第25話 赤いハイヒール事件 独身王族
夜会の翌日、第二王子から、年頃の全ての令嬢に、登城するように通達がありました。
私も登城すると、王宮のホールには、たくさんの令嬢が集まっています。
「王弟殿下や第一王子もいますね」
私は、化粧を落とし、王宮でのメイド服に着替えており、関係ないフリをして、壁際で様子を見ます。
第二王子が壇上に立ちました。
「よく集まってくれた、美しい令嬢たち」
「私は、婚約者との婚約を破棄することを、ここに宣言する」
よく響く声で宣言しました。
ホール全体が静寂に包まれました。
皆さんの視線が、仮初めの婚約者候補の令嬢に向けられます。
「なぜですの?」
仮初めの婚約者候補の令嬢が、理由をききます。
「君は地味だ! 私は、夜会で、素晴らしい令嬢と真実の恋に落ちた」
「それは、どちらの令嬢でしょう?」
「彼女は、名乗らなかったが、手がかりはある。彼女が残したこの赤いハイヒールだ」
「本日、これを履けた女性を、新しい仮初めの婚約者とする」
第二王子が宣言しました。
ホールが、どよめきであふれました。
視線は、第二王子が手にする赤いハイヒールに向けられます。
仮初めの婚約者候補というステータスを望んでいた令嬢にとって、ここでの破棄は、想定外だったのでしょう。
泣いて……いや、泣きマネをしています。
しかし、もう、婚約者候補の令嬢のことなど誰も気にしません。
赤いハイヒールを履いて、自分が婚約者候補になるのだと、気が立っています。
令嬢が一列に並び、第二王子の赤いハイヒールを履いて見せます。これは茶番です。
「なんだ? 赤いハイヒールを履ける令嬢ばかりじゃないか!」
第二王子が声を荒げます。
当然です、令嬢は足が大きくならないよう、規定の木靴で矯正していますから。
令嬢たちが、ヒソヒソと話し合っています。
「第二王子は、令嬢の足が好きなだけでは?」
「やだ、変態じゃん!」
私は、ニヤリとほくそ笑みます。
「男って、ちょろい……」
「あれ? フランじゃないか、どうした、そのメイドの格好は?」
第一王子が私に気が付き、寄って来ました。
「こいつは、王宮では俺のメイドだ」
それに気が付いた王弟殿下も、寄って来ました。
「どうした? そこのメイド、雰囲気が愛しの令嬢に似ているな、この靴を履いてみろ」
第二王子までもが、私の方へ寄って来ました。
「なによあそこ、独身王族が三人も集まっていますわ!」
この状況に気が付いた令嬢たちが、騒ぎ始めました。
「さぁ、フランは誰を選ぶんだ?」
第一王子が詰め寄って来ました。
他の二人の独身王族も、私に詰め寄ってきます。三人に囲まれ、これはピンチです。
「わ、私が選ぶのは……」
「「選ぶのは?」」
ここで、意中の人の胸に飛び込むのは簡単ですけど、大きな事件になってしまいます。
「わ、私が選ぶのは……」
「「選ぶのは?」」
それでも、私は、彼の胸に飛び込みたいです。
でも……
「わ、私が選ぶのは……」
「「選ぶのは?」」
もうダメです、覚悟を決めました。
「私が選ぶのは、この……」
「フラン姉さま、どうしました」
「この伯爵家令嬢様です!」
駆けつけてくれた伯爵家令嬢を、とっさに抱きしめました。
「「えー!」」ホールがどよめきました。
三人の独身王族たちは、口を半開きにして、固まっています。
このスキに、伯爵家令嬢とホールを出ます。
「来ていただき、ありがとうございました」
伯爵家令嬢にお礼を言います。
「まさか、フラン姉さまに、そんな趣味があったなんて知りませんでした」
「突然の告白に、驚きましたが、これから、私もフラン姉さまと一緒に、その道を勉強いたします」
彼女は、顔を赤らめて言いましたが、なにか勘違いしているようです。
◇
「フラン、少し目立ちすぎてしまったな……」
王弟殿下がため息をつきます。
ここは王宮の王弟殿下の執務室です。
以前のまま、残されていました。
お茶道具もそろっていましたので、メイドとしてお茶をいれます。
「すみませんでした」
私も、あれは失敗だったと反省しています。
第二王子へ近づくことには成功したのですが……
「第二王子は、勝手に令嬢を登城させたことと、勝手に仮初めの婚約者候補を破棄したことで、口頭注意処分となった」
「当面は、おとなしくしているだろう」
これは、第二王子を監視する仕事は、当分休めと言う事なのでしょう。
「口頭注意だけですか?」
私は不満げな顔をします。仮初めの婚約者候補を破棄したのは、もっと罪が重いと思います。
「あの令嬢には、第三王子の事件があった後、仮初めの婚約者候補を白紙化すると言って、慰謝料も渡してある。泣いていたのは、令嬢の芝居だ」
「第二王子は、いまだに、赤いハイヒールの妖艶な美魔女を探している。フランも、当面は、おとなしくしてろ」
「はい……」
元気のない声で承知しました。
「そんなに落ち込むな。そうだ、ドレスをプレゼントしよう。あんな妖艶なドレスは捨てろ、すっきりと清らかなドレスの方が似合う、俺が贈るから」
令嬢にドレスを贈れるのは、婚約者だけですが、彼は、それを知っていて、私にドレスを贈るのでしょうか……
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