第18話 隣国への報復
「あら、管理人の老夫婦がおりませんね」
離宮に帰ると、いつもと様子が違いました。
「今日、明日は休みだ、二人で旅行に行くそうだ」
「王弟殿下の監視がいないのですか?」
「なんだ、老夫婦が、俺を監視していることを知っていたのか」
「毎日、俺がゴロゴロしているので、気が緩んだのだろう」
「王弟殿下のお芝居だったのでしょ。冒険者“盗賊”を甘く見ないでください。ということは、今日、隣国へ忍び込むのですね?」
「それも気が付いていたのか」
「私も一緒に行きます。冒険者“盗賊”の技は役に立ちますし、途中に早馬も確保してあります」
「さすがだ、手を貸してくれ、あの侯爵家へ倍返しする」
◇
旅人用のマントを羽織り、早馬を飛ばして、抜け道を走り抜けます。
深夜、隣国の侯爵家へ忍び込みました。
前回、屋敷を訪れた際、構造・間取りを頭に入れており、カギの解除もスムーズです。
まずは、地下を調べます。
しかし、最悪の事態が待っていました。骨まで焼けた遺体を発見しました。
「やはりか……」
「鑑定結果、第三王子です……」
二人で手を合わせます。覚悟はしていましたが、若者の恋心を悪用した隣国に、無性に腹が立ちます。
王弟殿下は腰の革袋に、骨を納めました。
全部は入りませんでした。
あれ? 彼は、手を止め、腕を組んで何か考え込んでいます。
◇
彼の考えがまとまったようなので、階段を上がり、侯爵の生活エリアに向かいます。
「血の匂いがします」
サビた鉄のような、微かな匂いです。
「扉が開いている部屋だな」
夜中なのに、部屋の扉が開いています。
そっと、扉から室内に入りました。
侯爵夫婦の寝室です。ベッドの上に、血に染まった二人が横たわっています。
そして、その横に、短刀を手にした留学生の男爵家令嬢、いや、隣国の侯爵家令嬢が、立っています。
「フラン……」
理解し難い現場を見て固まっている私を、隣国の侯爵家令嬢は見つけたようです。
「第三王子様?」
見た目は、あの令嬢ですが、雰囲気も、鑑定結果も、なぜか第三王子です。
「まさか、第三王子の記憶を、令嬢に移したのか、無茶しやがる」
王弟殿下が、悔しそうに言いました。
「王弟殿下、僕は、王族の知識は渡しませんから。最後に自分でケリをつけます」
「……わかった、見届けよう」
これは、王弟殿下の優しさなのでしょう。
「フラン、伯爵家令嬢のことを頼む」
そう言い残し、第三王子が部屋を出ます。
「キャー、お嬢様!」
夜勤のメイドが、異常に気付いたようです。
「侯爵夫妻は、僕が処罰した。第三王子の恨み、ここに果たす!」
「止めてください、お嬢様、キャー!」
メイドの叫び声の後、隣国の侯爵家令嬢の倒れる音が聞こえました。
「たしかに見届けた。フラン、帰るぞ」
「はい」
◇
後ろ髪を引かれる思いを振り切り、屋敷を後にし、月明りの中、早馬を飛ばします。
私たちは、無言で、前を見続けます。
抜け道を走り抜けた時、朝日が昇りました。
今日も青空のようです。
早馬を換え、離宮に向かいます。
◇
離宮の裏庭にある墓碑の前です。
墓碑の影が真下に落ちています。
王弟殿下は、腰の皮袋を、墓碑の中に納めました。
「良いのですか、第三王子様は追放されたのでは?」
「最後は、王族として責任を果たした、違うか?」
「今夜のことは、誰にも言いません」
「そうしてくれ、隣国の侯爵家の犯罪と、第三王子の最後は、俺が、いつか必ず、明らかにするから」
風が止んでいます。
「真実の愛って、なんなのでしょう? 最後に、伯爵家令嬢を頼むと、そう言っていました」
「わからんが、人が最後に思い浮かべる女性が、本当に愛した女性なのかも」
「でも、伯爵家令嬢は、第三王子を愛してはいませんよね」
「身も蓋もないことを言うな。男に花を持たせてやってくれ」
二人で、墓碑の前にヒザをついて、第三王子の冥福を祈ります。
「俺は寝る。フランも休め」
「私は、どうしたら、王弟殿下の心を慰めることができますか?」
「……俺たちは、負けていない」
「俺たちの戦いは、始まったばかりだ……ですか? 青臭いですね」
「もしもだ、俺が恐怖の大魔王になったら、フランはどうする?」
「私は、喜んで戦います。そして大魔王を封印して、勇者になりますって、あれ? 聖女になるのかな? すみません、寝不足で、頭が回りません」
大魔王を封印するのが、聖女。
大魔王を倒すのが、勇者。
まさか、三角関係? わかりません……
私は、笑ってごまかしました。
「そうだな、フランがいれば、王国は安泰だ。では、寝るか」
「あれ? 寝るって、ここで……ですか」
「そうだ、変か?」
ビーチチェアへ横になった王弟殿下が答えます。
「では」
私は、横に敷かれたビーチマットで横になります。
冒険者“盗賊”が無防備で寝ることはありませんが、彼の横だと、安心して横になれます。
◇
「フランさん、そろそろ、屋敷に入って下さい」
老夫婦から声をかけられ、目を覚ましました。
私の上に、彼のマントがかけられていました。
王弟殿下は、横で本を読むフリをしながら、私をのぞき見しています。
「王弟殿下、本がさかさまです」
あわてて本を直した彼が、可愛くて、私は微笑んでしまいました。
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