第47話 侯爵家令嬢との密会
「侯爵家令嬢様は、第三王子様が好きだったのでは?」
王宮の応接室で、私と侯爵家令嬢は、お茶会という名目で、裏取引をしています。
「私に恋愛は許されていません、私は政略結婚の道具です」
侯爵家令嬢は、中等部なのに、気品が感じられ、背筋を伸ばします。
「第三王子様の同級生で、婚約者候補でしたのに」
「駆け落ちする男は、クズです」
あの日、第三王子は、侯爵家へ忍んで来る作戦だったのに、隣国へと駆け落ちされてしまった心のキズ、いまだに癒えていないようです。
「第三王子様に、未成年にお酒を飲ませたのは、侯爵家でしょう」
第三王子の警備と、心のスキを突いて、侯爵家の屋敷に呼び込むという卑劣な作戦でした。
「私だけのものにしたかった……」
先ほどとはうって変わって、侯爵家から離れ、令嬢としての、本音が出ました。
「言い過ぎました。申し訳ありません」
私は、令嬢へ謝罪します。
「いいわ、昔のことよ。今回の第二王子様との婚約は、私が勝ち取りますから」
侯爵家令嬢の顔が、また大人びた顔に戻ったようです。気品が感じられ、背筋が伸びました。
「はい、第二王子様から指示を受けております」
私が婚約者候補になって、この侯爵家令嬢に投票するよう指示がありました。
「私が王妃になったら、貴女を側妃にしてもいいわよ」
あらら、どうしたことでしょ?
「私は、まだ中等部でデビュタント前なので、第二王子様の全てをお手伝いする事ができません。貴女は高等部三年生なので、私の足りない部分を、お手伝い出来るはずです」
中等部の令嬢では、第二王子を手助けするには、お客様とお酒を飲めないなど、制限があります。
その隙間を、私に埋めろというのですね。
でも、私も、まだお酒を飲めない年齢なのですが、令嬢の頭には無いようです。
これは、どうも、だれかから入れ知恵されているような感じです。
「ありがたく思いますが、第二王子様が王太子に決まった後、私は旅に出ていると思います」
王子の婚約者が決まり、王太子となれば、私の役目は終わりですから、それなら、旅に出て、広い世界を見て回るのも、面白いと思っています。
「それは残念ね」
私が側妃にならないことが残念なのではなく、再度、側妃を選びなおす手間が、残念なのでしょう。
「第二王子様にも、良い所はあるのですよ、例えば、う~ん……」
侯爵家令嬢と婚約する第二王子を否定する気持ちは無いと、念を押したかったのですが、良い所が思い浮かびません。
第二王子は、中身がクソですから。
「そうだ、イケメンです、王国一のイケメンです」
「無理しなくてもいいわよ。彼は意外と優しいのよ、私の体を心配してくれたの」
体を心配してくれた? 健康診断で、どこも悪い所は無かったのに?
「第二王子様のことが好きなのですね」
話を盛り上げようと、ヨイショします。
「いいえ、私は道具です。でも、愛されたい、生きたい」
彼女の中に、中等部の彼女と、別の彼女がいるみたいな感じです。多感な年頃、思春期なのですね。
「私は貴女に投票して、恥をかかないようにするので、貴女は私に投票しなさいよ」
それにしても、彼女の精神は不安定ですね。表情がコロコロ変わって、会話に疲れます。
これでは、王国の未来を考えたなら、中等部では出来ない事の手助けとは別の意味で、側妃のサポートが必要です。
◇
「侯爵家令嬢は、思春期ですね」
王弟殿下に裏取引のことを報告しました。
執務室で、王弟殿下は私のいれたお茶を飲んでくれています。
「そうか? あの令嬢は、チヤホヤされるのが好きな、なんというか、ガキという印象だったのだが」
もしかして、彼は中等部の令嬢は苦手なのでしょうか?
俺もまだまだいけると、昨日はニヤニヤしていたのに。
「恋に恋する乙女心が、芽生えていましたよ」
女性は、生まれた時から令嬢だと、彼に教えてあげます。
「そうなのか? 恋する令嬢の幽霊でも、のりうつったのかな?」
「夢がありませんね」
笑ってスルーしましたが、彼の冗談が、まさか本当に……
「第二王子から、フランを側室にしたいと話があったが、断っておいたから」
王弟殿下にも、裏取引の話が来ていたのですね。
「ありがとうございます。でも、侯爵家令嬢をサポートするよう、側妃を考えておいたほうが良いと思います」
「第二王子も、同じようなことを言っていた。側妃の候補を、俺の中では考えているが、相手が第二王子じゃ、考えている令嬢は断わるだろうな。困った」
側妃の候補ですか……全ての令嬢にアプローチしてきた彼の恋愛遍歴が、意外な所で役立っているようです。
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