第45話 私も婚約者候補に
「第二王子様、本日の令嬢は現れませんね?」
王宮の庭のガゼボで、白いイスに座る王子に、お茶をいれます。
どの令嬢が現れるのか、お茶の係なのに、私には、なぜか聞かされていません。
先輩メイドは、どうやって相手の令嬢の情報を得ていたのでしょう?
「僕がフラれたわけではない」
第二王子はカンが良いようで、私が次に言おうとした言葉に、返してきました。
「フラン、お前が、本日の令嬢だ」
お茶の香りを楽しみながら、王子が言いました。
私の名前を覚えていたことに驚きです。
「冗談は顔だけにしてください」
直ぐに切り返します。
「冗談ではない、いや、僕の顔は冗談なのか?」
王子は困惑した顔になっています。
「メイド・ジョークです。第二王子様なら、このくらいのユーモアはありますよね」
先手を打ちます。
「もちろんだ、僕はユーモアでも王国一だ」
乗って来ました、私の勝ちです。
「それは置いておき、僕の婚約者候補になれ」
私が第一王子の婚約者候補だったことが、バレたからでしょうか?
「王子の婚約者は、三名の候補がお互いに投票して、トップを取った令嬢に決まる。知っているな」
「はい、既に、友好国の伯爵家令嬢様、侯爵家令嬢様が候補に決まっています」
第一王子の時は、上手く三名の婚約者候補を集められなかったのに、今回は偶然なのか、既に二名が決まっています。
言い換えると、第一王子の婚約者候補としてお願いしていた友好国の伯爵家令嬢、そして、第三王子の婚約者候補であった侯爵家令嬢です。
「そうだ、そこにフランが入る」
「なぜ私なのでしょうか?」
私には家名が無いと、偽の履歴書に書いています。しかも、第二王子のメイドです。さらには、王弟殿下の愛人だと、ありもしないウワサまで広がっています。
「侯爵家令嬢に投票してもらうためだ。侯爵家がフランを指名してきた」
侯爵家は、私が第三王子のメイドだったことと、第一王子の婚約者候補だったことに、気が付いたようです。
「それを世間では八百長と呼びます」
「貴族の世界では根回しと呼んでいる」
「侯爵家令嬢様は、ご存じなのですか?」
「彼女は、フランに投票する」
侯爵家令嬢は、既に承知しているのですね。
「友好国の伯爵家令嬢様は?」
「彼女は侯爵家令嬢に投票するだろう。メイドのような者に投票するはずがない」
侯爵家令嬢に2票、私に1票となれば、第二王子の婚約者は、めでたく侯爵家令嬢に決まる算段ですね。
「婚約者候補となる私には、愛の言葉をささやいてくれないのですね」
少し意地悪してみます。
「それは出来ない、僕は侯爵家令嬢を愛さなければならない、王宮は侯爵家の監視下にある、滅多なことは言えない。わかってくれ」
なるほど、私に愛の言葉をささやくと、侯爵家令嬢に報告され、第二王子は、ひどく怒られるわけですね。
「分かりました、私は婚約者候補を演じて、侯爵家令嬢様に投票すればいいのですね」
「そうだ、理解してくれて感謝する」
「でも、条件が一つあります」
チャンスは、最大限に利用します。
「ん? なんだ、言ってみろ」
「先輩メイドが結婚します。彼女にお祝いの花束を贈って下さい」
「あ~、あの笑顔が可愛いメイドだな、わかった約束しよう」
……あの笑顔が可愛いメイド……先輩の微笑み作戦は功を奏していました。
令嬢は、笑顔が大事なのですね。私にできるかな?
◇
「王弟殿下、先輩が結婚するんです」
王弟殿下の執務室で、お茶を飲む彼に、話題を振ってみました。
「そうか、フランが世話になった先輩メイドだな。お祝いに、俺から美味しいスイーツを贈ろう」
「ありがとうございます」
ん? 具体的に誰なのかを言っていないのに、彼は、先輩メイドだと知っていました。
「第二王子様の婚約者候補に、私が選ばれました。これも、お祝いして頂けますか?」
「そんなわけないだろ!」
彼は、すねちゃいました。
「すねないでください、私が言い過ぎました、ごめんなさい」
私は言い過ぎたようです。素直に謝ります。
「第二王子は、友好国の伯爵家令嬢と婚約するのが、国としては望ましい」
この王国としては、友好国との関係を強めて、隣国に対抗したいようです。
あの国王の事件がなければ、第一王子は、隣国の王女との話が消えた後に、友好国の令嬢を婚約者候補に迎える話が、水面下で進んでいました。
「でも、第二王子様は、侯爵家令嬢様と婚約するわけですね」
「それは、俺の知らない所で進んでいる話だ」
彼は、すねたままです。
国王代理なのに、第二王子様が私を婚約者候補にする作戦を知らないフリをするのに、私がお世話になった先輩メイドさんの結婚は知っているのですね。
あれ? 美味しいスイーツを届ける……どこかで、聞いたことがあります。
まさか、先輩メイドの結婚を隠れみのにして、いつものお店にも、スイーツを届けるつもりなのでは?
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