第15話 離宮生活が始まる
「おはようございます、王弟殿下」
眠っている彼に声をかけます。
離宮にある王弟殿下の寝室、小さな窓のカーテンを開けると、まぶしい日差しが差し込んできました。朝日が昇ったようです。
「もう少し……」
眠そうな声です。
私は、たった一人のメイドとして、王弟殿下を起こします。
「早起きは基本ですよ」
私室側の大きな窓を開けて、バルコニーにいる鳥たちを確認します。この鳥は、通信用であり、魔法で作られています。
「王弟殿下、通信が入っています。ちゃんと確認してくださいね」
鳥の足に付けられた魔法のチップを、私室に続いた寝室側にまだいた彼に渡しました。
ここも、ホテルの大きなスイートルームのような作りです。
「だんだんと、母親みたいになってきたな……」
目をこすりながら、彼がつぶやいています。
バルコニーから、外を眺めます。離宮は、高台の上に建てられた王族の別荘です。
二階建ての屋敷を中心にして、周囲には庭が広がり、敷地の境界には塀があって、外から中が見えない作りになっています。
離宮の場所は、王宮からは少し離れていますが、王立魔法学園から近い場所にあります。
「軟禁生活ですが、バカンスに来ているような雰囲気ですね」
「そうだな、もっと早く来ればよかった」
外を眺める私の横に、王弟殿下が、立ちました。
朝日に照らされる彼の横顔に、少しドキッとします。見慣れたイケメン顔なのに、変ですね。
「今日から、私は学園の寮に移り住みます」
王弟殿下の指示で、王立魔法学園の高等部三年生になるからです。
でも、離宮にある私の部屋は、そのままにしておきます。たまには、ここに帰ってくるつもりだからです。
ここからも通えますが、学園内の宿舎に住んでいる第一王子を監視するため、学生寮に住む予定なのです。
着替えた彼が、私室に出てきました。
ここでは外交行事がないので、袋みたいに上下がつながった砂色の服に、黒のベルトを巻いただけの、簡素な服だけで過ごしています。
王族の威厳など、少しもありません。
「私がいない間は、屋敷を管理されている老夫婦さんの言う事を、ちゃんと守って下さいよ」
離宮は、管理人として老夫婦に住んでもらい、掃除や手入れをお願いしていました。
そこに、私たち二人が転がり込んできた形です。
常駐するメイドがいないので、食事の世話もお願いしています。
毒見係もいませんが、王宮で選んだ老夫婦は、信頼できる人たちとのことです。
「毎日、お風呂に入って、着替えしてください」
イケメンなのに、実生活はグータラです。これは秘密事項です。
「着替えは、洗濯して、クローゼットに入れてありますから」
そんな彼を、母親のように、しつけます。
たぶん彼は、そんな私の言葉を、面倒だと、不貞腐れた返事をすると思います。
「寂しくなるな……」
あれ? 意外な返事です。また、少しドキッとしました。
「土曜日には戻りますので、それまで、いい子にしているんですよ」
寂しいのは、私も同じかもしれません。
この一カ月、ずっと彼と一緒に過ごしてきたからかな、この気持ち。
よし、決めました。平日でも、時間を作って、ここ、離宮に戻ってくることにします。
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