三話
「う~ん」
研究所にあったクローゼットから博士の私服を吟味する。
正直、服の趣味がおじいちゃんで私に合った服がなかった。
とりあえず一番マシに見える物を重ねて着てみた。
姿見の前に出てくるりと回ってみる。
トレンチコートの中に黒いニットを着てジーンズを履くおじさんコーデになってしまったが何とかなりそうだ。
「どう?似合う??」
「大変ヨク似合ッテオリマス。」
「そうかなぁ?聞いたうえで悪いんだけど似合ってないよこれ...」
「イエ、似合ッテオリマス。」
「ところでさ、君名前は何て言うの??」
「maidトイウ名前ヲ博士ニイタダキマシタ。」
「へ~かわいいね。博士ってメイド好きなんだ。」
「ワカラナイデス」
「そんなことより急がないと!!」
急いでリュックにレーション、水、毛布を詰める。
それと博士がガラスの中に保管していた、ロボットを止める爆弾が3つと変な電波を打ち出す銃を一つをリュックに入れた。
かなり重たくなったリュックを思いっきり息を吸い持ち上げる。
「すぅ~、よいしょ!!」
重心が持っていかれるぐらい重たいと思ったが意外と軽かった。
研究所の中を忘れものが無いよう歩いて回る。
大きなモニター、実験台のようなもの、私が出てきたカプセル、変なケーブルがたくさん繋がっている椅子。
隅々まで見たが、もう必要そうなものはなかった。
「よし、行こう!」
「了解シマシタ。」
研究所の端っこの扉を開け、上に続く梯子を上る。
maidが登れるか心配だったが器用に手を使って上がっていたので驚いた。
外に出ると北ということもあり肌寒かった。
周りを見渡すと巨大な建造物がちらほらと見えた。
「なにあれ?」
「アレハ戦争前ニ使ワレテイタ森町地熱発電所ノ残骸デス。」
「ほぉぇ~、すご!」
「博士ハ研究所ノ電気ヲ地熱デ賄ッテイマシタノデ発電所ガ近クニアルノデス。」
「よく考えてんだね。ちなみにレイの場所はどっち?」
「コチラニナリマス」
少し早歩きになるぐらいのペースで先導を始めたmaid。
この子にも救いたいと思う気持ちはあるのだろうか。
ただ、博士の指示に従っているだけなのか。
コートの丈が長くて少し地面にひこずっている。
小雨のような音を出しながら地面をこするコートの音に気付くまで時間がかかった。
少し曇り気味の空が無駄に広い錆びれた世界によく似あっている。
「..............ほんとに人って滅んじゃったの?」
「ハイ。2038年シマ博士ノ管理下ニアッタ世界中ノロボットガ反乱ヲオコシマシタ。」
「なんで人を殺すのさ、博士は。」
「私ニモ理由ハワカリマセン」
博士に話は聞いていたけど、いざ外に出て様変わりした世界を見ると心が苦しくなる。
ずっと眠っていたはずの私だけど、記憶のどこかにある華やかな街の姿を思い出す。
「なんか悲しいね」
「ソウデスネ」
無機質なこの子から、少し悲しげな言葉が聞こえた。
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