第33話(閑話休題)冒険者“踊り子”ユニット


「フラン、こちらのお二人は?」


 王弟殿下の前に、美人二人が座っています。

 日曜日、離宮から王宮へ引っ越しを終えた時です。


 同級生だった冒険者“踊り子”が、王弟殿下へのつながりを求めて、私を訪ねてきました。



 応接室で、王弟殿下と一緒に、冒険者“踊り子”の美人二人から、話を聞きます。


「彼は、同級生の冒険者“踊り子”です」


「彼? 男性なのか? そうか」


 なぜ、残念そうな顔をするのですか。以前も、話をしましたよね。


「彼女は、同級生の冒険者“踊り子”です。隣国の侯爵家に雇われていたのは、彼女です」


「え!」



 王弟殿下が驚くのも無理ありません。

 第三王子の事件で、裏で糸を引いていたと考えられ、密かに探していた黒幕が目の前にいるのですから。


「俺は今、魅了にかかっているのか?」


 王弟殿下が、珍しく焦っています。


「私たちとは別の魅了にかかっているかも」


 美人二人が、意味深に笑いました。


 冒険者“踊り子”の話では、冒険者学校が閉校された後、隣国からスカウトされ、魅了の技を教える仕事をしていたそうです。


 異世界の魔法を発動する準備が進められていた事に気が付き、ヤバいと思っていたところに、第三王子が駆け落ちしてきたそうです。


 王子に魅了の技が使われていることに気が付き、これはヤバいと、密かに隣国から逃げ戻ったそうです。


 鑑定の技を使って、彼女の心拍数、発汗の変化、顔の表情を見ていましたが、ウソを付いていない事を確認しました。


「ウソはないようだな。話を聞こう」



 王弟殿下も、美人二人を信用することにしたようです。でも、普段から、美人にならだまされても良いと言っている、困った彼です。


「私たち、ユニットを組みました」


 冒険者“踊り子”の美人二人で、これからは、歌を仕事にするようです。


「二人で、スーパースターを目指すのね」


 スーパースターは、踊り子なら誰しもが目指す、憧れの称号です。私が目指した勇者と、肩を並べる称号です。



「それで、王宮で初ライブを開催したいので、全体放送のカギを教えて欲しいの」


 二人から、今日の本題となる要望がありました。


 王宮の全体放送は、王宮の廊下や、中庭にいる人々に、王族のメッセージや緊急事態を、声で伝える装置です。


 放送装置である魔道具を動かすためには、魔法のカギが必要になります。


 そして、そのカギを有していれば、王族から全体放送を使う事が許された人だと、証明されます。


「交換条件がある」


「侯爵家令嬢が魅了を使っているようだ。解除する方法を教えてくれ」


「相手がどんな魅了の術を使っているのかが判らないから、解除は個別に行う必要があります。ですので、私たちにしかできないです。でも、魅了にかからない魔道具なら、作ることができます」


 美人二人が、私たちを見て、なぜかニヤニヤしています。


    ◇


「この指輪を、薬指に着けていればいいのか?」


 王弟殿下が、冒険者“踊り子”から、今朝、私室に届いた指輪を、まじまじと見ています。


 朝のお茶を、二人で楽しんでいる時です。



「左手だそうですよ」


 左手じゃないと効果が発揮しないと、冒険者“踊り子”の美人二人から聞きました。


「これ、魔道具だよな?」


 宝石類は付いておらず、見た目は、結婚指輪です。


「ですね。王弟殿下用と私用に、美人二人が作ってくれました」


 試しに鑑定してみると、加護“呪いよけ”が見えました。


 これなら魅了よけになると思います。


 ただ、一緒に“結婚の誓い”という、聞いたことのない加護が付いていましたが、彼には伝えていません。


 これ、やはり結婚指輪です。



「冒険者は、魔道具を作れるのか?」


「適正が合えばですけど、私はポーション作成の適性がありますよ」


 身体強化ポーションくらいなら、学園の研究室でも調合できます。


「もしかして、ほれ薬は作れるか?」


 あ、これは、悪いことに使おうとしていますね。


「あの二人の力を借りれば、つくれますが」


「作りましょうか?」


 作る気はありませんが、彼にゆさぶりをかけて、表情の変化を観察します。



「いや、自分の力で、なんとかする……」


 あれ? 予想と違います。


 みだらな考えを誤魔化す顔になると思っていましたが、顔を赤面しただけです……


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