第28話 子爵家令嬢と組ませてみる



「フランのダンスパートナーは、騎士団長ジュニアにしましょう」


 今日も、ダンスパーティーの練習会を学園ホールで行っています。教師が、私にパートナーを割り当てました。



「私のダンスパートナーは、騎士団長ジュニアですか」


 ジュニアの父親は、騎士団長です。令息は、その地盤を継いで、いずれは騎士団長になることでしょう。


 ウワサをすれば影と言いますが、騎士団長ジュニアが、私に近寄って来ました。


「フラン、ダンスパートナーになってやる。僕に恥をかかせるな」


「第一王子様に取り入っているようだが、僕はだまされないぞ」


「取り入る?」


 騎士団長ジュニアが、私にきつく当たるのは、それが原因でしたか。



「知っているんだ。第一王子様と、週に何度もディナーを一緒にしているだろ。王族用の宿舎で、一緒に住んでいるだろ。他の王族にも色目を使っているだろ。さらに伯爵家令嬢とも楽しいことをしただろ!」


 話のほとんどは、悪意あるウワサ話ですが、ディナーは本当ですね。


 というか、もしかして嫉妬しているの? なんで?

 王子のことが好きなの? 私のことが好きなの? 私には分かりません。


 そういえば、騎士団長ジュニアには好きな令嬢がいるって、クラスでウワサになっていましたね。



 周囲を見回すと、パートナーが割り当てられなかった令嬢、令息たちが壁際にたまっています。


「目立たない子爵家令嬢は、パートナー無しですか」


 学園のホールはかなり広いですが、全ての生徒が一斉に踊るには少し窮屈です。


 ダンス教師は、爵位の高い令息、令嬢のパートナーを決め、来賓者の前でオープニングを華やかに演出できれば、それだけで自分の評価が上がるので、目をかけている生徒以外には、気を配りません。



「私は、ダンスパーティーを欠席する予定なのです」

 騎士団長ジュニアに言います。


「なに? 僕ではなく、第一王子様のパートナーになるつもりか?」


「いえ、今、欠席だと言いましたよね?」


「騎士団長ジュニア様は、そこの子爵家令嬢をエスコートしてください」


「彼女は、たぶん……第一王子様のパートナーになる」


 ジュニアは寂しそうです。これは、確定ですね。



 私は教師に言って、騎士団長ジュニアのパートナーを変えてもらいます。


「第一王子様のパートナーにふさわしい令嬢を、私が連れてきますので、騎士団長ジュニアと、あの令嬢を組ませてください」


「あの子爵家令嬢以上のパートナーは、ここにはいませんよ?」


「私に、第一王子様のダンスパートナーに心当たりがありますので、これから根回しをします。ですので、パートナー変更をお願いします」


「わかりました、パートナーを変更しましょう」



 騎士団長ジュニアが、ぎこちない足取りで子爵家令嬢の所へ行き、エスコートを申し込みました。


 私の時より、レディ扱いをしているのが、少しシャクです。


 あれ? 子爵家令嬢は喜ぶと思っていましたが、なぜか戸惑っています。



 ジルバを踊り始めました。


「なぜ、あの時、騎士団長ジュニア様は、第一王子様とキスをしたのですか?」


 踊りながら、子爵家令嬢が、騎士団長ジュニアにたずねました。


 え? なんですか、この会話は?



「見ていたのか!」


 騎士団長ジュニアのステップが、乱れました。


 あの時って? まさか、私が、第一王子に、抱きしめる練習なら騎士団長ジュニアとしなさいと言った、あの日の事でしょうか?


 あれは、冗談だったのです。それに、私は、キスしろとは言っていません、第一王子の責任です。勘弁して下さい。


「騎士団長ジュニア様は、第一王子様を愛しているのでしょ?」


 え? 騎士団長ジュニアと第一王子は、愛し合っていたのですか! 新情報です。この痴話げんか、私に責任はありませんから!



「あれは、違うんだ、大人になりたかっただけなんだ」


 そうか、キスの味を知りたかったようです、ガキですね。


「あれは遊びだったのですか?」

 子爵家令嬢が問い詰めます。


「すまなかった、第一王子様とは遊びなんだ。これからは、相手が男性であっても、浮気はしません。誓います。本当です。僕は貴女だけを愛します」



 令嬢がダンスで男性を回すという、壮絶なジルバが繰り広げられています。


「フランさん……どういうことですか?」


 ダンス教師が、私に、ジト目を向けました。


 ごめんなさい、知らなかったのです……


    ◇


 離宮に戻ると、王弟殿下は、庭で、いつもの白いテーブルとイスで、雑誌を読んでいました。


「王弟殿下は、学園のダンスパーティーにいらっしゃるのですか?」


「一応、来賓として招待状は来ている」


 彼は、雑誌から目を離さず答えてきます。ダンスパーティーには、興味が無さそうです。



 私は、茶葉が蒸れるまでの時間で、少し考えます。


「もしも、私が誰からも誘われなくて、壁の華になっていたら、私をダンスに誘ってくれますか?」


 深刻そうな声で、彼にたずねてみました。


「フランのファーストダンスの相手になれるなら」


 彼は、雑誌から目を放し、私を見てくれました。


 ファーストダンスの相手は、エスコートしてくれた令息、または婚約者とするのが、マナーです。



「私が、他の令息と踊っても良いのですか?」


「パーティーに参加しよう」


 素直じゃないんだから……


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