第11話

ハンカチに滲む血を見ながら考え込む。

下を向くと伸びた髪が視界に入って邪魔だ。


「髪...伸びたな...」

またCAREに切ってもらわないとな...

人が問題に直面した時、問題とは全く違う事を考えてしまうのは防衛本能なのだろうか。


「う~~ん」

どうしたものか、久々にこんな怪我をした気がする。


道路わきに生える草が秋風に靡く。

溜息と秋風の混ざる昼下がり、後ろから轟音が聞こえた。


ゴゴォーー...


「ん...?なにこの音...」

妙な轟音のする真後ろを向く。

しかし道の上には何もいない。

目を凝らしてよく見ると遠くの空に何かが浮かんでいる。


「なんだろ...あれ」

少しずつ大きくなっていく黒い何か。

近づいてくるとそれが飛行機であることに気が付いた。


「すご!!飛行機だ!」

久しぶりに飛行機を見た。

飛行機雲を空に描きながら、風を切って進んでいく。

だが、だんだんと下がっていく高度。


「落ちちゃうけど...大丈夫かな?」

少しずつ、少しずつ高度が下がりついには地面に落下した。


ボンッと力を抜いた手を机にぶつけたような音が爆発が見えた約三秒後、耳に届いた。


「えぇ...」

あまりに唐突に起きた出来事に、状況が掴めないまま二、三分口を半開きで座り込んでいた。

飛行機が地面に落下したという現実をようやく理解した私はスッと立ち上がり自転車に向かった。


もし、誰かが乗っていたら...

背筋がぞくっとした。


自転車に跨りいつもより強い力で地面を蹴とばす。

足の怪我のことはとうに忘れていて力いっぱいペダルを踏み潰す。


十分ほど進むと落ちていた飛行機が黒煙を上げながら燃えているのが鮮明に見えた。

空に浮かぶ飛行機は空に向けた小指の先ほどに見えたが近づくと不気味さを感じるほど巨大だった。


少し遠くで自転車から降り、人がいないか確かめる。

近づいていくと段々空気が熱くなっていくのに気が付いた。

飛行機は道路の真ん中が大きくへこむほどの衝撃で落下していた。


戦争以来に見るこんな大炎、少し嫌な思い出が頭をよぎった。


少し離れて飛行機の周りをぐるりと回るように確かめる。


「人は、いないのかな...?」

かなり注意深く探したが人の姿は見えなかった。


「よかった...いや、良くもないか」

死人が出ていないことを安心したが同時に、人がいるという希望がまた薄れてしまったことが残念だった。


飛行機をよく見ると太陽光の力を受け取る部分があり、これでエネルギーを賄っていた。それに2035年シマ博士が発見した反重力物質を使った反重力装置を搭載していた。


「なんで今落ちたんだろ。劣化したのかな?」

今、なぜ今私の前に落ちたんだろう。

飛行機の中に何か使えるものがあるかもしれないと思った私は炎が枯れ果てるまで待つことにした。


飛行機の少し遠くの道路わきにある草むらに仰向けに寝転がり空を眺める。

綺麗な青い空に、黒い煙が広がっていく。

炎の弾けるパチパチという音のなかに、ピ...ピ...ピ...と機械の心音ともいえる音が響く。


「飛行機はまだ生きていたいのかな。」




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