第23話 冒険者“踊り子”の化粧



「フラン、その絶世の美人はだれだ?」


 第一王子が、見ほれています。


 今日は、王子の宿舎に、知り合いのメイク師から来ていただいています。



「メイク師の方です」


 冒険者学校の私の同級生なのですが、メイクによって、私がうらやむほどの、絶世の美人に変身しています。


「そうか、僕に紹介するという、三番目の婚約者候補か?」



 そうじゃありません。人の話をちゃんと聞いてください。


「本日は、宿舎で働く令嬢たちに、メイクを教えていただくための先生として、来ていただきました」


 私が紹介すると、メイク師さんは美しいカーテシーで挨拶しました。


「美しい」


 第一王子が感心するほど、メイクだけではなく、所作も美しい、完璧な令嬢です。



「僕の婚約者候補に加えたいと思うが、フランは良いか?」


「なぜ私の許可が必要なのでしょうか?」


「フランは、僕の母親代わりだからだ」


 いやいや、違いますから、せめて婚約者候補だからと言ってほしかったです。



「良く見て下さい、このメイク師は男性ですよ」


 隠していますが、このメイク師は、冒険者“踊り子”で、れっきとした男性です。


「え?」


 やっと、第一王子が話を聞いてくれました。


 良く見て……良く見ても美しい令嬢ですね……どうやったら分かって頂けるのでしょう?



「僕の恋に、性別など関係ない」


 第一王子は胸を張って言います。


 その通りなのですが、王族の婚約者候補とするのならば、もっと考えて下さい。


「恋とは障害が多いほど、燃え上がる」


 メイク師さんを抱きしめました。


 第一王子は、騎士団長ジュニアと、抱きしめ方を練習したかいがあって、美しく抱きしめています。


 周りにバラの花が咲き乱れる、そんな幻覚が見えます。


「僕は、この令嬢と駆け落ちする覚悟もある」


 そんな覚悟はいりません。それに、駆け落ちは、王族のNGワードになっているでしょ!



「王族でしょ、後継ぎはどうするのですか?」


 今、王族の王位継承者が減っていて、跡継ぎは早急に解決すべき課題になっています。


 第二王子は隣国へ婿に、第三王子は亡くなってしまったし、王弟殿下は聖女を待って独身のままだし、前途多難ですよ?


「母親として、孫の顔を見たいのは分かる。では、フランを側室にする」


 考えが破綻しています。私も孫の顔が見たいのですけど、それを私が産むのですか?


 私は、第一王子の母親として、王子が、私が考えているあの令嬢と結ばれて、私に孫の顔を見せてくれたら……いや、そういう話じゃありません。



「そうだ、第一王子様に化粧しましょう」


 第一王子は、金髪のイケメンで、化粧モデルとしての逸材です。


「それは、良い案です」


 私の提案に、メイク師も同意してくれました。


「僕は男だぞ」

「化粧に、性別など関係ありません」


    ◇


 メイク教室に、生徒の令嬢が集まっています。


 モデルは、第一王子だと聞いて、独身だけでなく、既婚者も集まり、予定より多くの令嬢で、会場にした大きな部屋が埋まっています。


 実技をしながらの講義ですが、集まった令嬢たちは、ため息をつき、第一王子に見ほれて、ぜんぜん話を聞いていません。



「これは誰だ?」


 第一王子は鏡を見て驚きました。


 周りの令嬢たちの目が、ハートになっています。

 いつの間にか集まっていた令息たちも、目がハートになっています。


 それほどまでに、性別不明な中性イケメンが出来上がりました。


「これが冒険者“踊り子”の技ですか、恐ろしいですね」

 メイク師を小声で褒めます。


「まだまだよ。フランなら、もっと魅力的で妖艶な美人に出来るわよ」


 メイク師が、遠回しに、私は美人だと、ほめてくれました。うれしいです。


 いや、危ないです、人を持ち上げるこの会話も冒険者“踊り子”の技です。


「ほれた、この令嬢を、僕の婚約者候補にする」

 第一王子が宣言しました。


 ナルシストか!


    ◇


「フランなのか?」


 王弟殿下に会いに行き、私の薄めの化粧を見せました。なかなか良い反応です。


「どうです、私にほれましたか?」

 口を開いたままの彼にたずねます。


「う~ん、素顔の方が好きだな」

 え、好き? なんだか恥ずかしいのですが。


「女性の見た目は、気にしないのですか? 美しい女性が好みかと思っていましたが」


「う~ん、女性は……品格だから」


 そうなんだ……せっかく、化粧を習ったのに。



「ついでに報告します。冒険者“踊り子”の技で、第一王子様も落ちました」


「え? 男性の踊り子だったろ、それでも第一王子は、落ちたのか?」


「女性だったら、婚約者候補にしたようです」


「恐ろしい技だな」


「今度、冒険者“踊り子”を、王弟殿下に会わせてもよろしいですか?」


「う~ん、今日のフランの質問は、答えるのが難しいものが多いぞ」


 好色殿下でも、妖艶で美しい“男性”は、アプローチすべきか、迷うようです。



「もしも、私が男性だとしたら、どうします」


「俺に後継ぎは必要ないから、結婚に問題はないな」


 どうして私と結婚することが前提なのです……


「でも、聖女が男性なら俺はどうなるんだ? 困った」


 私が男でも結婚してくれるのに、聖女が男だと困るという、彼の気がしれません。



 もしも、冒険者“踊り子”から習った、魅力的で妖艶な美魔女に変身する技、あれで化粧をしたら、どんな反応をするのでしょうか?


 興味が湧いてきました。


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