第39話(閑話休題)ダブルデート


「こいつはダチの金ちゃんだ、よろしくな」


 町人姿の王弟殿下が、街のオジサンに、第一王子を紹介しています。


「よろしくな、おっちゃん」


 同じく町人姿の第一王子が、調子に乗って挨拶しています。


 ここは、王都の路上で、街の視察という名で、伯爵家令嬢とのデート中です。



 護衛兵は近くにいませんが、遠くで、騎馬隊長が私たちを心配そうに見ています。


「今、この姉妹に街を案内しているんだ」


 王弟殿下が、私と伯爵家令嬢を、旅の姉妹だと紹介しました。


 旅行用のマントを羽織った私たちは、街のオジサンへ、軽く会釈をします。


「ベッピンさんだな、黒さん。手を出したらダメだよ」


 街のオジサンから美人だと褒められ、うれしいのですが……今、黒さんって言いましたよね?


 もしかして、王弟殿下が、遊び人の黒さんですか?


「わかっているよ、おっちゃん、また後で遊ぼうぜ」


 王弟殿下と第一王子は、私たちが美人だと言われて、うれし恥ずかしそうでした。



「あら、黒さん。最近、お店に来ないじゃない、今夜どぉ?」


 色っぽい女性が、王弟殿下に声をかけてきました。


「よぉ、久しぶり。最近、忙しくてな」

 王弟殿下が、少し焦りながら答えました。


「遊び人が、忙しいわけないでしょ。お金が貯まったら、お店に来てね」


「あら、デート中? 可愛らしい姉妹ね」


 色っぽい女性は、私たちに気を使っているようです。



「フラン姉さま、王弟殿下が色っぽい女性と親しそうですけど、大丈夫ですか?」


 伯爵家令嬢が、私を心配して声をかけてきます。


「大丈夫よ、少し、あきれていますけど」

 怒りを抑えながら答えます。


「横のお兄さん、イケメンね、お店に来てよ」


「金ちゃんと呼んで下さい、どちらのお店ですか?」

 第一王子が不用意に返しました。


「お、お店は、酒を飲めるようになったら、俺が連れて行くから。ま、また後でな」


 王弟殿下が、慌てて、色っぽい女性と別れました。



「今の色っぽい女性は、風俗店の女性なのでしょうか?」


 中等部の伯爵家令嬢が、思いがけない言葉を口にしたので、私は硬直しました。


 王弟殿下、第一王子も、硬直して、私を見ます。

 え? 私が答えるのですか? 無理ですって。



「四月の初めに、中等部で、令嬢だけが集められ、側妃の役割についての授業がありました」


 伯爵家令嬢の話に、第一王子が、ゴクッと唾を飲み込みました。


「大事な役割を担っていることを理解しました。先日も言いましたが、私は、側妃を認めたいと思っています」


 第一王子が、ホッとした顔になっています。



「フラン姉さまは、側妃を認められますか?」


 伯爵家令嬢の突然のフリに、王弟殿下が、ゴクッと唾を飲み込みました。


 もしかして、冷や汗をかいていませんか?


「私は、側妃を認めません」

 はっきりと言います。


 王弟殿下は、なぜか、ガッカリしています。


「だって、私は、王妃ではなく、勇者になるからです!」


 私の夢は、恐怖の大魔王を倒し、勇者の称号を得ることです。



「こ、この先に、美味しいスイーツの店があるんだ、行ってみないか」


 王弟殿下は、スイーツの店まで知っていました。


「そうですね、私、行ってみたいです」


 伯爵家令嬢の笑顔は、眼福です。

 第一王子も、硬直していた顔が緩んでいます。


    ◇


 スイーツのお店には、女性が喜びそうな、見栄えの良いスイーツが、たくさん並んでいました。なんだか、ワクワクしてきます。


 これで、さっきの女性の事は、帳消しにしてあげますよ、王弟殿下。



「ご主人、お土産のスイーツをたくさん包んで下さい」


「わかりました。いつものお店に届けるのですね」

 ご主人が、何気なく、口に出しました。


 え? いつものお店? まさか……


「いえ、外の騎馬隊長に届けて下さい」

 私は、直ぐに否定しました。



「お代は、遊び人の黒さんに請求して下さいね」


 私は、息抜きをしていたことではなく、秘密にしていたことを、怒っているのです。たぶん……


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