第26話 婚約者候補の白紙化



「フラン、すまない、僕の婚約者候補から外れてくれ、僕のメイドも解任する」


 学園の廊下で、第一王子から告げられました。



 先日の、王宮ホールで、私が巻き込まれた、いや、やらかした事件が、原因のようです。


「でも、僕と食事を一緒にすることは、友人として継続してほしい」


 それは、第一王子のワガママでは?

 でも、タダ飯を頂けるので、まぁいいですけど。


「僕は、婚約者候補を選びなおすことになった。もちろん、フランも、そのリストに入れるので、考えておいてほしい」


 婚約者候補は、隣国の王女と、私の二人でしたよね。


 私のことは、どうでも良いのですけど、三人目の枠を、私に任せてくれる約束、まだ有効なのでしょうか?



「承知いたしました。私の部屋を、第一王子様の宿舎から、学園の学生寮へ引っ越ししますね」


 そう言って、少し上目づかいで、王子を見ます。


「わ、分かった、引っ越しの費用は、王宮へ請求してくれ」


 第一王子は、私の上目づかいにドキドキしたようで、お財布のひもを緩めてくれました。


 この上目遣いは、冒険者“踊り子”の技です。予想以上のけっこうな効果がありました。


 せっかくの申し出なので、費用は王子に回して、学園の学生寮は仮の住まいにし、王弟殿下のいる離宮へ引っ越すことにします。


    ◇


「フラン、僕は、婚約者候補を白紙化して、選びなおすことになった。貴女も、そのリストに入れるので、覚悟しろ」


 一年生の第二王子が、三年生の教室前の廊下に来て、私に告げました。


 これも、王宮ホールで、私のやらかした事件が、原因です。


「赤いハイヒールの妖艶な美魔女の件は、どうするのですか?」


「あきらめる、僕はあきらめきれないのだが、隣国との関係を考えると……」


 最後は言葉になりませんでした。


 第二王子は、隣国へ婿に行く予定でしたが、第三王子の事件で、先行き不透明な状態になっています。


 婚約者候補を選び直すという事は、隣国へ婿に行く話が白紙化されるのでしょうね。そんな大事なこと、大きな声で言って良いのでしょうか?


    ◇


「フラン、何をしたのですか!」


 第一王子の婚約者候補であり下級生の隣国の王女が、廊下で私に詰め寄ってきました。


「ただでさえ、隣国の私は、立場が悪くなっていますのに、第一王子様の婚約者候補を白紙に戻し、選びなおすと言われたのですよ」


 申し訳ないと頭を下げる以外、私には何もできません。



 取り巻きの令息が、王宮ホールでの事件を隣国の王女に耳打ちします。


「なんですって! 独身王族三名と関係を持ち、さらに中等部の令嬢にまで、手を出したのですか!」


「え! 違います、まったく違います」


 まさかの、ウワサに尾ひれがついて、酷いことになっていました。


    ◇


「フラン、メイドの給料を支払えなくて、すまない」


 学園から馬車で離宮に帰ると、王弟殿下が頭を下げてきました。


 私は、非公式メイドなので、王宮へ出した支払請求が、認められなかったそうです。


「わかりました、第一王子様のメイドとして稼いだ分がありますので、当面は、しのげます」


 ここ2週間ほど、王子のメイドとして、お給料を頂いています。


 王弟殿下のメイドとしてのお給料より、高額だったのは、内緒です。


「学園には、特待生として申請しておいた。成績を落とさなければ、授業料は必要ないから」


 家名を持たないのに特待生とは、なんだか響きが良いです。


 これが物語だったら、これから事件が起こり、特待生が、婚約者である悪役令嬢から、王子を盗る、なんてことを妄想します。


 あれ? でも、私が王子の婚約者になりそうなのに、なんで自分で盗るのでしょうか?


 これは、何も起こらないパターンですね。



「問題は食事代だが……」


「それなら解決しています、第一王子様と一緒にディナーを食しますから」


「それは嫌だな、なんとかならないか?」


 なんだか、彼が、すねています。


「毎日、ディナー後は、ここ来ますから」


「そして、早起きして、モーニングを一緒に頂きましょう」


 子供をなだめるように、説得します。



「ところで、伯爵家令嬢と約束したお茶会は、どうしましょう?」


 街で出会ったときに約束してから、もう二週間が経とうとしています。


「俺の名前で、この離宮に、招待しよう」


「王弟殿下と伯爵家令嬢とのスキャンダルが出ますよ」


「それは困るな。独身王族三名の恋のスキャンダルが、ウワサとして広がっているからな」


「私も監視されていますし、離宮の周囲には騎馬隊が配置されています」


 あ、騎馬隊は、いつもいますね。


「ここに来るのも見られたのか?」


「はい、やましいことはありませんので」


 やましいことが無くても、スキャンダルは出るんですけどね。


 まぁ、王弟殿下とのスキャンダルなら、いいかなって、思っています。


「なぜか、この王国の将来は、フランに握られている、そんな気がする」


「それは、雇い主である王弟殿下の、お考え次第ですよ」


 彼は、腕を組んで考え込みました。



「そういえば、第三王子様の遺骨を拾っていた時、何か考え込んでいましたけど、何かあったのですか?」


「いや、俺の覚悟を自問していただけだ」


 覚悟ですか……まさか、プロポーズの覚悟ですか?


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