五話

「幸先悪いなぁ...」

歩き始めて数時間で雷が鳴りだすなんて..

幸先が悪い。


このまま雨を見続けても退屈だ。

バス停の天井から滴る雨音で眠りにつく。


「雨が止んだら起こして...」


「了解シマシタ」


その時夢なのか、現実なのかその狭間のような時間に私はmaidが独り言を言っているのが聞こえた。


「博士、私ニ心ハナイノデショウカ」

二、三度繰り返した後何も聞こえなくなった。


「キ...テクダサイ...」


「んん?」


「オキテクダサイ」


「ああぁ、もう雨やんだ?」


「ハイ」


「そりゃよかった。俺が寝てるときなんか言ってた?」


「イエナニモイッテオリマセン。」


「そっか」

空はまだ曇り空。

晴れたというよりかは、雨の休憩時間のような感じだ。


「じゃあ、ちょっとだけ進もっか」


「ソウデスネ」


水が反射する道。

所々ある水溜まりをよけながら進む。


「そういえばさ、寂しくないのって聞いたじゃん。」


「ハイ」


「その時分からないって言ったよね。」


「ハイ」


「それさ悩んでるってことだよね。悩むってことはさ心があるってことだよ」


「................私ニ心ハアリマセン」


「......そっか」


この瞬間だけ、めいが心を閉じたような気がした。


心って何なんだろう。

ロボットには心がないのかな。


水溜まりに映る自分を見て考える。

人にしか心はないのかな?


ザザ...ザザー...


「?」

何の音だ?


ザザーン...ザザーン...

波の音だ。

海が近いのか?

潮の香りがしてきた。


「すっご!海だ!!」

初めて見る海。

目の前に広がる水平線に目を奪われた。


「ん?そういえば本州に行くにはどうすんのこれ」


「ワカリマセン」


「いや、うそでしょ...」


顎に手を当てる。

どうしよこれ、だいぶ距離あるよな...


「センサーとかでさ、船とか見つけらんない??」


「少々オ待チクダサイ」


波の音が心地いい。

ぞっと同じように感じる波の音。

でも耳をすませば毎回違う音色を刻んでいる。


まるで私たちの生きる毎日のようで、同じように見える明日も昨日も、今日とは違って。

朝の鳥の鳴き声が昨日は聞こえなかったけど、今日は聞こえた。

今日はつまらなくても、今日は二度と来ないのだから布団の上で明日の波の音を想像して寝れたらそれでいいんじゃないかと、そう思う。


「レド様、西ノ方角ニ反応ガ見エマス。」


「よし、行こう」






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