第46話 友好国のお転婆王女


「第二王子様の婚約者候補に選ばれたそうですね。おめでとうございます」


 友好国の伯爵家令嬢は、昨日、私が第二王子の婚約者候補に選ばれたことを、既に知っていました。


「ありがとうございます。ライバルを潰すのが、このお茶会の目的ですか?」


 私は探りを入れます。ここは、王宮の応接室、友好国の令嬢の主催で、二人だけでお茶会をしています。



「貴女にそんな事はしませんよ。私の真の目的は、第二王子様との婚約ではなく、9年前に消えた王女様を探し出すことです」


 友好国の令嬢が、いきなり本題を切り出しました。


「以前、第一王子様から聞かれたことがあります。冒険者学校に友好国のお転婆王女がいないかと」


 私は、冒険者学校で学んでいましたが、そんな令嬢に心当たりはありませんでした。



「この王国から、王女様に該当する者はいないと、報告は受けましたが、そんなはずはありません」


「王女様が国を出る時に、夫婦役の従者が同行していました。従者からの連絡も全く無いのです。きっと、何かトラブルがあって、苦労しているはずです」


 友好国の伯爵家令嬢が、力説します。


「冒険者には、幼い頃に、孤児で苦労した人が多いので、逆に、学校に入って幸せになったかも」


 少し落ち着いてもらおうと、冒険者の現実を話します。私が、そのタイプですから。



「貴女は冒険者じゃないから、苦労を知らないから、分からないのです」


 あらら、逆に、火に油を注いでしまったようです。


「私……冒険者“盗賊”です」

 冒険者学校を出た、メイドなのです。


「へ?」

 令嬢が、変な声をあげました。


「貴女には驚かされてばかりです。家名が無く、メイドなのに、国王代理の王弟殿下が保証人で、今度は冒険者“盗賊”ですか」


 友好国の令嬢が驚きますが、私自身の意志ではなく、全てなりゆきです。



「王女様は、銀髪で青緑の瞳なのです」


「あら、私と同じですね」


 私も、銀髪で青緑の瞳です。この王国では、珍しい容姿です。


「そうです。でも、年齢が違います。王女様は、貴女の2年後輩になります」


 私は高等部三年生、お転婆王女は高等部一年生で、友好国の令嬢は中等部なんだそうです。



「貴女が王女様なら良かったのに……だめ、王女様を、あんな第二王子の婚約者になんか、させない」


「あ、ごめんなさい。私、“あんな王子”とか言ってしまって」


「問題ありませんよ、“クソ王子”でもOKです」


 第二王子の中身は、赤いハイヒール事件の時に判明しました。イケメンなのに、クソです。



「もし良ければ、貴女が王女様だと名乗って、私の国に来てくれてもかまいませんよ」


 友好国の令嬢が、突飛な提案を出してきました。


「ごめんなさい、私は窮屈な暮らしは嫌ですし、ウソをつくのも出来ません」


「そうでしょうね、本物の王女様も、同じことを言うと思います、そういうお転婆なんだそうです」


 令嬢は、王女と面識がないのか、幼い頃のことで覚えていないのか、評判を聞いているだけのようです。


「友好国の伯爵家令嬢様には、好きな男性はいないのですか?」


 第二王子の婚約者候補なのに、王子を“あんな”呼ばわりするということは、好きな男性がいると思われます。


「私は、年上の頼りがいのある男性が好きなのですが、出会いがないのです」


「でも、皆さんが“氷の殿下”と呼んでいる、この王国の王弟殿下は、私の好みです」


 は? 氷の殿下ですか?


「私に譲ってもらえませんか?」


 へ? なんで、私に言うのですか?


「こ、困ります! 彼に直接言ってください」


 不意打ちです。王弟殿下は私のものではないので、譲ってくれと言われても……それに、氷の殿下って、なんですか? 好色殿下を、聞き間違えたのですか?"


「やはり貴女は、氷の殿下を“彼”と呼ぶのですね……」


 しまった、口が滑りました。


「分かりました。では、これからはフランお姉様と呼ばせてください」


「そ、それなら大丈夫、既に姉さまと呼ばれていますから」


 これで、二人目の妹ができました。


「フランお姉様には、妹がいらしたのですか、いつか、会いたいです」


    ◇


「友好国の伯爵家令嬢様から、お姉様と呼ばれることになりました」


 お茶会を終えて、王弟殿下の執務室に戻りました。



 そういえば、ここ数日、第二王子のメイドとして、仕事に呼ばれていません。どうしたのでしょう?


 おかげで、私は、学園に顔を出すこともできているし、うれしいのですが、不気味です。



「フランは、男性にもモテるし、女性にもモテるなぁ、うらやましい」


「友好国の伯爵家令嬢様は、氷の殿下が、好みだそうですよ」


「氷の殿下、俺の事か? そ、そうか、俺も、まだまだいけるな」


 まんざらでもない顔をしている彼に、好色殿下という話を、聞き間違えたのだろうとは、言えない雰囲気です。



「孫のような令嬢が、お好きですか?」


 令嬢は、デビュタントを済ませていますが、中等部という年齢です。


 王弟殿下の孫はヒドイですが、娘と言ってもおかしくありません。


「いや、俺は意外と若いから」


 彼は、まだ、ニヤニヤしています。



 考えてみれば、だれにでもアプローチする彼ですが、友好国の令嬢には、アプローチしていませんね。


 というか、私が王宮に来て、もう三カ月以上過ぎていますが、彼が令嬢にアプローチしている姿を見ていません。


 なんだか不思議です。


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