第29話 伯爵家令嬢と組ませてみる


 今日も、ダンスパーティーの練習会をホールで行っています。


 第一王子のパートナー選びは、難航していますが、令嬢たちは、授業ではありますが、第一王子と踊れてうれしそうです。



 騎士団長ジュニアと子爵家令嬢は、仲直りしたようで、息の合ったジルバを、楽しそうに踊っています。


「素敵だなぁ」


 もともと素質のある二人ですから、協調すれば素晴らしいダンスをしてくれると思っていましたが、予想以上の踊りを見せてくれています。


 私は内心、ホッとしています。


「いいなぁ」


 ダンスのパートナーは、見た目のバランス、身長や体形のバランスも大事ですが、お互いが相手を理解して信頼することも大事なのですね。



 冒険者学校でもダンスの授業はありましたので、組み方やステップなどの基本は覚えています。


 でも、実際に男性と踊った経験が無いので、私の動きは、相手のリードと、かみ合っていないと、ダンス教師から言われています。


「私をリードできる男性……どこかにいないかなぁ」


 ある男性の姿が浮かんできましたが、私のパートナーとするには、無理な相手です……


 第一王子のダンスパートナーが来るまで、少し時間があるので、ボーっと考えてしまいましたが、そろそろ時間です。



「第一王子様のパートナーとして、他の学年にお似合いの逸材がおりました」


 お願いしていた令嬢が来る時間なので、ダンス教師に報告します。


「でもね、高等部二年生は、人数が少なく、王族とのつながりをあきらめた令嬢、令息たちで、既に婚約者がいるのよ。今から第一王子様のパートナーになってもらうのは、無理ですよ」


 二年生でフリーなのは、隣国の王女だけです。


 王像とのつながりを欲しがる貴族は、年齢を偽って、第一王子が在籍する三年生、または第二王子が在籍する一年生として入学し、同級生となっています。



「そして、一年生は、第二王子様の縄張りだと……遠慮して、だれもパートナーとして手を上げないので、やはり無理なのよ」


 つまり、一年生の令嬢は、全て第二王子の物だと? セクハラな学年ですね。



「その令嬢は中等部です」

 私は、意外な答えを返します。


 中等部は、第三王子がいない今、自由な恋愛が可能となっており、学園のパラダイスなのです。


「中等部? 向こうの教師たちから反対されなかった?」


「ある方から、根回しして頂いたので、問題はありません」


 私のダンスパートナーとしては無理でも、その爵位の力は大きいので、こんな時に利用しなくては、私がタダ働きしている意味がありません。



「フラン姉さま」

 中等部の伯爵家令嬢が、時間どおりに来てくれました。


 ダンス用の衣装に着替えています。どんな衣装でも可愛く着こなす令嬢です。


「見て、あれ、第三王子様の婚約者候補だった伯爵家令嬢よ」


 三年生の令嬢たちが、ザワめきだしました。まぁ、想定の範囲内です。


 なにせ、令嬢の恋愛に関するウワサが広がる速さは、異常ですから。



 問題は第一王子の反応です。


「カレンだ」

 王子が、つぶやきました。


 よし、第一印象は良いですね。

 第一王子は、受け身のところがあるので、少し心配していましたが、新たな一面が目覚めたようです。


「早速、ダンスを見せて頂きましょう、よろしいですね先生」


 二人でペアを組んでもらい、ジルバを踊ってもらいます。


 身長差があるおかげで、第一王子の優しいリードで、可愛く踊る令嬢です。


 心配していた第一王子のターンが、奇麗に決まりました。そうか、令嬢の手足が長いんだ。


 周囲で見ていた令嬢、令息までも見ほれて、ホールが無言になり、演奏だけが聞こえてきます。



「これは、素晴らしい」

 ダンス教師まで感嘆しています。


「予想以上ですね」

 私もパートナーさえ見つかれば……二人が少しうらやましいです。


    ◇


 離宮に戻ると、王弟殿下は、庭で、いつもの白いテーブルとイスで、雑誌を読んでいました。


 でも、雑誌の内側に、ダンスの教本があるのを、私は見逃しません。



「第一王子様のダンスパートナーが、伯爵家令嬢様に決まりました。ありがとうございました」


 中等部へ根回しして下さったことに、お礼を言います。


「ダンスの課題はジルバか。スロー・スロー・クイック・クイックだったかな」


 彼は、話題を逸らし、私のお礼に照れ隠しをしました。可愛いです。



「王弟殿下、練習しましょうか」


 私から、ダンスに誘います。シブシブと、立ち上がる彼も、可愛いです。


 彼は、スタイルも良く、身長が高いので、私と、奇麗に組めます。


「ジルバは久しぶりだが、体が覚えているもんだな」


 彼は、踊るほどに上手になっていきます。これは、昔、ずいぶんと踊っていたのですね。



「私も、パートナーがいない気持ち……わかりました」


 一人で生きてきましたけど、こんな時には、人恋しくなります。


「急に高等部三年生に放り込んで、すまなかった」


「責任を取って下さいね」


 私としては、勇気を出して、言ってみたのですが……



「わかっている。ダンスパーティー用のドレスが、そろそろ届く。プレゼントするから、着てみてくれ」


 え? はぐらかされた?


 でも、ドレスを贈るのは婚約者だけ……


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