第21話 隣国の王女、騎士団長ジュニア



「第一王子様、素敵なお庭ですね」


 隣国の王女が、第一王子の腕に寄り添い、胸を押し付けました。


 強引ですが、男性の気を引くには、効果的な方法です。



 ここは学園の敷地内にある王族用の宿舎で、二人は、小規模な庭を、並んで散歩しています。


 隣国の王女は、第一王子の婚約者候補であり、本命と言われている令嬢です。


 私は、二人の後ろを、第一王子のメイドとして付き従います。


 確かに手入れされた庭ですが、所詮は宿舎の庭であり、素敵とウットリするほどではなく、清潔感のあるシックな庭です。



「すまない、腕がぶつかった。もう少し、離れてくれないか」


 第一王子の腕が、王女の胸にぶつかり、二人は少し離れました。


 王子のイケメン顔がだらしなく崩れて、まんざらではない顔をしています。


 こいつ、むっつりスケベかもしれません。



「体を触れるのは、マナー違反になる」


 あら、第一王子の中から出ようとした獣を、理性が中に押し戻したようです。


 でも、隣国の王女は、学園の下級生ですが、胸はもう一人前です。


「衣服の上からですので、私は気になりませんよ」


 衣服の上からでもダメです!


 第一王子が触ってきたように言わないでほしいです。

 そうではなく、貴女が胸を押し付けてきたのでしょ!


 貴女が気にならなくても、男性にとってボディタッチは異常に気になるものなのです。



「貴女が不快な思いをしなかったのなら、良かった」


 だ~か~ら、第一王子が触ったのではなく、隣国の王女が押し付けてきたんです。


 ハッ、まさか!

 第一王子は、もう一度押し付けて来いと、リクエストしているのですか?


「お友達のカップルは、抱きしめ合うのが、普通のようなんです」


「そうだったのか」


 いいえ、普通ではありません!

 貴女の周りは、異常な色ボケなのです。


 第一王子も、ボディタッチは、マナー違反だと言ったばかりでしょ!



 ん? 視線を感じます。遠くから、隣国の王女の様子を見ている令息がいます。


 取り巻きさんでしょうか、ご苦労なことです。



「抱きしめ合うとは、どんな具合なんだ?」


「はい、私が第一王子様の胸に顔をうずめますので、第一王子様は私の背中に腕を回してください」


 こ、こいつら! 私は、握りしめた拳を、第一王子へ見せます。


「いや、待ってくれ」


 第一王子が、隣国の王女から飛び離れました。自分のミゾオチを、手で守っています。これは、条件反射ですね。



「もう少しでしたのに」

 隣国の王女が、小さくつぶやきました。


 どうも、隣国は、魅了の術が、変に広まっているようです。


 今日は、とても疲れる日です。


    ◇


 やっと、隣国の王女を帰して、第一王子の私室に戻りました。


「フラン、僕は隣国の王女を、ギュッと抱きしめた方が良かったのかな?」


 第一王子は、名残惜しそうに、きいてきました。


 そんなこと、婚約者候補でもある私に、きく?



「僕は、令嬢の抱きしめ方なんて、習っていないからな」


 そんなこと、誰も習っていません。


 あれ? 習っていないのに、なんで、男性は女性を抱きしめることができるのでしょう?


「フラン、練習に付き合ってくれないか?」


 メイドとして、お茶をいれている私に、いつものように、無茶ぶりが来ました。


「練習なら、騎士団長ジュニアとしなさい」


 第一王子に、皮肉を込めて返します。


「練習じゃなければ、付き合ってくれるんだね、良かった」


 この前向きな考え方、素晴らしいです。

 方向性さえ間違えなければの話ですが。



「隣国の王女様の取り巻きが、第一王子様を、恨めしそうに見ていましたよ」


「あ~、彼らは、隣国の王女が王妃になることを見越し、良い地位をもらいたくて、今から彼女にヨイショしているんだ。僕らと同級生だよ。気にしなくても良いよ」


 高等部三年生は、大変なようです。


「隣国の王女様は、一つ下の学年でしたよね」


「そうだな。クラスのほとんど全員に婚約者がいて、ラブラブな教室なので、彼女は肩身が狭いだろうな」


 それは、地獄ですね。


 焦っていることには、少し同情しますが、第一王子に胸を押し付けてはいけません!


    ◇


「お帰りなさい。騎士団長ジュニアとの練習は、いかがでしたか?」


 第一王子の私室で、お茶の準備をしていると、王子が一人で戻ってきました。


 王子は、令嬢を上手に抱きしめる技術を上げるぞと意気込み、騎士団長ジュニアを誘って、庭のスミで練習していたのです。


「良かった。ホホが触れたときは、ドキドキした」


 第一王子のホホが、少し赤くなりました。


 どういう事? ホホが触れた? ドキドキした? 二人に、何があったのでしょうか。



「え? まさか、手の位置はどうしました?」


 私は、状況が想像できなかったので、詳しくたずねました。


「腰に回すのと、背中に回すのと、両方試してみたけど、どちらも良かった」


 聞いた内容で、二人の状況を想像してみます。


 イケメンが、イケメンを抱きしめている姿、バラの花びらが舞う雰囲気、悪くは無いのですが、最初の目的から、外れてきていませんか?


 騎士団には、男性同士でチークダンスを踊る文化があると聞いています。


 第一王子には、男女を問わず、人を魅了する素質があるのでしょう。



 でも、私は、イケメン第一王子の婚約者候補で、そばにいる時間も長いのに、恋愛感情が全く湧きません。


 どうしてだろうと、不思議に思っていましたが、たぶん、王弟殿下という、私のアンチ魅了の魔法が、防いでくれているのでしょう。


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