第16話 第一王子との出会い
「第一王子は、どこにいる?」
私は、隣の席の令息にたずねました。
「は?」
令息は、不思議そうな顔をしています。
私は、王立魔法学園の高等部三年生に、入学しました。席は教室の最後尾です。
初日は、オリエンテーションだけで、正式には、来週から学園生活が始まります。
クラスの令嬢の視線が痛いです。これが、新しく入ってきた令嬢への洗礼なのでしょう。
言葉遣いを、冒険者学校時代に戻して、防衛線を張ります。
「このクラスに、令嬢を手玉に取る鬼畜のような第一王子がいるから、オキュウをすえて来いと言われたのだ」
王弟殿下から言われました。
「それを聞いたら、僕は何も答えられない……」
この令息は、金髪でイケメンです。
「そうか、オメェは第一王子の取り巻きだったのか、すまなかった」
聞いた相手を間違えたようです。
「いや、貴女が謝ることはない。そのウワサを吹き込んだ人物が、謝るべきだ」
この令息は、意外に紳士です。
「その人物を教えるわけにはいかない。だが、教室を見渡しても、小者の悪党はいるが、ラスボスが見当たらない。聞いた話は、裏を取る必要があると思っている」
冒険者として、人を見る目はあります。しかし、鬼畜な第一王子がどなたなのか、見抜けません。
「そうですか、人を見る目を持っているようですね。ちなみに、僕の評価はどんな感じですか?」
令息がたずねてきました。第一王子の取り巻きだろうと、ソンタクを言うつもりはない。
「オメェは、いいやつだ。ここに来たばかりのオレを、密かに護ってくれているだろ」
クラスの令嬢が、私に意地悪しようとするのを、この令息が、密かにけん制してくれています。
「僕を高く評価してくれたようで、うれしいよ」
令息が、優しく微笑みました。この笑顔に落ちない令嬢は、いないでしょう。
「オメェ、なかなかのイケメンだな。王子の取り巻きなんかしなくても、けっこうモテるぞ」
「そうかな?」
謙虚な令息のようです。
「あぁ、でも、成績が悪いと、就職先が問題かもな」
「なぜ僕の成績が悪いと思った?」
また優しく微笑んできました。今度の笑顔には、何か意図が隠されている気がします。
「成績の良いヤツは、教室の前の席に置いて、成績が悪いヤツは後ろの席なんだ」
「オメェとオレの席は、最後尾で、しかも皆から少し離されている」
なぜか、他の生徒と、ワザとらしく席が離されているのです。
「オメェ、もしかして問題児か?」
「まぁ、ある意味、問題児かもな」
どこにでも、突っ張る男子というヤカラがいるのですね。
「心配するな、オレを護ってくれたお礼に、オメェを、オレのパーティーメンバーにして護るから」
「僕をパーティーメンバーに加えてくれるのか、うれしいな」
令息は、やせて見えますが、必要な筋肉がちゃんと付いています。これは、陰で体を鍛えている証拠です。
「では、リーダー。貴女は、自分のことを“オレ”と呼ぶのはなぜですか?」
「お手本にしていた貴族が、自分の事を“俺”と言っていたからだ。高貴な貴族は、自分のことを“オレ”と呼ぶんだろ?」
王弟殿下の口癖を真似ただけです。
「なるほど、制服の仕立てが王族並みに上等であること、さらに、貴女のフランという名前、どこかで聞いたことがあると気になっていましたが、これでつながりました」
何を言っているんだ、この令息は?
「おーい、騎士団長ジュニア、ちょっと聞いてくれ」
席が前の方の、いかにも成績優秀そうな令息に、この問題児は、大胆にも声をかけました。
「僕は、この銀髪で青緑の瞳を持つフラン嬢を、婚約者候補に加える」
「「えぇ!」」
私だけでなく、クラス中が、驚きました。
「勝手に決めんな!」
私は、令息に文句を言います。
「第一王子様に対して敬意を払え、平民が」
騎士団長ジュニアと呼ばれた令息が、私に怒っています。
「うるせぇ、同じ生徒だろうが! たとえ第一王子だろうが……え? 第一王子様……」
私の思考が、一瞬、無限ループに陥りました。
「オメェ、第一王子なのか?」
「そうですよ、リーダー」
「リーダーは、今から僕の婚約者候補です」
「平民と王族は結婚できないだろ」
冷静に返しますが、それ自体が、パニックになっている証拠です。
「王弟殿下がほれ込んだ令嬢なら、もう平民ではありません」
しまった、バレてる。陰で支えるクエストでしたが、思いっきり表舞台に出てしまいました。
「フランは学生寮ですよね。フランを僕の専用メイドとして雇いますので、今日から僕用の屋敷に移り住むこと。そして、王妃教育を受けること。いいですね、リーダー」
「どういうことですか?」
私の理解が追い付きません。
「フランは、僕の同級生であり、メイドでもあり、婚約者候補でもあり、そして僕の冒険者パーティーのリーダーなのです」
「そういう事ではなくて!」
どういう事なのか、自分でも分かりません。
「オメェは、令嬢を手玉に取る鬼畜のような第一王子だ」
負けたヤツの、捨て台詞を吐き、私は降参しました。
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