第48話(閑話休題)身体強化のポーション
「僕は、力を手に入れるんだ!」
「そうだ、力を手に入れよう!」
学園のホールのスミで、高等部三年生の、宰相の末っ子と騎士団長ジュニアが、腕立て伏せをしています。
学園で、第二王子に関する謀反がないか、情報を集めるのも、私の仕事の内です。
「隣国の王女様を護るためには、頭脳だけではなく、力が必要なんだ、ハァハァ」
宰相の末っ子は、隣国の王女に求婚するため、体を鍛えているようです。
「子爵家令嬢を溺愛するためには、もっともっと、力が必要なんだ、ハァハァ」
騎士団長ジュニアは、子爵家令嬢の尻に敷かれないようにするため、体を鍛えているようです。
今度は、スクワットをはじめました。
令息の腕っぷしが強くなることは、婚約者としたらうれしいのでしょうが、もっと大人になることを婚約者たちは望んでいると、普段の二人を見ながら、私は思います。
第一王子様が行方不明になってから、腰ぎんちゃくであったあの二人は、ヘタレになったと、クラスの令嬢たちのウワサになっています。
でも、二人の体つきは、以前よりもマッスルになり、頼もしくなったように見えます。
「ここは、私が力になりましょう」
私に、良い考えが浮かびました。
◇
学園から私に割り当てられた研究室に向かいます。研究室は二人の共用部屋で、魔法の研究や、授業の予習・復習に使うことが出来るプライベート空間です。
私の研究室は、隣国の王女と共用であるため、優遇されているようで、魔法の材料が豊富にそろっています。
◇
「身体強化のポーションを作ります」
魔法のポーションなんて、私にとっては楽勝です。
薬草を煮出してベースとなる水を作り、自分の持つ魔法を注ぎ込んで、熟成させれば、出来上がります。
難しいのは、狙った効果の魔法を、調合者が上手く注ぎ込めるかどうかだけです。
「私は、身体強化の魔法は得意ですから」
はい、出来上がりました。
化粧水の瓶に詰めて、身体強化とラベルを貼り、机の上に並べて熟成させます。
「もしかして、魅了の魔法を注ぎ込めば……」
良からぬ考えに、私の心臓はドキドキします。
でも、誘惑に負けてしまいました……
冒険者“踊り子”の魔法を、見よう見まねで、注ぎ込みます。
小瓶にいれた魅了の薬を、両手で包み隠して、王宮へ急ぎます。
途中で、マラソンから帰ってきた、あの二人とすれ違いました。でも、もう、二人の身体強化なんて、どうでも良いです。
◇
「王弟殿下、本日のお茶はいかがです?」
王弟殿下の執務室で、国王代理の業務と、国葬の準備を行っている彼に、魅了の薬を垂らしたお茶を出してみました。
「少し甘みがあるな」
彼の感想に、ドキッとしました。
「はい、特別な茶葉を使用いたしました。何かしら体に変化がありましたか?」
「普段と変わりないな、毒でも入れたか?」
そうか、冒険者“踊り子”のアンチ魅了の指輪で護られているから、魅了の薬など効かないんだ。
もうダメです、ウソはつけません。
「申し訳ありません、魅了の薬を試しました」
「そんな薬は不要だ。フランがいれてくれたお茶に、既に魅了されている」
彼は、魅了の薬が入ったお茶を、自分から飲み干しました……
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