してもらえるかもしれないと思いますよ。私もまだ賢三くんにはしっかりとお目にかかって話したことないけど、去年のディーヴァ救済のとき、中原先輩が小さく見えましたもの。賢三くんのほうが数段上。堂々としてて、自信もあって。そのうえ、あの容姿。。。ササッとディーヴァを抱えて、きちんと挨拶して出ていった彼に、あそこにいた女子は全員もう、メロメロだったんだから!」

「え、みどり子さんも?? 僕は眼中になかったの?」

「あ、クリスはすでに特別だったから!(笑) 賢三くんの場合は、ほら、なんていうか、映画を観ている感じで、主役は杏子と賢三だ!!と見せつけられたわ。 賢三くんって、黙っていてもオーラがある感じ。もちろんクリスを含めた我が社の最強イケメン3人組は、ピカピカなオーラはあるんだけど、賢三くんのは、また別物。あの鉄壁ディーヴァが惚れるのが分かる。なんかこう、セクシーなのよ。。。ブロマイド欲しい!と思わせるような『推し』になりたいような、そういう意味よ。 それでも私はクリスくんが一番好きだから。。。(笑)」

「はい、はい。。。そうですよね、僕は、みどり子さんの彼氏でしたよね。」

「はい! 私はクリスくんにラブですよ! 週末は拙宅にて、お抹茶でも一服いかがですか?」

「はい、土曜日にお邪魔したいと思います。 とにかく、ディーヴァには、みどり子から話しをしたほうが良いと思う。。。賢三くんのことを含めて。 もしも、京介が会社の上司に相談したら、ディーヴァは強制的に出されると思うんだ。そうなると、後々、厄介だと思う。カイドウ・コーポレーションを取り込むために、ディーヴァの部署替えとかありそうだしね。京介で押さえておかないと!そして、その後は京介がストッパーになるようにさせるよう仕向けることが良策だ。。。と僕は思うわけです。」

「クリスくん、すごく賢い! わかったわ、ディーヴァに話してみる。」

「お願いします。ディーヴァは頭の良い女性だし、尊敬してるんです。彼女が苦しむことも、京介の暴走も止めなくてはいけないと思うのです。一緒に頑張りましょう。 そうだ!僕たちだけでディーヴァの彼氏に逢うチャンス作りませんか?」

「そうか、それは名案!  彼ね、日本一の狭き門、芸大にはいった天才なのよ! ディーヴァを介さない限りは、芸大に乗り込むしか道はないけど。。。芸大のジャズ・フェスティバルとかないのかしら? 」

「僕としては、かえってディーヴァに『逢いたい』って言えば、すんなり会わせてくれる気がするのですけどね。。。」


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