第34話 第一王子の遠乗り
「フラン、遠乗りに行くぞ、付いてこい」
王宮から学園に向かおうとしたとたん、第一王子の気まぐれが始まりました。引きこもりから、やっと学園に顔を出してくれると思った矢先です。
第一王子は、学園の制服のまま、馬に飛び乗りました。
私も続いて、学園の制服のまま、馬に飛び乗ります。
「おい、どこへ行く!」
王弟殿下が、慌てています。
「鳥を使って連絡します」
私が伝えます。鳥とは、王弟殿下に手紙を飛ばす、連絡用の魔法の鳥です。
「週末は、辺境伯の令嬢とのお見合いだぞ、どうするんだ~!」
王弟殿下の叫び声が、あっという間に後ろへ遠ざかります。
王都を抜け、街道をひた走ります。
荷物は、馬に常備している少量だけなので、この遠乗りは日帰りだと思います。
王族用の馬は、素晴らしいです。疲れ知らずで走り続けます。
天気が良く、爽快な風を受けて走ります。
この気持ちの良い風が、第一王子の気分転換になって、王宮での引きこもりから、抜け出せればいいのですが。
ランチの時間になったので、どこかの街の、小さな食堂に入りました。
「やっと休憩ですか。オメェは、どこまで走るつもりなのですか?」
王子の呼び名を、正体がバレないように、冒険者学校時代の口調にします。
「僕は、新しい世界に向かって走る」
ガキか? 高等部三年生なのですから、もっと地に足をつけて行動して下さい。
「僕は、彼女がいる令息がうらやましい」
「オメェにも、婚約者候補が二人もいたじゃありませんか」
「隣国の王女と、フランか……もう、婚約者候補では、なくなったがな」
婚約者候補三名から将来の王妃を選ぶ習わしであり、先に二人を選んでいました。しかし、どちらも事情があって、今は二人とも婚約者候補から外れています。
まぁ、一人は私なわけですが。
そのため、王弟殿下がやっと探してきた令嬢とのお見合いが、今週末に予定されています。
「僕は、イチャイチャ、もとい、燃えるような恋がしたいのだ」
これは、どこかで、イチャイチャしているカップルを見たのですね。
高等部三年生では、王弟殿下のように遊び歩くことは、出来ませんからね。
いや、王弟殿下も遊び歩くことは厳禁なはずですが、聖女が現れないから、特別に許されているのでしょうか?
小さな食堂でのランチには、毒見役がいないため、大丈夫なのか、少し心配になりました。
鑑定で調べ、他のお客さんも食べていることから、大丈夫だと思いますが、私一人だと、出来ることが限られるので、護衛が大変です。
騎馬隊が、追いかけてきているとは思いますが、もう追い付いているのでしょうか?
ランチを終えて、支払いの時、王子が無一文なのに気が付きました。
仕方ないので、私が立て替えるトラブルがありましたが、無事に食堂を出ると、今度は、街道で男女がもめています。今日は、なんて日なのでしょ!
「お嬢様、お待ちくださいませ」
「止めないで、メイド長。私は、お見合いなどしません」
これは、どこかのお嬢様と古株使用人のようですね。
聞こえてきた話の内容から、政略結婚のもめ事のようです。これには、関わらないようにしましょう。
「どうした? そこの二人」
第一王子が、止める間もなく、首を突っ込みました。
「オメェ、何やっているんですか!」
思わず、王子に、裏拳で突っ込んでしまいました。
「その服は、王都の学園の制服ですね。実は……」
道にうずくまる王子を横目に、私に説明してくれたメイド長と呼ばれた古株使用人は、金髪で、なかなかの美魔女です。
王弟殿下より少し若いくらいですが、なぜか、大昔に会ったような不思議な……この感じ、王弟殿下と出会った時と同じです。
「美しいご令嬢、僕に話を聞かせてくれませんか」
第一王子が、私の裏拳から立ち直りました。
この回復力は賞賛に値します。
王子は、メイド長の話を、全く聞く気が無いようで、令嬢を見つめたままです。
令嬢は、見たところ、中等部くらいの幼い感じが残っていますが、なかなか可愛い顔立ちです。
旅行用の軽装に……これは辺境の学園の制服かな? 動きやすそうな服に身を包んでいます。
「私は、辺境伯の一人娘です」
あらら、辺境伯と言えば、王都を隣国などから護る拠点を領地とする伯爵であり、他の伯爵よりも一段高い爵位です。
「僕は、遊び人の金ちゃんだ」
第一王子は金髪なので、金ちゃんですか?
身分を隠すのは立派ですが、もう少しセンスの良い名前に出来ないのでしょうか?
「旅をしながら、困っている人を助けるのが仕事だ」
遊び人は、そんな仕事ではないと思いますが……これから、どうなるんでしょう?
街の角に、一瞬、騎馬隊長が見えました。というか、ワザと私に見えるようにしてくれています。ホッと、安心しました。
『拝啓 王弟殿下様。遊び人の金ちゃんは、辺境でトラブルに首を突っ込んでいます。今日中には帰れなさそうなので、ちゃんと食事をして、お風呂に入ってから、早めにご就寝ください。敬具 フランより』
連絡用の魔法の鳥を飛ばします。
あれ? 遊び人の金ちゃんという名前、どこかで聞いたことがあるような。
たしか、王都に、遊び人の黒さんと呼ばれる方がいると聞いていますが、誰なのでしょう? まさか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます