第27話 第一王子のダンスパートナー選び
「第一王子様のダンスパートナーである隣国の王女様が欠席されるので、今日は新しいパートナーを選びます」
ダンス教師が言うと、令嬢たちがザワつき、令息たちは落胆しました。
学園で開催されるダンスパーティーの一週間前、パートナーの確認と練習会を学園のホールで行っています。
ダンス教師は手にしたノートに視線を落とし、第一王子のパートナーを選んでいます。
「まずは、ダンスの上手な伯爵家令嬢と組んで、相性を試してみましょう」
名前を呼ばれた赤毛の伯爵家令嬢が中央に歩み出ました。
背筋をピンと、胸を張って、指先まで伸ばして、美しいダンスを踊れる令嬢です。
ホールの中央で第一王子と赤毛の伯爵家令嬢が組み、今回の課題曲であるジルバに合う曲が演奏され、ダンスが始まりました。
令嬢は、ステップが上手なのは良いですが、王子にグイグイ迫っていきますので、王子の腰が若干引けています。
令嬢が王子の懐に入り、唇を近づけます。
「第一王子様、このキスは事故です」
小声で、なんてことを!
第一王子は、とっさに令嬢を回し、キスという事故を避けました。
「はい、そこまでです」
ダンス教師も気が付いたようで、二人の踊りを止めました。
ダンス教師が、なぜか私の方を見ました。
「フランさん、その手に持ったものを下ろしなさい」
え? 私はダンス用のヒールを脱いで、手に持っていました。
「ヒールは、投げるものではなく、履くものですよ」
教師は、私が赤毛の伯爵家令嬢にヒールを投げつけて、キスを止めようとしたことを見抜いていました。
「はい、すみませんでした」
赤毛の伯爵家令嬢の行動に気がつかなかった同級生からの視線が痛いです。
ダンス教師は手にしたノートに視線を落とし、次のパートナーを考えます。
「次は、子爵家令嬢と組んで、相性を試してみましょう」
名前を呼ばれた子爵家令嬢が、中央に歩み出ました。目立たない令嬢です。
ダンスも普通、容姿も普通、自分から前に出てくるタイプではないので少し損をしていますが、万能タイプの令嬢です。
教師は、ダンスのレベルを王子に合わせた令嬢を、選び、試すようです。
踊り出すと、バランスの取れた、なかなか良いジルバを踊る二人です。
「第一王子様は、あの方と、なぜキスをしなかったのですか?」
踊りながら、子爵家令嬢は、小声で王子に話しかけました。
このくらいのダンスは、彼女にとっては余裕のようで、会話する余裕があるのですね。
「好きな女性の前で、キスなどできない」
うわ! キザっぽく、王子が答えました。
「はい、そこまでです」
ダンス教師が、二人の会話を止めました。
ダンス教師が、なぜか私の方を見ました。
「フランさん、その手に持ったものを下ろしなさい」
え? 私はダンス用のヒールを脱いで、手に持っていました。
「またですか」
教師は、王子の回答によっては、私が王子にヒールを投げようとしたことを見抜いていました。
「はい、すみませんでした」
子爵家令嬢の会話に気がつかなかった同級生からの視線が痛いです。
ダンス教師は、ダンスが上手くて ガツガツしない令嬢を探すため、手にしたノートに視線を落とし、次のパートナーを考えています。
「次は、フラン。貴女との相性を試してみましょう」
「え? 私はダンスの経験がないですよ」
渋々と中央に出ます。
「フラン、冒険者として、僕の攻撃に反応すれば、大丈夫だから」
第一王子が優しく声をかけてくれました。
武闘家との手合わせだと考え、頑張りすぎない姿勢で、ステップに強弱をつけ、相手との間合いを測りながら、懐で華麗なターンを決めます。
「「お~!」」
同級生から、歓声が沸き起こります……実戦ならば、今のターンで、腹にキツイ一発をたたき込めました。
「これは、ダンスじゃない……」
教師がため息をついています。
◇
今日は、第一王子とのディナーが無かったので、早めに離宮に戻りました。
王弟殿下は、庭で、いつもの白いテーブルとイスで、雑誌を読んでいます。
「王弟殿下は、ダンスは得意なのですか?」
「ダンスには、パートナーが必要だ。俺のパートナーがつとまる令嬢などいない」
答えになっていませんね。
パートナーがつとまらないのは、彼が下手なのか、彼が上手すぎるのか、または彼が女好きだからなのか……
彼は、ダンスに興味が無いようで、私がいれたお茶を飲みながら、雑誌のスキャンダル記事をチェックしています。
「そうだ、試せば分かりますよね、踊りましょう」
私の申し入れに、王弟殿下は、私の手をとってくれました。
さすが、彼は女性をリードするのが上手いです。
「王弟殿下、とても上手ですね、驚きました」
「ジルバなんて、中等部以来だ」
二人で楽しく、ジルバを踊ります。
「フランは、第一王子と踊るのか?」
「いいえ、武闘家が戦っているように見えるとのことで、同級生に限らないで、別の令嬢を探すそうです」
「そうか、良かった。俺のパートナーは、フラン以外に、つとまらないようだ」
彼は、女性を口説くのも上手いようです……
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