第49話 婚約者の投票


 王宮のホールです。王国の幹部はもちろん、興味半分の貴族まで集まっています。


「これから、婚約者候補三名による、第二王子様の婚約者の投票を行う」


 進行役を務めるチョビヒゲ侯爵が、偉そうに、開会を宣言しました。


 これから、第二王子の婚約者が決まります。



「渡した紙に、三名の名前が書いてあるので、第二王子様の婚約者にふさわしいと思われる令嬢に、丸を付けて投票すること」


 封筒程度の大きさの用紙に、友好国の伯爵家令嬢、侯爵家令嬢、そして私の名前が、既に書いてあります。


「なお、自身に丸を付けた場合は無効とする」


 どうやって確認するのでしょう? たぶん、結果が、自分たちの計画と違ったら、無効にするのでしょうね。


「投票する箱の中は、このとおり、カラでございます」


 ツボがスッポリと入る大きさの箱で、中がカラであることを、見物に来た貴族たちに見せました。


「同数の場合、後日、再び投票を行います」


 婚約者候補の全員が、一票ずつ獲得するのが物語の定番ですが、今回は、チョビヒゲ侯爵の娘に二票入る予定です。



 いよいよ、始まりました。


 投票の用紙を前に、私は悩むフリをします。


 第二王子たちの根回しによって、侯爵家令嬢に丸を付けることになっていますが、怪しまれると困るので、投票のタイミングを見計らいます。


「悩むほどの事ではありません」


 友好国の伯爵家令嬢が、あっさりと投票を行いました。


 侯爵家令嬢も、続いて投票しました。



 意外でした。私も、急いで侯爵家令嬢に丸を付けて、投票します。



「では、開票します」


 侯爵が偉そうに言いましたが、侯爵の根回しで、既に投票結果は侯爵家令嬢に決まっています。


「まずは、侯爵家令嬢様に一票」


 自分の娘に“様”をつけています。これは仕方ないか。


「次にフラン嬢に一票」


 予定どおりです。


「最後は……」


 チョビヒゲ侯爵の声が、止まりました。



「最後は、フラン嬢です」


「「おぉー!」」

 ホールに集まった貴族がどよめきました。


「投票の結果、フラン嬢が……」


 宣言しようとするチョビヒゲ侯爵の顔が、混乱して、青ざめています。



「意義あり!」

 王弟殿下が、立ち上がりました。


 第二王子は、青い顔をして、イスに座ったままです。腰を抜かしているようです。


「俺は納得がいかない、不正があったのではないか」

 王弟殿下は、珍しく怒っています。


 背中にザワッとするもの、黒い影のような、悪寒のような感じが走りました。


 侯爵家令嬢も青い顔をしています。


 でも、友好国の伯爵家令嬢だけは、わずかに笑っています。


 これは、友好国の情報収集能力を、チョビヒゲ侯爵が、見誤ったようです。


 考えてみれば、第二王子とお見合いする時、令嬢にお茶を出す予定のメイドのことまで、友好国は事前に調べ上げていました。


 私に票が集まったのは、友好国の令嬢が全てを読みきって、仕掛けてきた結果のようです。



「証拠はないが、何かがおかしい」

 王弟殿下が声を荒げます。


「これは、投票の結果です。国王代理の言葉とは思えません。王弟殿下は、国王代理を取るのですか、投票結果の無効をとるのですか?」


 混乱しているチョビヒゲ侯爵が、王弟殿下に、異常な選択を求めました。


 素直に、王弟殿下の異議を認め、投票を無効にすれば、自分たちの計画どおりに、落ち着くのに。



「国王代理よりも、フランの婚約を認めない事の方が、大事だ!」


 彼は即答しました。


「「えぇー!」」

 ホール内に、貴族たちの叫び声が響きました。



「国王代理などくれてやる! だが、フランはやらない!」


 彼が、宣言しました。国王の座よりも、私の方が大事だと!


 混乱しているホール内で、友好国の伯爵家令嬢だけが笑っています。



 第二王子の婚約者候補による婚約者を選ぶ投票が、チョビヒゲ侯爵による事前の計画を外れ、大変なことになりました。


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