第9話

雲行きが怪しくなってきた。

コンビニを出てから数時間。

あんなに快晴だった空が急に曇りだした。


今雨を受けてびしょ濡れになると風邪をひいて進みが遅くなるかも...

でも、降るかどうかわからない雨を待ち続けて時間を無駄にするのもなぁ...


キッ...

進むのを一旦やめ、あごに手を当て頭を傾ける。

「う~ん」


そういえば、人はなぜ考えるときあごに手を当てるのだろうか?

いや、そんな事よりどうしよう。


四車線もある大きな道路の真ん中に一人。

自転車の軋む音で気づかなかったが、多くの人が使うための場所に一人でいる違和感、静けさ。

唐突に怖くなった。


さっきまで考えていたことが無駄に思えるほど瞬間的に結論を出した。

「降ってから雨宿りすればいいか」


地面を蹴ってまた進み始めた。

道路に自転車の軋む音が響き渡る。


ギコ...ギコ...

「光った」

私の目線の先、かなり遠くで空が青白く光った。

雷だ。

これは雨が降るのも時間の問題だな...


少しペースを上げて雨宿りできる場所を探す。

顔を左右に振りながら、屋根のある建物を見極める。


「あった!」

見つけたのは、建設途中で捨てられていたコンクリートのアパートのようなもの。

四角形の中くらいのビルに壁は一枚しかなく、柱と屋根しかない。

風や音は入り放題だが他の建物は倒壊していたり、焼けたりしていて雨をしのげそうにない。


こんなスカスカの建物に逃げ込む人はいなかったら残っていたのだろうか。


建物の下に入り、自転車を止める。

自転車から降りリュックを手に取り5、6歩歩き一枚だけある壁にもたれかかる。


「はぁ~」

腰を下ろしリュックを真横に置く。

あたりを見回すと、私の右側に一輪咲いていることに気が付いた。

美しい赤をまとったその花は、たくましく凛と咲いていた。


「大変だねこんな世界になっちゃってさ」

私が話しかけると大きな風が吹き、まるで相槌を打つように花が揺れた。


「ふふ、分かるの?言葉。」

もう一度花は相槌を打った。


「そうなんだ。」


「少しだけここにいさせてもらうよ。」


「君は何て名前の花なんだろうね」


「私花に詳しくなくてわかんないだけどさ、凄く綺麗だよ」


「一人でさ辛くなかった...?」

小さく風が吹き、花は首を振った。


「君は強いね...」


「私さ、一人が辛くてさ...時々、泣いちゃうんだ...」


「弱いよね...」


ザザァー...

雨が降り始めた。


私の涙がまるで、世界に降り注いでいるように激しい雨が降り始めた。

アスファルトが雨に濡れて独特のにおいがする。


屋根から落ちる雨粒が音を立てる。

ポタ...ポタ...


雨の音が心地よくて私は眠ってしまっていた。


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「あれ...寝てた...」

二時間半ほどたち、目が覚めた。

目を開けると濡れたアスファルトに日の光が反射して眩しかった。

とにかく晴れてよかった。


リュックから水を取り出しのどを潤す。

「ふ~進もうかな」


少し上を向いていた目線を下ろし、重たい腰を上げる。

「ありがとね、また逢えたらいいね」

雨宿りさせてくれた花に挨拶をし、自転車にまたがる。


地面を蹴って道に出ようとすると私の左側、進んできた道の空に虹が浮かんでいた。

こんな世界にも虹が咲くんだ。


雨の最中、沈んでびしょびしょになった気持ちが一気に晴れたように感じた。

元気が出た私は、軋む自転車を今までより少し早く進める。

「よ~し!進むぞ!」



そして、咲いていた花の名前はガーベラ。

花言葉は「前進」





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