第30話 ダンスパーティー当日


 今日は、学園でダンスパーティーが開催され、順調に進行しています。


 オープニングのジルバを、来賓者の前で華やかに演出でき、ダンス教師は自分の評価が上がったと、胸をなでおろしています。


 今はフリータイムです。皆さんは自由に踊っていますが、私は壁のシミです。


 私から輪に入ることはしませんが、ときどき、話しかけられ、王弟殿下から頂いた、青緑色のドレスが素晴らしいと褒められました。


 うれしいのですが、恥ずかしくもあります。


 所どころ、新しいカップルが生まれたようで、壁際でも談笑が続いています。


 私には、少し居心地が悪いです。あ~、やはり、欠席すれば良かった!


 伯爵家令嬢からお願いされたので、仕方なく、エスコートもなく、パーティーへ参加しました。


「私には、愛と勇気だけが、友達なのです」

 でも、寂しいです。


 あれ? 第一王子が、楽団へ何か曲をリクエストしています。


「第一王子様のリクエストにより、ワルツを演奏します。フリータイムですので、パートナーを誘って、自由に踊って下さい」


 司会者が興奮して宣言しました。


 第一王子が伯爵家令嬢を誘いました。これは、大成功です。


 今日から、私のことを、愛のキューピットと呼んでください。



 第一王子のペアは、体をしっかり縦に伸ばし、後ろに反りすぎず、腕の水平を保ち、ホールドが維持されています。


「学生のワルツとしては、満点ですね」


 息が合った二人のダンスが、うらやましいです。


「フラン、俺と踊ってくれないか」


 突然、王弟殿下が現れました。



 黒いタキシードに青緑色の刺しゅうでキメた彼の姿が、なぜか、今だけ、白馬に乗った王子に見えます。


 これが、つり橋効果という技なのですね。冒険者“踊り子”から教わりました。


「はい」


 曲の途中から、彼のリードで、ワルツを踊ります。



 男性からリードされるって、こんなに気持ちが楽になるものなのですね。武闘家との手合わせとは、雲泥の差です。


 手袋越しに、彼の温もりが伝わってきます。至福の時です。


 ワルツって、ホールドを決めると、体が近くなって、彼に私の体が付きそうです。


「もっと肩の力を抜いてもいいぞ、俺がフランを支えるから」


 知識としては理解しているのですが、実際に体を動かすとなると、なかなか上手くいきません。



「俺に体をあずけろ」


 えーい、どうにでもなれ! 彼に私の体をあずけ、脱力します。


 あれ? 体が自然に動きます。演奏が聞こえます。もしかして、王弟殿下と私って、ペアとして相性が抜群に良いのでは。


 長目の演奏でしたが、あっという間に終わってしまいました。



「フラン、庭を歩こうか」


 体が火照り、ホール内も暑く感じてきたので、外の庭へ出て、二人で涼むことにしました。


    ◇


 テラスから、学園の庭に出ます。私は、ここを歩くのは初めてです。ガゼボはもちろん、ベンチもありませんね。


 庭なら、人がいないと思っていたら、意外と多くのカップルがいました。外なのに、熱いです。


「あれは、騎士団長ジュニアじゃないか?」


 子爵家令嬢が寄り添っています。良い感じで、出来上がっています。


「少し離れましょうか」

 彼にお願いして、二人から離れます。



「あれは、第二王子様ではありませんか?」

 あの侯爵家令嬢が寄り添っています。


「まずいな、少し離れよう」


 彼が言うので、二人から離れました。あの二人が付き合っているなんて、新情報です。


「スキャンダルになる前に、何か手を打たないとな」

 彼の顔が、王弟殿下に戻っています。これでは、今日のデートはこれで終わりですね。



「隣国の王女は、ダンスパーティーを欠席か」

「はい、そうです。隣国との関係は、そんなに悪いのですか?」


「隣国の王女は、第三王女だが、彼女が関係改善のカギになる気がする。どう動いてくるのかだ」


 なんだか、話が、デートの雰囲気から外れてきました。



「王弟殿下、どうしてダンスパーティーに来てくれたのですか?」


「来賓として、出席するよう招待状が来ていたろ」


 そういえば、言っていましたね。

 でも、いつもなら出席しないのに。


 やはり、私のことを心配してくれたのですね。


「最初、隠れていたでしょ」


「ジルバのように、明るく楽しく踊るのは、俺は苦手だ」


 もしかして、年? でも、年齢の高い方々も、楽しそうに踊っていましたよね。


「あんなに楽しく練習したのに」



 離宮で、ここ数日、二人でジルバを練習しました。練習ですが、楽しい時間でした。


 私となら、明るく楽しく踊れた彼です。


 もしかして、ジルバだと、彼のイメージが崩れるからでしょうか?


 ユーモアのある彼ですが、はしゃぐタイプではありません。


「キレイだ……」


 彼が、私を見つめて言いました。



「皆さんからも、このドレスを奇麗だと褒められました。プレゼントして頂き、ありがとうございました」


「そ、そうか?」


 彼は、私の着ている青緑色のドレスを、眺めてくれました。


「王弟殿下の青緑色の刺しゅうもステキです。私のドレスに合わせてくれたのですか?」


 彼のイケメン顔が、少し赤くなっています。



「ゆっくり話せる場所は無いようですので、今日は、これで終わって、離宮に帰りましょうか」


「そ、そうだな」


 今日、午後からは快晴になりそうです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る