第50話 王弟殿下の失脚
「第二王子様の婚約者について、投票で次点となった侯爵家令嬢を、繰り上げて、当選とする」
冷静さを取り戻した進行役のチョビヒゲ侯爵が宣言し、婚約者が決定しました。
ホール内で見守る貴族から、拍手はありません。微妙な空気が流れるだけです。
「意義のある者は、挙手によって発言を許す」
チョビヒゲ侯爵が言いましたが、誰も手を挙げません。当然です。
私が婚約者だと言えば王弟殿下が怒るし、友好国の伯爵家令嬢だと言えば投票結果をないがしろにするのかとチョビヒゲ侯爵が怒るだろうし、選択肢はありません。
私としては、第二王子に選ばせろとか、婚約者候補を白紙に戻すとか言いたいのですが、結局は侯爵家令嬢に決まるので、言うだけ無駄というものです。
「皆様から異議の申し立ては無いようですね。では、友好国の伯爵家令嬢様と私は、退席させていただきます」
私たちは、婚約者としての誓約書へのサインなどの行事に、全く興味はありません。
私と隣国の王女は、ホールから退席します。
◇
「よろしかったのですか、フランお姉様?」
友好国の伯爵家令嬢が、心配そうに話しかけてきました。
もしかして、友好国の伯爵家令嬢は、本気で私を婚約者にしようと考えていたのでしょうか?
「第二王子様の婚約者になる気持ちはありませんから」
笑って答えます。
「友好国の伯爵家令嬢様こそ、よろしかったのですか?」
「問題ありません。友好国が、きずなを結びたかったのは、第一王子様でしたから」
令嬢も、笑って答えてきました。
「でも、王弟殿下は、よほどフランお姉様が大事なのですね」
私は、恥ずかしかったので、聞こえないフリをします。
「友好国の伯爵家令嬢様は、すぐに国へ帰られるのですか?」
私の問いに、彼女は少し下を向きました。
「私がこの王国に滞在する公的な理由が無くなりましたから」
彼女がこの国に来た本当の理由は、婚約者になるためではありません。
「消えた王女様を見つける力になれず、申し訳ありませんでした」
同じ冒険者学校に在籍していたのに、お転婆王女の記憶が無いことを謝罪します。
「在籍者の名簿など、個人情報は全て焼却処分されており、記憶だけが頼りでした。こんな状況で人探しなんて無謀でしたね」
「でも、フランお姉様とお近づきになれたのは、大きな収穫です」
私も、彼女と、きずなを結べたことはうれしいです。
「そういえば、フランお姉様の妹様に会いました」
「妹様のお母様は、私の国の出身なのですよ。表敬訪問した際、フランお姉様の話で盛り上がり、妹様であることが直ぐにわかりました」
ニコニコと話をしてくれましたが、私は、その屋敷に隠れていた第一王子の事がバレていないか、ドキドキです。
「妹様は、第一王子様とおそろいの香水をつけていらして、彼女は第一王子様に恋をしているのですね」
「第一王子様は、どこに消えたのでしょうね」
友好国の伯爵家令嬢は、ため息をつきましたが、これは、何かに気が付いている顔です。
友好国の令嬢が、行方不明である第一王子の香水を、知っているはずがありません。
証拠など無くても、乙女のカンは鋭いのです。
◇
王弟殿下の執務室です。
「王弟殿下、国王代理の荷物を、国王の執務室へ移動しましょう」
彼は、積み上げられた書類に手を付けず、私のいれたお茶を味わっています。
「そうだな、公務を止めると、国民が困るからな」
国王の地位に、全く未練は無いようです。
「婚約者にならないのは予定どおりでしたが、私は、うれしかったのですよ」
私は、少しうつむきました。
「好きでもない男との婚約を止めて頂き、ありがとうございました」
彼にお礼を言います。
「フランがいれる美味しいお茶を、俺は手放さない」
うつむいた彼の顔は、真っ赤になっていました。
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