第35話 辺境伯令嬢の悩み


「実は私、女好きとウワサされている第一王子様から、結婚を迫られ、困っています」


 見知らぬ街の路上で、第一王子と一緒に、辺境伯の令嬢から話を聞きましたが、これは、困りました。


 女好きの第一王子……たぶん、女好きの王弟殿下のウワサが、ねじれて広がったのだと思いますが、金ちゃん、どうします?


 令嬢は結婚を迫られたのですか……強制されたようですね。王弟殿下、どうやってお見合いの話を探したのですか?



「そうであったか、それは大変であっただろう。僕が解決してみせる」


 第一王子が自信たっぷりに言います。


 そうですよね、解決できるのは、第一王子である、オメェだけです、金ちゃん。


「旅のお方、ありがとうございます」


 辺境伯令嬢は、純真なようで、こんな金ちゃんを、素直に信じてしまいました。


 甘やかされて育ってきたのか、第一王子のイケメンパワーが半端ないのか、私には分かりません。



「お嬢様、屋敷へ帰りましょう」


 メイド長は、辺境伯令嬢を屋敷に連れ戻すことを優先しています。


 でも、私たちのことは信用していないようです。

 このメイド長は、鋭い視線、足さばきから、歴戦練磨の相当な手練れです。



「フラン、ここで出会ったが100年目、尋常に勝負しろ!」


 路上で、突然、呼び止められました。


「なぜ貴女が?」


 私の後ろには、冒険者学校の同級生で、冒険者“武闘家”の令嬢が仁王立ちしていました。


 学校時代に手合わせして、私が勝ったことを、まだ根に持っているようです。


「すみません、私の遠い親戚の令嬢です。冒険者になったとの話を聞いて、お嬢様を取り押さえるのに協力してもらっています」


 冒険者“武闘家”が、私の後ろを取ったことは褒めてあげましょう。


 でも、勝負はこれからです。売られたケンカは買います。私はファイティングポーズを取ります。


「やるか、フラン」


 冒険者“武闘家”もファイティングポーズを取りました。久しぶりに、熱くなれる勝負ができそうです。


「おやめ!」

 メイド長が、私たちを一喝しました。


「「はい」」


 私と冒険者“武闘家”は、ビクッとし、体が勝手に直立不動となりました。恐ろしいメイド長です。


「ここは目立ちます。とりあえず、皆さん、屋敷に来てください」


 メイド長は、仕方なく、私たち二人を屋敷に招待しました。


    ◇


「あの男の所へ逃げたのか! 我が辺境伯家のためにも、お前のためにも、第一王子様との婚姻は、とても良い話なのだ、分からないのか!」


 屋敷で、辺境伯が娘に説教を始めました。


「第一王子様が、王都から、我が辺境伯家へ向かったとの情報も入っている、今が大事な時期なのだ、分かってくれ」


 今度は、泣き落としですか。


 娘のことを、もっと考えてあげても良いような気がしますが、全体の状況が分からないので、今は政略結婚については黙っておきます。



「辺境伯様は、第一王子様の顔をご存じなのでしょうか?」


 大事な所なので、ここは確認しておきます。


「実は、会ったことは無い。兄が辺境伯を継いでいたのだが、この子一人を残して、夫婦で事故に遭って他界した」


「そのため、急きょ、弟である私が、辺境伯を継いだばかりなのだ」


 なるほど、辺境伯は第一王子の顔がわからないのですね。これは、好都合です。



「私が、その女好きな第一王子様とやらを、ぶん殴ってやる」


 冒険者“武闘家”が、拳を見せました。


「それは、僕の役目だ」


 金ちゃんこと、第一王子が、拳を見せました。もう、私には落しどころが見えません。



『拝啓 王弟殿下様。遊び人の金ちゃんは、辺境拍様の屋敷に泊まります。辺境伯令嬢様には、好きな男性がいるので、お見合いは中止になる可能性が高いです。敬具 フランより』


 連絡用の魔法の鳥を飛ばします。


    ◇


「メイド長、温かいお弁当を、いくつか作っていただきたいのですが」


 恥を忍んで、メイド長にお願いします。


「屋敷の周囲にいる怪しい人たちへの差し入れですか。あなたたちは、いったい何者なのですか?」


「すみません、事情がありまして、言えないのです」


「辺境には、言えない事情で流れてくる人が、多いですからね」



「メイド長は、その~、独身なのですか?」


「私は、事情があって、独身です。お二人は、そういう問題でしたか、駆け落ちでしたか、あの金ちゃんは、イケメンですものね」


「いえ、違います。金ちゃんは、その、婚約を破棄され、傷心旅行なんです。私は、ただの使用人で、王都に、別に好きな男性がいますから」


「へ~、まぁいいわ、貴女は信用できるって、親戚の令嬢が太鼓判を押していました。よほど信頼されているのですね」


「それに、貴女といると、氷が解けるような不思議な気持ちになりますから、私も、信用していますよ」



 メイド長の信頼を得たようです。けど……


「でも、婚約破棄って、つらいのよね」


 メイド長がつぶやきました。あ、これは、触れてはいけない過去に、触れてしまったようです。


    ◇


「騎馬隊長、少ないですが、夜食をお持ちいたしました」


 メイド長から受け取ったお弁当を、外で護衛してくれている騎士団長へ届けます。


「ありがとうございます、フラン様」


 いえいえ、こちらの方こそ、お礼を言いたいです。


「王弟殿下の命令ですね」


「はい、フラン様をお守りするよう命令を受けました」


 私の護衛?


「え? 第一王子様の護衛じゃないのですか?」


「え? 第一王子様もいらっしゃるのですか?」


 王弟殿下、優先順位はどうなっているのですか? 私のことを心配してくれて、うれしいですけど……


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