第54話 断罪、そしてファースト・キス
「入るぞ!」
第一王子が王宮のホールの扉に手をかけます。
扉の護衛兵は、第一王子にひざまずいています。
皆さんとダンスを楽しんだホールの中は、軍事侵攻の作戦本部と化していました。
奥に、第二王子と侯爵家令嬢が仲良く座っています。
中央の大きなテーブルを囲み、作戦を話し合っているところです。
チョビヒゲ侯爵が、ゲキを飛ばしています。
横に、侯爵の愛人が寄り添っています。第三王子を誘惑したメイドです。同一人物だと確認できました。
この二人が、ウソの予言を広め、夫婦役の従者の命を奪い、王弟殿下から婚約者を奪い、さらには第三王子の将来を壊すなど、王国の平和を乱した元凶です!
「僕が留守の間に、勝手なことをしてくれたな」
第一王子が凄むと、皆が一斉に第一王子を見ました。
「第一王子か、追放されたのに、のこのこ戻って来たか」
「しかし、お前の居場所は既にない」
チョビヒゲ侯爵が凄みました。
「第二王子を国王にしたかったが、できなかったのだろう?」
第一王子がニヤリとします。
「国王を示す宝剣が、見つからなかったのだろう」
「宝剣を持つ者が、国王だからな」
第一王子が、手に持った宝剣を見せます。
「戦争に勝てば、国王として認められる」
「だが、わざわざ持ってきたのなら、その宝剣、受け取ってやろう」
チョビヒゲ侯爵が、怒りの視線を第一王子へ向けます。
「勝てればな。外の兵士たちは、新しい国家が制圧したぞ」
「クーデターか!」
ホールの中が、ザワめきました。
「落ち着け! こちらには、異世界の知識で作った兵器がある」
チョビヒゲ侯爵が、強がりました。
「異世界の知識を、この世界で使うには、この世界の知識が必要だ」
「お前が用意した半端な兵器は、使い方を誤り、すべて燃え尽きたよ」
無言だった王弟殿下が言い放ちました。
背中に悪寒が走ります。
ホールでの戦いは、すでに始まっています。
「異世界の知識をどこで手に入れた?」
「異世界召喚で聖女を呼んだのだろう?」
「聖女から奪った知識は、どこにある?」
霊安室の事をしらない第一王子が、矢継ぎ早に問い詰めます。
「私は、ここにいます」
突然、侯爵家令嬢が立ち上がりました。やはりですか。
「心配しないで、あの令嬢に移された記憶は、病弱な女性の、普通の記憶です」
私は、侯爵家令嬢に専門的な知識は移されていないことを、第一王子へ伝えます。
「寝言を言うな! 出来損ないが!」
チョビヒゲ侯爵が、私に叫びます。
「王弟殿下、これを使ってください」
第一王子が宝剣を王弟殿下に渡しました。
王弟殿下の怒りが、爆発寸前まで膨れ上がっていました。
「お前らが、聖女を、俺の花嫁をキズつけたのか!」
人を人と思わない非情の憎しみ! マズい、これは“影”の力です。
彼が宝剣を抜くと、さらに魔力が加わりました。
「いけません、王弟殿下!」
彼の身体から、たくさんの影、破滅の槍が、爆発的に飛び出し、戦争推進派たちの体を貫きました。
王弟殿下が、宝剣を逆手に構え、腰を低く捻ります。
「クロガネ・ストラッシュ!」
宝剣から繰り出された影の斬撃が、チョビヒゲ侯爵と愛人を真っ二つにし、さらに王宮の壁を突き破っていきました。
「もう終わりましたから」
私は、湯気を上げる彼の体を、前から抱きしめ、動きを封じます。
「私は、いつも貴方のソバに、これまでも、これからも……」
唇と唇が重なり、光と影が一つになりました。
◇
(星空が見えます。ここはどこでしょうか?)
(俺たちは、海に浮かんでいるのか? 底にも星空が見える)
(これは、アップルの実? 私じゃ手が届かない)
(俺が採る。ほら、フランソワーズ、美味いか?)
(美味しいです。クロガネ君も食べて……)
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