第三章 第二王子

第41話 第二王子のメイドになる


「新しくメイドに採用されたフランです。第二王子様の学園生活を支える使用人の一人として働かせていただきます」


 ここは王宮、クリ毛の第二王子の私室です。他の採用者と一緒に、着任の挨拶をしました。



 第三王子が亡くなり、国王陛下が亡くなり、第一王子が消息不明となりました。


 王弟殿下が一時的に国王の代理を務めていますが、いずれ、この第二王子が王太子となって、国王になります。


 学園生活での身の安全を確保するため、メイドや護衛兵などの使用人が、数人増員され、私も、その一人として、採用されました。


 今回の採用者は、国王の周りで働いていた者がほとんどであり、信用のおける者ということで、試験もなく、選ばれました。



「先輩の指導の下、即戦力として働いてくれ」


 第二王子から挨拶を受けた後、使用人は各職場に移動します。


 私の仕事は、給仕係であり、カバン持ち、お茶出し、飲食の接待などの雑用です。


 なお、特命として、学園に通いながら、貴族の令息や令嬢の動きを探る役目も、仰せつかっています。



 第二王子は、私の顔を覚えていませんでした。


 赤いハイヒール事件で、顔を覚えられたかと、心配していたのですが、良かったです。


 でも、私って、印象に残らない顔をしているのかな?


    ◇


「これが、第二王子様のお茶道具ですね」


 もう一人のメイド、先輩と一緒に確認します。


 ここでは、常に、二人一組で働くことになっており、セキュリティが強化されています。


「先輩、お湯の温度が低くありませんか? 茶葉を蒸らす時間も長い気がしますが」


 こんないれ方では、お茶が渋くなってしまいます。


「いいのよ、お茶の出来上がりは見た目が大事なのよ」


 いいのでしょうか? 私は納得できませんが、まずは、ここでの仕事を覚えるのが先です。



 お茶のワゴンを私が押し、先輩が扉を開け、第二王子の私室に入ります。


「午後のお茶をお持ちいたしました」


 先輩が、冷たいままのカップに、お茶をそそぎます。

 茶色く、渋く、ぬるいお茶が出来上がりました。


 それは、罰ゲームです。もう、楽しむお茶ではありません。


 第二王子は、そんなお茶をグビグビと、機械的に飲み干します。


 なるほど、お茶の時間は、楽しむためではなく、メイドに仕事を与えるための作業だったのですね。


 これは、経済を回すためなんだと、第二王子のぶっきらぼうな態度から、読み取れます。



 先輩が、カップを下げる際、第二王子へ微笑みました。


 第二王子も、先輩へ少し微笑みます。なんだ、この関係は?


 見なかったフリをして、先輩と王子の私室を出ます。


「どう? 簡単な仕事でしょ。これでお給料が良いのだから、最高だわ」


 先輩の言う事には、一理ありますが、なにかが違うと思います。


 もしかして、愛情が足りない?


    ◇


「先輩、なぜ第二王子様へ微笑んだのですか?」


 王宮の廊下を歩きながら、おしゃべりをします。小声ならば、マナー違反だとは言われません。


「それは、第二王子様の気を引くためよ。」


 気を引くのなら、美味しいお茶をいれた方が、私は良いと思います。


「私は爵位が低いので、正妃になれないから、側妃を狙うのよ」


 私とは、方向性が微妙に異なるようです。


「貴女も、第二王子様の気を引くようにしたほうが良いわよ」



「それから、護衛兵の中にも掘り出し物があるから」


 すれ違った護衛兵に、先輩はニコッと微笑みかけました。


 護衛兵は、姿勢をそのままに、視線だけを動かし、先輩を追っています。


「今のは、子爵家の末っ子。私の滑り止めよ」



 あれ? 護衛兵が、私に気が付き、おびえたように、ビシッと敬礼しました。


 このコンパクトな敬礼は、冒険者のやり方です。

 この護衛兵は、どこかで見たような顔です。


「お久しぶりです、軍曹殿」


 え! この護衛兵は、冒険者学校へ研修にきて、私の指導を受けた一人でした。


 うわ、王宮の護衛兵は、腰抜けだったので、私が直接指導して、根性をたたき直しました。今思うと、若気の至りでした、なんだか恥ずかしいです。



「第二王子様は隣国へ婿として行く予定だったから、人気がなかったのだけど、先日の事件のおかげで競争率が高くなったのよ」


 私の前を歩く先輩メイドが、教えてくれました。


「貴女は、ウブだから、特別に攻略方法を教えてあげるわ」


 先輩の心遣いはありがたいのですが、これは、喜んだ方が良いのでしょうか?


    ◇


「王弟殿下は、令嬢から微笑みかけられたら、うれしいですか?」


 仕事帰りに、王弟殿下の私室に寄って、お茶を、愛情を込めて、いれています。


「そりゃあ、うれしいが、俺に微笑みかける令嬢などいないだろ。知らないフリをする令嬢だけだ」


 街では、色っぽい女性から声をかけられましたけどね。私は、まだ少し根に持っています。



「女好きとのウワサが広まっているから、下手に微笑みかけて勘違いされたら危険だと、令嬢たちから思われているからですよ」


「裏で、“好色殿下”と言われてるの、知ってますか?」


 彼は、イケメンで、ユーモアもあり、王族でもあり、本来なら超優良物件です。


 なのに、聖女との結婚が義務付けられていて、結婚の将来性がありません。


 さらに、女好きとのウワサがあり、実際に全ての令嬢にアプローチなんかするから、令嬢から避けられています。


 あ~、なんだか、私から愚痴があふれ出ます。



「微笑みかけてきた令嬢のオーラが美しければ、特別扱いで、暖かく接するつもりだがな」


「全ての令嬢に、分け隔てなく、声をかけているでしょ!」


 彼が、特別扱いして温かく接している令嬢なんて、いたかしら?


 あれ? 私には温かく接してくれています……


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