第52話(閑話休題)辺境伯の結婚式前夜


「王弟殿下、明日は、辺境伯様と冒険者“武闘家”の結婚式ですよ」


 王弟殿下の私室で、私はお茶をいれながら、世間話をします。



「披露宴での、祝辞は、本当に俺でいいのか?」


「祝辞をお願いしてた第一王子様は、追放されたため、出席する事すらできませんので、よろしくお願いします」


 第一王子は、内緒ですが、伯爵家の屋敷で身を隠しています。


「フランの方が適任だろう」


 第一王子とともに、私も二人のキューピット役でした。


「私は、花嫁の友人代表として挨拶しますから」


 花嫁である冒険者“武闘家”と、冒険者学校で席を並べた仲ですから。



「披露宴が終わったら、出兵ですね……」


 今、王国では、友好国への戦争を準備しています。


 友好国の伯爵家令嬢は、一週間前の婚約者投票の後、友好国へ帰りました。でも、実は、最小限の人数で、伯爵家に隠れています。



「戦争反対派が動くかもしれない、身辺に気をつけろ」


 戦争反対派は、第一王子派が多いので、私たちが標的になるとは思えません。


 しかし、彼は王弟殿下として、私は王弟殿下の侍女として、戦地に赴くので、安心はできません。


 さらに、戦争推進派のチョビヒゲ侯爵の手の者が、戦争反対派の象徴となりえる私たちを、拘束するとのウワサも流れています。


    ◇


「このお茶は、明日の結婚式で出すアップルティーの試作品ですが、いかがですか?」


 いれたお茶を、王弟殿下から試飲して頂きます。


「これは良い香りだ。お茶本来の香りを残しつつ、アップルの香りがアクセントになっている」


 お茶にこだわりがある彼から、太鼓判を頂きました。

 私の自信になり、うれしいです。



「デザートで使うアップルの皮を使ったのですよ」


 果実の方は、パイに入れて焼いています。


「たしか、アップルは、光と影の果実と言われていて、辺境伯の領地の名産だったな」


 領地は北に位置しており、気温と日当たりが、栽培に適していると聞いています。


「光と影は、聖女と大魔王の神話ですね。アップルは禁断の果実と言われていますが、結婚式で使っても良いと、むしろ愛の象徴になると、大司教様から確認を頂いてます」


 私は、少し得意顔で話します。



「実は、ブーケトスのブーケを、独身女性の数だけ用意しているのですよ」


 通常は1束を投げますが、令嬢たちが取り合いになるので、事前に、必要な数を注文しました。


「受け取った女性は、次の花嫁になると言われているんだったな」


 彼は、迷信だよって顔をしています。



「私も、もらえる予定なのです」

 そう言って、彼の反応を見ます。


「フランは、花嫁になりたいのか?」

 あら、意外と落ち着いた反応ですね。


「勇者になって、花嫁になるのが夢です」


 勇者になるのは、幼い頃からの夢でした。でも、恐怖の大魔王が現れなかったので、叶わぬ夢で終わりそうです。


「明日の結婚式で、花嫁の予習をするってことか」


 彼は、私が花嫁になることを、否定しませんでした。

 これは、私の花嫁姿を想像してますね。



「いえ、結婚式は挙げなくてもよいのです。愛する男性と、幸せに暮らせれば……」


 少し、私から押してみます。


「そうか、フランのお茶を毎日飲める男性は、きっと幸せだと思う」


 また、はぐらかされました。



「王弟殿下は、毎日、私のいれたお茶を飲んでいますが、幸せですか?」


 強めに押してみます。


「し、幸せだ。ずっとこの生活が続けば良いと思っている」


 私も、ずっとこの生活が続けば良いと思います。


「戦場でも、美味しいお茶をいれますね。ずっと、ソバにいますから。侍女にして頂きありがとうございました」


 妻や婚約者は、屋敷で待つだけですが、一緒に前線に立てる私は、幸せ者です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る