第2話
「おや? 賢三くん。。。もしかして演奏も愛の告白も大成功?」
「マスター、そして美津子さん、お陰様で俺達付き合うことになりました。応援していただき、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「私も、マスターと美津子さんには肩を押してもらって、こういう結果が報告できて嬉しいです。賢三の高校生活ぶち壊さないように気をつけます。せめて英語だけは最高点取らせないと!(笑)」
「美津子は俺よりも3歳年上なんだけど、全くそれを感じたことがないから、君たちも同じだろうと思う。趣味や好みが同じだと、年齢差って関係なくなるんだよね。 ただ、これで賢三の学校の成績が堕ちると、簡単に杏子さんのせいにさせられるんだ。だから、分かっているだろうけど、成績は下げるなよ。 聞いてる?? ま、今は浮かれきってるから何を言ってもダメか。。。(笑)」
「マスター、大丈夫、私は勉強に関しては結構スパルタなの。勉強できないやつなんて、付き合いたくないもの。(笑)ま、私も今年は就職活動が本格的だから。。。ライブハウスもあまり回れないかもしれない。スタジオの録音等だけになるかもしれない。 大学生活最後の年に、まさかの恋に落ちちゃった。。。」
「俺は勉強は真面目にやりますよ。成績は落としません。良い成績取ってれば親も先生も何も言わないのは承知してますから。」
「杏子さんは就活かぁ。。。どんなとこ受けるつもりなの?」
「今のところ、英語を活かして商社を狙っているんですよ。お給料が半端なく良いの。音楽系は不本意なことさせられると頭にくるから、受けない。9〜5で定時、土日が空くような会社のほうが音楽ができる。デートだってできる。ね、賢三。」
「やっぱりあんたは賢いね。趣味と実益をしっかり分けてる。見習わないといけない。」
「がんばります。。。さ、帰ろうか、賢三。」
杏子と賢三はバス停で杏子が使うバスを待ってた。あと20分くらい掛かりそうだ。
「あのさ、杏子は就職したら家を出るの? 一人暮らし始めるの?」
「そうね、今のところそうしようと思ってるよ。なんで?」
「俺が大学入ったら、一緒に暮らさない?」
「それは良いアイデアかもしれない。今でも一人暮らしできるんだけど、妹も小さいから少し良い関係続けたくて実家にいるの。時々しか帰ってこないからね。。。私は今お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと住んでるのよ。流石に就職して実家じゃな・・・と思ってたけど、かえって好都合かもしれない。賢三も毎日入り浸れないし、私はお金を貯められるしね。」
「俺は今、もう即一緒に暮らしたいけどね。。。俺って、けっこう節操あるし、忍耐力あるんだよ。。。でもさ、まだキスしかさせてくれないし。。。ちょっと限界に来てそう。。。」
「そうだったね。。。私達付き合ってるんだよね。彼氏と彼女なんだった。。。今日はどこかに泊まっていこうか? 私、ラブホって、全然知らないんだ。行ってみる? 賢三のほうが知ってるのかな?(笑)」
「俺だって、そんなに知らないよ。。。 じゃ、俺、コンビニで買い物する。」
「そうね、ポテチとか飲み物、持参のほうが安上がりかも! よし行こう!」
「杏子・・・食い物も確かに必要だろうけど。。。大切なものも買わないと俺持ってないし。。。だからコンビニ。」
「あ、そうか、そっちか!(爆笑) そうだね、そういうことしちゃうんだね、今日。。。優しくしてね。賢三くん。」
「もう、煽るのいい加減にしてくれる!! ダッシュで、あそこのコンビニ行くからな。ほら、走ってよ!」
杏子は、まるでニューヨークが舞台のラブコメディー映画のようだと思った。この5歳も下のジャズマンに恋しちゃうって、自分自身が信じられない気分。ただ、彼には無理やり『おねえさん』でいる必要がなさそうだから、気分は楽で、本来の自分、自然体の自分でいることができると確信した。
杏子は初めてのラブホの部屋に、興味津々だった。
「ねぇ、賢三、なんか透明のお風呂って、すごくない? 楽しそうだわ! 一緒に入ろうよ!」
「三色すみれ風呂があると思ってたのかよ? (爆笑) でもさ、透明にしてるってことは、一緒に入る意味なくね?? こういうのどんな奴らが考えるんだろうな?」
2人は子どものようにはしゃいだ。お互いに、それがそこはかとなく新鮮で楽しいものだった。賢三は思った、こういう無邪気さを見せてくれる杏子が、どうしようもなく愛おしいと。。。
「やっと願いがかなった。俺、ずーっと抱き寄せて触りたいって思ってたのに、我慢してたんだよね。。。壊さないようにしないとって。。。すごくきれいだよ杏子。柔らかいんだな。。。」
「私も、賢三のこと触れたいって思ってたよ。肌をくっつけて抱きしめてほしいって。だからすごく嬉しい。ねぇ、ちょっと、、、思ったよりもオッパイ小さいって考えてるんでしょ? 賢三の裸はかっこいいよ。すっごく好き。すっごく!」
「オッパイな・・・ハンドフルならいいんじゃね? 俺の好み、バッチリだし! あのさ、のぼせそうだからベッドに移動しない?」
「そうだね、私をベッドにつれてって、ダーリン!」
「おい、そういう事言うなよ。。。たまんねぇー。。。まずはこのタオルで拭きっこしようぜ!」
杏子は、楽しそうにキャッキャと笑いながらタオルで賢三の髪と身体を拭いた。ふと彼が準備OKなのだと気づく。。。後ろから抱きついて、彼のうなじに優しくキスした。賢三は振り返り、顔を見つめた。杏子の目は潤んでいて、例えようのないほどセクシーだった。力任せに杏子を抱き上げてベッドに走った。 ベッドに横たわった杏子は、ゴヤの名作絵画を彷彿とさせるくらい美しかった。見つめてくる目からそっと口づけた。優しく、いたわるように優しく。。。官能的なキスをした。こんなに蕩けそうなキスは初めてかもしれない。賢三にとって、これほど心奪われたセックスは初めてになる。プロの女性たちにきちんと教えてもらった女性を労りながらの優しいセックスは、杏子も驚くほどの快感を伴うものとなった。そしてさらに、賢三は、どうしようもなく独占欲が露わになった。杏子は自分のものなんだという印が欲しかった。杏子のうなじと胸には、その印となるキスマークがしっかりと着けられた。そして徐々に、激しいピストン運動が行われ、背中からつま先への電撃が走り、二人はほぼ同時に頂点のオーガズムを迎えた。 杏子は驚いていた。まさかこんなに快感が得られるとは。。。賢三の方は、すでに自分は天国にいるんだろうと思うしかないほどの快感と高揚感を同時に味わっていた。
「ねぇ、賢三。。。これって、私達最高の相性なんじゃない?」
「俺もそう思う。。。こんなの味わったことがない。もう、俺、一生離さないから、良いよね? 杏子!」
二人はその日、朝まで5回も愛し合った。。。賢三はそれでも足りないと言っている。若いって、やはりパワフルである。
フラフラと朝日の眩しい中を歩く二人は、幸福感に満ちていた。
「杏子、歩きにくそうだね。。。俺、張り切っちゃったし。。。痛かった??ごめんね。。。でも、止められなかったんだ、嬉しくて。。。あ、あそこのドーナツ屋でコーヒー飲もうか。。。腹も減った。。。」
「うん、私は初めてじゃないんだけど、激しかったから。。。でも、すっごく嬉しかった。幸せだよ、私。」
「もう、俺達結婚するっきゃないな。。。杏子を他の男に絶対に取られたくないし。」
「何言ってんだか!(笑) まだ付き合ったばかりで、そんな事言うのは軽いわ。これからお互いに嫌な面も見て、ぶつかり合うこともあるだろうし、『あぁ、あれは若気の至りだった。。。』なんていう言い訳が出てくるかもしれないわよ。お互いが上手に影響しあって、お互いをもっと高みに連れて行かなきゃ。 だから軽々しく結婚なんて言うことを口に出さないで。。。 でも、正直言って、賢三とは長続きしそうに感じるの。私の感性のすべてが、『この男だ』と言っている気がする。 仲良くやっていこうね。 そうだ、今日はバイト無しでしょ? これから銀座の山野楽器に行こう。レコードと楽譜見よう。」
「行こう、行こう! ちょっとソウルのCD欲しいかも。 あと、セルマーのテナーサックスが観たいんだ。。。とても手が出る品じゃないけどね。。。今のヤマハも気に入って入るんだけど、セルマーは目標だから。。。一緒に見てほしい。ところで、歩くの辛そうだけど。。。歩ける?」
「セルマーは最高よね。音が違う。 目標として、お金貯めなきゃね。で、、、 歩行はかなり困難だわ。。。泣きそう。。。でもね、賢三がくれた、あの快感が残ってもいるからね。。。大切に、一歩一歩、歩かなきゃ!(爆笑)」
「おい、止めろよ。。。も一回ホテル戻りたくなっちゃうじゃん。。。」
「ヒェーー勘弁して。。。今日はもう限界。。。(笑)」
二人は銀座の楽器店で各々好きなCDと楽器を観てた。杏子はジャズの楽譜を数冊選び、楽譜を見ながら声を出さず、口パクで歌っているようだった。賢三は、憧れのセルマーのテナーサックスをじっと見つめていた。 杏子が近づいていった。
「どう? 吹かせてもらえると思うよ、ジョン・コルトレーンになっちゃう??(笑)」
「え? ほんと??」
「自分のマウスピース持ってるでしょ? ちょっと待っててね。」
そう言って、杏子は専門の店員を連れてきた。
「マウスピースをご持参でしたら、どうぞ、吹いてみてください。テナーサックスの方でよろしいですか?」
「はい、テナーの方でお願いします。 うわ、なんか手が震えちゃうな。。。」
セルマーのサックスを手にして、賢三は杏子の顔を見ながら言った。
「あれ演るから歌って。」とウィンクしてみせた。
賢三は『ストリートライフ』を演奏し始め、杏子はヴォーカルを取った。ただ、杏子は賢三の方を向いていて客からは後ろ姿しか見えない。それでも店員は歓喜し拍手した。見回すと山野楽器にいたお客さんはみんなこの2人を観ていた。曲が終わると大拍手となった。
「お客様、プロさんだったのですね? お若いから、学生バンドの方々かと思っていました。どちらのバンド所属ですか?」
「いいえ、プロじゃないです。セミプロかもしれないですね、ライブハウスで少し演奏しますから。あと、彼は高校生です。」
「え?そうなんですか? いや、それにしても素晴らしいです。私にも少しライブハウスやクラブなどを経営している友人がおりましてね、良いミュージシャンが欲しいと言っている人もいますから、連絡先を伺ってもよろしいですか? あと、セルマーの中古の良品が入るときがありますので、良い手頃なものが入ったらご連絡します。貴方はセルマーを吹くべき人ですよ。もちろんヤマハもかなり良いのですけどね、特にジャズを演奏される場合、ヤマハは、どの楽器もジャズに精通しています。それにしても良いものを聴かせていただきました。専門の店員として長く勤めていますが、こんな即興でここまで完璧な曲を演ってくださった方は、ピアノで、ハービー・ハンコックが来たときだけです。サックスは今までいませんでした。ヴォーカルさんも素晴らしかった!シュアーのマイクをお渡しすればよかった。でも、心底感動してます。」
「ありがとうございました。また寄らせていただきます。 じゃ、行こうか、賢三。」
山野の店員はすごく満足げな顔をしていた。その場で楽器を売ったわけでもないのに、きっと、これまでに一発芸のように1曲演った人もいなかったのかもしれない。楽譜とCD を買った杏子は会話を忘れている感じで見入っていた。賢三はと言うと、ほぼ放心状態だった。。。
「おっと! 楽譜に見入ってしまったけど、賢三くんは、頭の中は旅に出ている感じね?(笑)どうだったセルマーは??」
「あ、俺ほんとに頭の中すっ飛んでた。。。セルマーって、神器! すっげーよ、あのサクソフォン! 指を置くボタンは間融が狭い感じで、指が楽に移動できる。。。惚れた。欲しい。。。金貯める。 なんか、昨日から今日にかけて俺って、とんでもないものを体験してる感じ。ずーっと欲しかった杏子とセルマーどっちもなんて信じがたい。。。まぁ、杏子が一番だけどね。なんか、俺、天国にいるみたい!」
この2人のすごいところは、メリハリがあって、音楽のことを始めると、各々がそれに集中できることかもしれない。音楽と恋愛は天秤にかけない。人前で全然ベタベタしない。どちらも邪魔してこない!というのが、非常に自然に暗黙の了解を得ているようだった。それはどちらも真剣だからと言うのが一番近い表現だろう。こんなにも若いカップルなのに、完璧にお互いをわかりあったものがあり、『恋は盲目』という概念を覆す恋愛関係のようだ。ただし、好きな曲を聞きながら夕暮れ時の大きな橋の欄干などでは、アツアツぶりは隠さない。恋愛感情に信頼感をプラスできれば、まるで夫婦のようだ。夫婦とは彼氏&彼女とは大きく違ってくる。そんなことが理解できている2人だとしたら、若さって、ガムシャラなだけではないのではないか??と思わせられる。大人が『早すぎる』という言葉を使って若いカップルを叱咤することがあるが、それは間違っていることもあるというわけだ。
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