第51話 第二王子が国王に、そして軍事国家
王宮で、第二王子から私室に呼ばれました。
「フランを、僕のメイドから外す」
第二王子は、残念そうな顔で、私に告げました。
「国王の執務室に移られるのですね」
王弟殿下が国王の座を蹴ったことから、唯一の王子である彼が、国王に就きます。
「実質は、侯爵が執り行うがな」
高等部一年生の彼に、実権は与えられないようで、不満に思っているようです。
「学園も休学されると聞いております」
私には、学園で彼を監視する仕事もありました。
「警護が大変だからな」
これまでの警護でも邪魔だったのに、国王ともなれば、学園の開放的な雰囲気は、なくなるでしょう。
「第二王子様をお慕いしている令嬢たちが残念がるでしょうね」
令嬢たちは、私の仕事であった第二王子のカバン持ちと盾役を、自ら進んでやってくれたので、助かっていました。
「それと、フランを側室にする話だが、侯爵家令嬢の気持ちが変って、白紙に戻った。申し訳ない」
侯爵家令嬢が王太子妃になったら、私を側妃にする話ですね。私は、本気にしていませんでした。
「お気になさらないでください。あのような投票結果を考えれば、当然の対応だと思いますから」
まさかの繰り上げ当選なんて、侯爵家令嬢のプライドが許さないでしょうね。
「僕は、力を手に入れたと思っていたが、ただのお飾りになったようだ」
彼は隣国へ婿に行く予定でしたが、急に国王の話が転がってきて、喜んだのもつかの間、侯爵の操り人形だったわけですからね。
◇
王弟陛下の執務室です。と言っても、彼に仕事など無く、お茶を飲みながら本を読む日々です。
「宰相、騎士団長、騎馬隊長までも、重要な役職は第一王子派が握っている」
第一王子が国王になることを想定した人事でしたからね。
「私が王宮に来てから、いろいろな事がありすぎです」
古株の方から話を聞くと、私が王宮に来る前、冒険者学校が廃校になる頃から、流れが急速に変わっていたようです。
「恐怖の大魔王が現れなかったから……かもな」
彼がつぶやきました。
「現れていたら、今頃、私は勇者になっていましたね」
大魔王を倒すため、冒険者学校で鍛え上げたのですから。
「前向きだなフランは」
言われてみれば、私の未来は光輝いていると、ずっと思っていました。
◇
「フランを、俺の侍女に任命する」
王弟殿下の執務室で発令がありました。婚約者の投票から一週間が経った日です。
彼が、また、私をソバに正式に置いてくれました。
しかも、メイドではなく、今度は侍女です。
「私は家名を持ちませんが、侍女でよろしいのですか」
侍女になるためには、学歴とともに身元が要求されます。
「フランの保証人は俺になっているだろ、問題ない」
ありがたい言葉です。
冒険者になろうとした少女が、あれよあれよと、高等部三年生で、王弟殿下の侍女になりました。
「さてと……侯爵が、裏で第二王子を操っている」
「もう隠していないのですね」
チョビヒゲ侯爵から、先手を取られっぱなしです。
「侯爵は、自分が国王のようにふるまっている」
「第二王子を国王に据えないのが、いまいち分からないが、何か訳があるのだろう」
「前の国王の葬儀も、1カ月延期する」
ウワサで流れていたとおり、延期ですか。
「明日、戒厳令が出される。学園も閉鎖されるだろう」
「すでに、王宮内が騒がしくなっていますね」
ホールは作戦会議場となり、中庭は整地されて草花が無くなりました。
「友好国への進軍が始まる」
「貴族院が黙っていないでしょ」
数で勝る第一王子派が、抵抗するはずです。
「貴族院は、賛否が分かれ紛糾している。宰相が、鎮静化に走っている」
「騎士団も割れている。騎士団長が、仲裁に入っている」
これは、第二王子派へ寝返った貴族がいるようです。
「友好国から勝てるのですか?」
「侯爵は、侯爵家令嬢が異世界の知識を使うから勝てると、自信たっぷりだ」
「異世界? 王宮の庭を潰して、大きな風船を作っているのは、異世界の知識なのですね」
「空を飛んで、攻め入るそうだ」
空を飛べば、川や城壁を飛び越えられるので、戦争が有利になります。
「馬のいない馬車も作っている。馬車よりも早く走るそうだ」
「どちらも、火の魔法を使うので、冒険者“魔法使い”を招集している」
火の魔法で、空を飛び、地を走る……そんなこと、できるのでしょうか?
「王弟殿下も出兵するのですか?」
「王族と貴族は、先頭に立つのが義務だ」
ぜいたくな暮らしと引き換えに、命をかけて戦うのが、貴族の義務です。
「侍女であれば、戦場であろうと王族のソバに付き従う」
「とても危険な仕事であるが、フランなら付いてきてくれると考えた」
彼と一緒なら、地獄であろうと、突き進みますよ、私は。
「戦場で、俺の中にある悪の心を、目覚めさせないようにしたい」
悪の心、何のことでしょうか? まさか、女好きのことですか?
「俺のソバを離れないでくれ」
もちろんです。
「私一人で、敵の大将を捕まえてくるのは、ダメですか?」
たぶん、私ならできます。
「友好国は、戦いの準備をしていない。一方的に攻め入ることになる」
あら、敵の大将は、友好国の王宮に残っているのですか。
「正面切って戦うだけが、勇者ではありません」
勇者たるもの、兵士を犠牲にはしません。たった一人で敵の懐に入って、大魔王を倒します。
「私は、愛する人を守るため、この戦いを止めたいと思います」
私の魂が、愛する人と結ばれるためには、この戦いを止めなければならないと、そう言っています。
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