四話

研究所を出て一時間ほど歩いた。

家の残骸に根を張る草木や、沈んだ街、歩くたびに世界は滅んだんだと私に教えてくれる。


宇宙史の中、最後の一ページの隅にあった人類史の物語は終わりを告げた。



林の間にひかれた道を通る。

所々穴のあいた道を躓かないように進む。


風で揺れる草木がざわつく音が心地いい。

少し目線を上に匂いを嗅ぐ。


植物ほどやさしいものはないと思う。

地球と共にすべてを見てきた彼らは、私たちの歴史を語り継いでくれるだろうか。


「私達の生きた歴史はさ、忘れられないよね」


「ハイ。ソシテコレカラ先モ刻マレテイキマス。レド様ト、レイ様、二人ガ歴史ヲ紡イデ行クノデス」


「そっか...そうだね、頑張らないと...!」


それにしても、私のこの記憶は一体なんなのだろう。

来たことない土地に見たことない道、節々に懐かしさを思う。

言葉だって分かる。

自分の事なのに分からないことだらけだ。

体は男なのに、私の記憶の中には女の子がいる。


「一旦休憩しない?」

何時間も歩き続けている。

早く助けたい気持ちはあるが、体は別だ。

何年も眠っていたのもあって体が重たい。


「ワカリマシタ」


「十五分のタイマーとか設定できる?」


「十五分間ノタイマーヲ設定シマシタ。」


道の真ん中で後ろに腕をついて足を伸ばす。

正直、なぜ自分は危険を冒してあったこともない妹を助けようとしているのあくぁからない。

生まれた瞬間から人のために動いて、自分の人生って何なんだろう。

良くないことを思っていることは分かる。

どうしたものか...


「十五分経過シマシタ」


「あぁ、分かった。いこっか」

人生って何なんだろう。

いくら考えても答えは宙づりのままだ。

東京に着くまでに答えは出るのだろうか。

私は逃げ出したりしないだろうか。


ただただ怖い。


下を向いて歩いていると手の甲に雨粒が当たった。

顔を上げる。


「雨だ」


急いで雨宿りできる場所を探す。

雨は強くなっていく。


五分ほど走って錆びついたバス停を見つけた。

走って入る。


「めいは大丈夫?」


「防水機能ガアリマスノデ大丈夫デス」


「というかさ、めいって呼んでい?」


「大丈夫デス」


「ありがと」

この子と話していると、ロボットだということを忘れそうになる。

本当にプログラムされた内容で動いて話しているだけなのだろうか。

たまに、人間のような切ない言動をすることがある。


ザーーー...


「めいはさ、寂しくないの?」


「何ガデショウカ。」


「人がいなくなってちゃってさ、博士も死んじゃってさ。」


「ワカラナイデス。」


「わからない??」


空が青白く光った。

その後雷鳴がとどろいた。





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