第43話 友好国令嬢とのお見合い
「先輩、いつもと感じが違いますね」
赤毛の先輩メイドの、いつもの元気が、というか、令息へ愛想を振りまく元気すら、ありません。
今日は、第二王子と、友好国の伯爵家令嬢とを合わせ、婚約者候補としての相性を見る、大事なお見合いの日です。
「私は大丈夫です」
自分で大丈夫と言う人は、大丈夫じゃないことが多いです。
先輩を金縛り魔法で静かにさせて、護衛兵に合図します。
「この令嬢を、朝のミーティングでの指示どおり、治癒室に運んで下さい。冒険者“踊り子”が待機しています」
「丁寧に扱ってね」
護衛兵に、そっとチップを渡します。
「いや、受け取れません」
「ん? 貴方は子爵家の末っ子さん」
「そうです、軍曹殿」
ビシッと、私に敬礼しました。
この護衛兵は、冒険者学校へ研修に来た、私の教え子です。
私を軍曹と呼ぶからには、私は、この護衛兵を、相当しごいたのだと思います。私の黒歴史です。
「このメイドは、私が責任をもって、運びます」
もしや、これはラブラブですね。
計画どおり、メイド長が来ました。代わりのメイドを連れて……あれ?
「フラン、代わりのメイドが、緊張のあまり体調を崩しました。一人で対応しなさい」
メイド長が、青ざめています。私を心配しているのか、私だけだと不安なのかは、判りません。
「分かりました、私は慣れていますので、心配しないでください」
気休めですが、メイド長を安心させます。
私一人でも、なんとかなるでしょう。ガゼボのそばには、王弟殿下もいますから。
◇
私は、お茶道具を積んだワゴンを押し、ガゼボに近づきます。
第二王子が、チラリと私を見ました。
予定していた先輩メイドでない事に、気が付いたようです。
表情を変えずに、大丈夫ですよと軽く会釈して、王子の緊張をほぐします。
友好国の伯爵家令嬢は、金髪の美しい令嬢で、大人びて見えますが、中等部のようにも見えます。
「お茶の香りが引き立っていて、美味しいお茶です、第二王子様」
「ありがとう、彼女は僕のメイドなんだ」
「メイドさんは赤毛と伺っていましたが、銀髪のメイドさんもいらっしゃったのですね」
友好国の令嬢は、先輩メイドのことを調べていました。これは、侮れません。
「そ、そうなんだ」
第二王子が私に視線で合図して来ました。
「私は、第二王子様が国王陛下へとステップアップするため、新しく雇われたメイドです」
「素晴らしい手際ですね。どこかで修行したのですか?」
第二王子が、答えるようにと、視線で合図してきました。
「第三王子様、第一王子様のメイドを経験しております」
「そうでしたか、お若いのにベテランでしたか」
友好国の伯爵家令嬢が驚いています。
と、同時に第二王子も驚いています。言っていませんでしたから。
「第二王子様と婚姻が決まれば、毎日、美味しいお茶を頂けるのですね、うれしいです」
「そうだな、二人で美味しいお茶を楽しもう」
なかなか、良い雰囲気の二人です。
「私に、このメイドを頂きたいのですが、どうでしょう、第二王子様」
「僕は、かまわないが」
私の意見は、聞いてもらえそうにありません。
「おい、お前の保証人は誰だ? 僕が話をつけよう」
異動の前に、保証人の了解を取るつもりのようです。
メイドの保証人なんて、どこかの男爵程度だと思っているのでしょう。
「王弟殿下です」
「「え~!」」
いきなり大物の名前が出てきて、二人とも驚いています。
そばで聞いていた王弟殿下が、天を仰ぎました。
◇
「王弟殿下、私が友好国の伯爵家令嬢の下で働く話は、どうなりました」
無事にお見合いを終えて、王弟殿下の執務室に戻り、彼にお茶をいれながら、さっきの話がどうなったのか、確認します。
「断った」
彼は、ぶっきらぼうに答えました。
「良かったです」
「それが、良くないんだ」
彼は、なぜか機嫌が悪いです。
「え?」
「第二王子が、あのメイドを婚約者候補にしたいと言い出した」
「え!」
あのメイドって、私のことですか? 先輩メイドの間違いじゃないのですか?
「さらに、友好国の伯爵家令嬢が、あのメイドとお茶会をしたいと言ってきた」
「えぇ!」
来賓客が、一介のメイドと、お茶会ですか?
「第二王子は良いとして、友好国の伯爵家令嬢に何をしたんだ?」
第二王子の婚約者候補のことは、どうでも良いって……まぁ、そうでしょうね。きっと、王弟殿下が、握りつぶしてくれるのでしょう。
「友好国の伯爵家令嬢は……私の髪と瞳を観察していましたね」
私の銀髪と、青緑色の瞳を、興味深そうに、まじまじと見ていました。
「それに、私を頂きたいと、言っていました」
友好国の令嬢が婚約者候補になったら私をメイドにするという意味なのか、友好国へ連れて帰るという意味なのかは、判りませんでした。
令嬢からアプローチされるなんて、私はソッチ系に興味ないのに。最近なぜか、令嬢から好かれることが多いようです。
「そうか……俺はフランを手放したくない」
お茶を美味しくいれただけなのに……運命は、思ってもいない方向へ動いているようです。
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