第24話 赤いハイヒール事件 第二王子



「フラン、次の夜会は僕が主催者だ。僕の婚約者候補として、君も出席してくれ」


 第一王子から言われました。


 今日も、王子の宿舎で、ディナーに付き合っています。



「私はイブニングドレスを持っていませんので、辞退いたします」


 私が持っている服は、学園の制服と、メイド服だけです。


 今も、学園の制服で、王子の横に座っています。


「ドレスは僕が贈ろう、明日、届けさせる」


 ドレスを贈ることができるのは、婚約者だけです。私は、受け取りたくありません。



「いいえ、第一王子様の選ぶドレスは信用できませんので、自分で選んで、支払いだけを王宮に回します」


 これなら、第一王子の接待交際費ではなく、メイドの制服として福利厚生費で処理できます。


「僕にセンスがないというのか?」


「どうせ、露出の大きいドレスを選ぶのでしょ?」


「むむ……」

 王子は黙り込みます。アタリでした。



「では、下着だけでも、ウッ」

「黙りなさい!」


 私は、お皿の上にあったナイフを、王子の首元に突き付けます。


「私が横に座る理由は、第一王子様を護るだけではありませんよ」


「わかったから、ナイフを下げてくれ、護衛兵も緊張しているし、な、お願いだから」



「わかりました、第一王子様の好みだというドレス、話だけは聞きましょう」


 私は、ある考えが浮かびました。


「ただし、色やデザインは、ハイヒールを含め、私がトータルコーディネートして、支払いは王宮に請求しますから」


 ふふふ、せっかくの機会なので、最大限に利用させてもらいましょう。


    ◇


「オォォォ! あの令嬢は誰だ」


 私が入場すると、出席者から感嘆のため息が出ました。


 深紅のイブニングドレスとオペラグローブ、スリットは深く、金糸の刺しゅう、胸のふくらみはメロン盛り、銀髪に深紅のルビーをあしらった髪飾り、目尻を少し上げて、まつ毛を盛り、ルージュはツヤのある深紅です。



 第一王子主催の夜会が、王宮のホールで開かれています。


 来賓として、第二王子、王弟殿下が出席しており、この独身王族という豪華メンバーに釣られて、国内各所から令嬢がたくさん集まっています。


 その中で、きわだって美しく、妖艶な令嬢、それが変装した私です。


 同級生のメイク師、冒険者“踊り子”から習った技で作り上げたこの容姿で、第二王子を誘惑する計画を開始します。



 楽団による演奏が始まりました。


 早速、第二王子から誘われて、ダンスを踊ります。


 彼は、クリ毛のイケメンです。

 学園の高等部一年生で、隣国へ婿に行く予定ですが、王国内には仮初めの婚約者候補がいます。


「僕に、ネームカードを頂けませんか?」


 ネームカードは、令嬢の連絡先が書いてある、小さなカードです。


 相手を気に入れば、ダンス後に、カードを交換するのが、最近の流行りです。


「ネームカードなんて必要ありませんわ。第二王子様とは、またすぐに会う、そんな気がしますから」


「僕は、すぐにでも、貴女に会いたいんだ」


 第二王子は、もう私にメロメロです、これは落とせました。この浮気者が!



 次は、王弟殿下から声をかけて頂きました。


「正体を隠しているつもりだろうが、フランだろ」


「第二王子に近づくためです」


 彼は、私だと気が付いたようで、落とせません。この頑固者が!


 うれしいような、寂しいような、複雑な気持ちです。


「なぜ、私だと分かったのですか?」


「王族の一部には、相手のオーラが見える力を持つ者がいる。相手の、内面の美しさを見ているんだ」


 そういえば、聞いたことがありました。冒険者“踊り子”も、魔力の色みたいなものを、上書きするのは難しいと言っていました。



 今夜、私はモテています。ひっきりなしに、令息からダンスに誘われ、口説かれます。


 美人の令嬢たちが、毎回、こんな高待遇を受けていたなんて、驚きです。


 心が弱いと、クセになって、段々と化粧を濃くする気持ちが分かります。



 もう一度、第二王子からダンスに誘われました。


 二度踊れるのは自分の婚約者候補、第二王子の場合は仮初めの婚約者候補だけであること、彼も教わっているはずです。


 無作法ですが、もちろん、踊りました。計画どおりです。


「私は、もっと第二王子様のことが知りたいです」


「僕の婚約者候補にしよう、地味な令嬢との婚約はすぐに破棄するから」


「素敵、うれしい」


「このまま俺の部屋に来ないか、貴女に似合う宝石があるんだ」



 ここが、しおどきです。


「残念ですが、時間になってしまいました」


 驚く第二王子に挨拶し、退場します。


 廊下に出ても、第二王子が追いかけて来ます。


「あ、私の靴が!」


 隠しておいた赤いハイヒールを、ワザと落とします。計画どおりです。


 第二王子がそれを拾う間に、隠れます。

 王宮には、メイドである私の部屋が残されていましたので、自室に隠れます。


    ◇


「令嬢は、見た目なのですね……」

 なんだか残念です。


 本当の私は、メイドの仕事や学園の勉強が忙しく、オシャレなどする時間がありません。


 冒険者“盗賊”ということもあって、地味です……泣きそうです。



「コンコン」ドアがノックされました。


「フラン、俺だ」王弟殿下の声です。


 まさかです。


「どうされたのですか?」


「フランの事が心配になった」


 王族がメイドの部屋を訪れるなんて、ありえません。


「誰かに見られませんでしたか、早く中へ」


 男女が二人きりになる姿を見られたら、スキャンダルになります。


「随分と派手に化けたな」


 そう言われると、少し恥ずかしくなりました。



「冒険者“踊り子”の技です。こんな姿、お嫌いなんでしょ?」


「女性がきれいになるのを邪魔するような、そんな野暮な男じゃない」


 こんな夜は、彼の優しさが身に染みます。


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